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勇気のバレンタインデー

 恋する人が最も緊張するイベント、バレンタインデー。今日はその決戦の日だった。

 しかし、間の悪いことに今日は日曜日。学校などでチョコを渡すのであれば、前々日か明日になってしまう。

 王道通り金曜日に渡すか。それとも月曜日に渡し、相手にインパクトを与えることを選ぶかだった。



 休日の夕方に女性プレイヤーが一人、喫茶店やすらぎの窓際のテーブルに座って外を見ていた。彼女は一時間ほど前から時折ため息を吐き、物思いにふけっている。

 その姿が気なっていたマナは、彼女テーブルに一枚の皿を置く。

 カチャリと音のなった方へ視線を落とす女性。そして次にマナを見る。

「今日はバレンタインデーですからね。料理をご注文していただいたお客様にサービスしてるんです」

「私、コーヒーしか頼んでないですよ?」

「サービスですよ。悩み事には甘いものがおススメですからね」

 マナはそれだけ言ってカウンターに戻っていった。

 去っていくマナの背中を見送ってから、改めて皿を見る。そこにはカットされた【チョコレートケーキ】と、その隣には生クリームとミントで綺麗に飾ってあった。

 ケーキはシンプルに見えた。断面はチョコスポンジとチョコクリームが交互にサンドされていて、上部分にはチョコレートがかけられている。

 

 フォークでケーキを少し切る。上にかけられたチョコは固まっていて、パリッと音を立て割れる。スポンジはフワフワで美味しそうだった。

 一口食べてみると、甘味の中にもチョコの苦さが引き立たせていた。

ケーキを飲み込み、そこでフォークを置き、もう一度何かを考えてから立ち上がる。


 カウンターで食器を洗うため、下を向いていたマナは誰かがカウンターにやってきた気配に気が付いた。カチャリとカウンターに食器を置く音に顔を上げる。

 そこには先ほどケーキをサービスした女性がカウンター席に座るところだった。

 カウンターに座った女性は、マナに一言、

「作業しながらで良いんで、話を聞いてもらえませんか?」

 そう言ってマナを見つめた。

「私でよければかまいませんよ」

 短く答えて、作業を続ける。自分が下手に反応するよりも、『あくまで自分は作業しているから勝手に話してくれ』という方が良いと判断できたし、何より本人がその方が話しやすいのであれば、そうするのが良いだろう。

 女性はコーヒーを一口飲み話し始める。


「今日ってバレンタインでしょ? だから一昨日クッキーを渡そうと思ったの。チョコじゃ芸がないかと思って」

 再度コーヒーを飲み、ため息を吐く。

「でも、勇気が無かったのよ。緊張も躊躇ためらいも無いと思ってたんだけどね。渡す相手が目の前にいるだけで、緊張して躊躇っちゃたのよ。そのままウダウダ過ごしてたら今日になっちゃった。……色々考えちゃったのよね。滅多に料理なんてしないし、美味しくなかったら、相手の好みじゃなかったらどうしようって」

 一通り話したことでスッキリしたのか、フォークを手に取りケーキを食べ始める。

 

 洗物を終えたマナが一つ質問をする。

「そのケーキ、美味しいですか?」

 問われた女性は目の前のケーキを見つめ、最初に食べたときの感想を思い出す。

「美味しいですよ。スポンジだってやわらかいし、チョコクリームだって美味しいです」

 マナは微笑む。

「私も、このお店を開くまでは料理なんて作ったことはありませんでした。練習の時だって味付けを間違えるし焦がすし、散々でした。オープンして初めてお客様に料理を出した時の緊張は今も忘れません」

 ひと呼吸。

「何事も勇気です。無いなんてことはありません。【行動すると決めた勇気】、【行動しないと決める勇気】どちらにしても苦労は付いてきます。その苦労に見合うだけの満足を手に入れられれば勝ちです」

 満足していますか? と聞くマナだったが、少し意地悪な問いだったかもしれないと反省する。

(満足していたら、此処で愚痴なんて言っていないですよね)

 女性は、その問いに特に答えは出さず、チョコレートケーキを食べている。

 黙々と食べ続け、すべてを食べきってから静かに聞く。


「怖くはないんですか? 美味しくなかったらって考えたことはありませんか?」

「そこは積み重ねた練習で克服します。一回で美味しくできる方が稀ですからね」

「私は練習なんてせずにクッキー焼いちゃったからなぁ。来年に勝負しようかな」


(渡すか渡すまいか迷うのは分かりますが、それではいけません)

 マナは、女性の後押しをすることに決める。


「大切な日ですからねぇ、神経質になるのは分かりますが、例え美味しくなかったとしても、練習を重ねたうえで二週間後に渡してしまえばいいんですよ。バレンタインデー以外に渡してはいけない。なんてルールはないですからね」

「あはは! 確かにそんなルールはないですね!」

「そうですよ。相手を仕留めるなら、美味しい料理で仕留めるべきですよ」

 これで後押しはできただろうと確信する。

「話し、聞いてくれてありがとうございました。もう夕方だけど、今から渡してきます」

 ケーキ美味しかったです。と、お礼を言って店を出ていく女性をマナは温かい眼差しで見送った。


最後まで読んでいただき有り難うございます。


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