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花見の丘

 サマルの丘。この場所は毎年春になると、数十本の桜が咲き乱れることで有名な場所だった。

 桜が咲けばやることは一つ。

 花見である。


 今日は喫茶店やすらぎや、雑貨店うさぎの里などのマナと仲の良い店仲間で、桜を見ながら料理を食べ、とことん騒ぐ日だった。

 

 シートを敷き、上を見上げれば桜の花。そして、そこから数枚ずつ落ちてくる花びらが今日の花見を更に盛り上げていた。


「この日のために、腕によりをかけて重箱にお料理を詰めてきましたよぉ」

 パカリと開けた三段重ねの重箱の下段には【おにぎり】。中段には【から揚げ】【タコの形に切られたウィンナー】【卵焼き】など色とりどりの料理が敷き詰められ、上段には、緑・白・赤の三色団子が収まっていた。

 

 目にも鮮やかなそれは、その場にいた全員を楽しませる。

「流石は喫茶店の店長。美味しそうだわぁ」

 うさぎの里の店長、かなえがウィンナーをつまみ食いしようとするのを、マナは軽く手の甲を叩くことで静止する。

「叶さんは何を作ったんですか?」

「私は普段から、スーパーの惣菜に頼る女なんだから、期待しないでよね」


 手の甲をさすりながら大きめの保存容器を取り出す。蓋を開けると、中身は【マリネ】だった。

 野菜はタマネギ・パプリカ・ニンジン。そして、白身の魚は薄く切られて入っていた。

 マリネ特有のお酢の香りが食欲を刺激する。

「美味しそうじゃないですか!」

 マナの褒め言葉に、自然と叶の表情がほころんだ。

 他の人たちも、【いなり寿司】や【チキン南蛮】、【日本酒】、【焼酎】これだけあれば、騒ぐ準備は完璧だった。


「えー、それでは今からお花見を開催します。日頃の疲れを癒しましょう。カンパーイ!!」

 マナの音頭に合わせて、それぞれが持つコップを掲げる。


 そして花見は始まった。


 一杯目は一瞬でなくなり、二杯目の酒を注ぐ。いなり寿司に手を伸ばす。から揚げをつまみに焼酎を煽る。

 それぞれが自分のスタイルを取り始める。

 マナも叶のマリネを食べつつ思う。

(花より団子とはよく言ったものです)

 決して桜を見ていないわけではないのだが、どうにも目の前の料理に目が行っている。それも醍醐味だと割り切って、まずは空腹を満たす。

 叶は、普段は料理をしないと言っていた。だがこのマリネは、絶妙な味加減がなされていた。故に、考えられるのは料理は出来るがしないのか、この日のために練習した成果なのかだろう。しかし、どちらにしても美味しいことには変わらず、箸は止まらない。

 

「もう少し酒もってくりゃよかったな。この調子じゃ、あと二時間で尽きるぞ」


 一時間を過ぎたころには、皆それなりに出来上がっていたが、それでも足りないと宣言するあたり、本当にまだ二時間以上宴会を続けるつもりなのだ。

 マナも普段は進んで飲まない酒を飲み、他愛ない話で笑う。


 話の合間にふと空を見上げると、どこまでも広がった青空に桜の花びらが大量に舞っていた。そしてその一枚が、偶然にもマナの持つグラスに落ちた。花びらは沈むことなく静かに浮いている。

(こういう偶然も風流ですよね)

 マナは小さく笑ってグラスを傾ける。

 皆で持ちよった料理はどれも心が籠った一品ばかり。お酒も美味しく景色も美しい。眼下には、いつも自分がいる喫茶店やすらぎや街並みも見える。愚痴も馬鹿話も尽きることなく笑う友人たちもいる。

 プログルブオンラインが無ければ出会うこともなかった人たち。この先も、ずっとプログルブオンラインにログインし続けてくれるかはわからない。しかし、『飽きたのでやめる』ということは無いだろうとマナは確信している。イベントの制作にも慣れ、喫茶店やすらぎにも常連客が付き、自分の料理の腕も上がっている。この先も、様々なことがあるだろうが、楽しむ自信もある。

 だがひとまずは、大いに飲み、大いに食べ、今日のこの花見を余すところなく満喫するマナだった。                              



『プログルブオンライン』というVRMMORPGの中で、喫茶店を経営する人工知能の少女マナ。その喫茶店に、さまざまなプレイヤーが客として訪れ彼女の料理に舌鼓を打つ。そして彼女は料理を提供しつつ様々なたちと会話を楽しむ。

 


最後まで読んでいただき有り難うございます。


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