空
藍色。青。途切れ途切れに浮かぶ白を。空を眺めている。
ゆっくりと流れて行く雲、秋の空は届きそうに無いくらい高く見えて。どんなに手を伸ばしても掴めはしない。見上げるとそこに在って、見えているのに届かない。空を見上げると僕は自分の無力さを感じる。
16の僕が掴めるものなんて、あまり多くない。
でも変にプライドや意地みたいのがあって、欲しいものに精一杯手を伸ばしてるんだ。みんなきっと何かを目指している。目標や夢に。
こう感傷的になるのは秋の低気圧のせいなのか?ほんの少しだけ僕に近づいてくれる澄んだ秋空を見上げ、思う。
もうすぐ冬が来る。
そう言えば彼女はどうしたのだろうか?僕がこんな寒空の下、学校の屋上に居るのには理由がある。呼び出された。しかも女の子に。直接彼女に言われたのではなく、クラス内のグループチャットからわざわざ調べて個別に送られてきた。変な段取りを踏んで呼び出される理由が、僕には全く思いつかなかった。
直接話したのも数回で同じ中学出身。共通点はそれくらいだ。僕は彼女が呼び出した理由と内容が気になり了承した次第なのだが、当の本人が居ない。
そこに彼女なりの理由あるとしても僕には理解出来なかった。したくなかった。
屋上にある欄干にもたれ、ここまでの経緯を思考しても意味が無いことは知っている。でも彼女がここを指定してきたのだから、約束を破るって事はないだろう。遅れることはあっても。
彼女が僕に好意を?まさか、いや……。僕には「そういうの」は無縁のはずだ。別の事を考えよう。そうやっていつも「何か」に期待していつも裏切られて来たじゃないか。えっと…どっかの偉い人は言っていたっけか。19歳を超えると人生の半分は終了しているって。もう新しい体験を得るのが少なくなるからとか。まだ僕には数年後の事だが、僕はこれから「何か」を選択して「何か」を失う。「選ぶ」って事はそういうことなのかもしれない。
それは右か左か、両手の中から飴玉を探すような選択肢ではない。目に見えない。でも大切な「何か」
もう一度空を仰ぐ。
澄んだ青が薄く広がっている。世界全体を覆って、いつも高い所から見つめている。
全部見つめているんだ。僕の気づかない所で何かが起こっていても、僕は知らない。でも空は薄く広がって見通している。
これから僕が選ぶ選択肢もきっと見つめているんだろう。
僕のスマホをが震える。彼女からのメールだ。
「ごめんなさい。もう少しで着くから、もう少しだけそこにいてくれますか?」
絵文字も顔文字無い、淡白な文章。僕は彼女らしいなと思いすぐに返事を返した。
「いや、僕も今さっき着いたところだよ。ゆっくりきて。」
またスマホが震える。
「嘘つき」
なぜバレたんだろう…なぜこんなにも僕の事がわかるんだ?
そんな事に思い耽る前に、屋上の扉が開かれた。
キィィ!!
錆び付いた重い金属が擦れる音に思考が停止した。
彼女は制服姿のままだ。
「おまたせ。」
彼女は一言そう言うと僕の直ぐ隣にきた。長い彼女の髪を揺らす。
「だから僕は…」
僕の言葉を遮るように彼女は強い言葉で言った。
「そういうの!……いいから。」
そのあと彼女と無言で空を見ていた。それは決して気まずい時間ではなくて。ゆっくりと2人で薄く伸びた。今にも消え入りそうな雲を見ていた。
「あのね…聞いてほしい事があるの……」
彼女の声は僕が耳を澄ませていなければ風に流されてしまいそうな小さな声だった。
困っているような、それでいてはっきりとは言えない。やっぱり彼女は僕に似ている。僕はなるべく彼女から促すように、なるだけ優しい声色で待った、いや逃げたんだ。
「どうぞ」
そして彼女の口から僕が予想していた通りの言葉が出た。
………
バタン!!扉が強風に煽られ勢いよく閉まる。その音が、僕が「選んだ」事を収束させた。今、この瞬間。僕は確かに「選んだ」彼女の口から出た「大切な何か」を。
彼女と僕との決定的な「何か」が始まって…終わった。
露骨ですが。文章の中に抽象的な言葉を並べてみました。主人公が選んだ選択は皆さんの予想どうりです。ですが、その「何か」という抽象的イメージを転換してみれば面白く書けるかなと思っているんですが。いやはや難しいです。