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第三話 召喚勇者

それから、数年かに一度、勇者が魔王を倒しにやってきた。

魔王はその度に大歓迎したが、勇者はいつも負けていた。

しかたないから、一時期、魔王はこっそり勇者のいる場所に転移して、修行や特訓をつけてやったりした。


しかし、時間が止まっているらしい魔王とは別に、勇者の方は加齢が進んだ。

勇者の力がピークを迎え、そして徐々に弱まっていくのが分かるようになった。

「このままやったら死んでも死に切れん!」

勇者は必死に訓練をし、女と励まし合った。

「ニホンに帰るぞ、オー!!!」


けれど、その差は縮まる前に開くばかりになってしまった。


***


「あかんかったなぁ、ごめんな、オバチャン」

「こっちこそ、ごめんな、私が強くなりすぎたばっかりに」

「ええよ、ええよ」

「あんたまでニホンに帰られへんかったやん・・・」

「・・・俺はええよ・・・メリッサと一緒に過ごせたし孫までできたし・・・」


死の間際、ベッドに横たわる老人の手を、若いままの姿をした女が握って、涙を流す。

そんな二人を、男の家族が悲しみの涙を浮かべて見守っている。


「ジェイ、ワルド、おいで」

男が二人の孫の名前を呼んだ。

「爺ちゃんの代わりに、この魔王のオバチャンのこと、よろしく頼むな」

「えぇよ、えぇよ、そんなん子どもに負担やわ。また日本人召喚されるの待ってるし、そんなん気にしんとき」


「魔王のオバチャン、大丈夫、僕らが勇者になってあげるよ」

「オバーチャン、僕らちゃんと戻してあげるね」

「どさくさに紛れてバーチャンて呼ぶの止めろって言うたやろ! でも、ありがとうなぁ、ジェイにワルド。メリッサさんもイクスもターシャもごめんなぁ、最後の家族の場になぁ」

「・・・良いんですよ、魔王さん。あなたの事は夫から良く聞いていますもの・・・。それに・・・私、あなたが強くて良かったと・・・夫がニホンなんてところに帰らずにいてくれたのは・・・ウゥっ」

「メリッサ・・・」

「うぅ、ごめんなさい、あなた・・・・、私・・・・!」

「メリッサ・・・!!」


「ちょっと、皆、部屋でて二人にしてあげような、ちょっとだけな」

魔王たちは、老夫婦を残して部屋を出た。

皆、とてもしんみりしていた。


その翌日、家族に囲まれて、召喚勇者は逝ってしまった。幸せだったと言っていた。


皆で泣いた。


***


それから。


基本的にすることがない女は、ブラブラして日を過ごす。

たまに、魔物たちの目を盗んで、こっそり有望そうな人間に剣術や魔術を教えに行く。でも、やっぱりこの世界の人間には、女を倒すのは無理そうだ。

魔王城まで来るような勇者は現れる気配がない。

魔物たちが一生懸命人間たちを荒らすせいで、人間自体が衰退している。

女は、人間が滅びないように、こっそり魔物たちから隠してやることもある。

魔物たちが自分をニホンに帰らせまいとしての事だと知っているので、魔物たちには注意するにとどめているが、逆効果かもしれない。


勇者の孫たちも、頑張ってくれている。けれど、残念ながら異世界召喚された若者に叶う程の力量は無い。それでも人間の中では結構強くて、国で『どうやって魔王を倒すか』を考え画策するような地位にいるらしい。

一人は、異世界召喚をまた行う準備を密やかに進めている。

時折、密やかに訪れた時に、状況を教えてくれる。何でも力になれることがあったら言って欲しいと伝えてある。


こんな世界。女にとって、どうなろうと、結局のところどうでも良いのだけれど。

一度は、怒りに任せて滅ぼした。かろうじて生き残った者たちが今の世を作ったのだ。


それでも、帰りたいと願うから、世界が本気で滅ばないようにだけは注意してやる。

我ながら人でなしやな、と女は自分で思う。


いつか、倒されることがあったら、どうなるだろう。

召喚された時代に戻るのか。それとも、ここで過ごした月日が加算される?

この止まった姿のまま、加算された年代に戻ってしまったらどうなるのだろう。


深く考えると分からなくなるけれど、それでも『戻りたい』という思いは捨てきれない。その可能性のためだけに生きているのだ。


***


「・・・え、ここ、どこ!?」


すっかり白くてシワシワになった、かの勇者の孫が、今この世界に現れた若者に告げる。

「どうか、わしたちをお助け下さいませ、勇者様」

「え!? は!?」


未だに状況を飲み込めないでいる若者を取り囲み、皆が一斉に跪き頭を下げる。

「どうか、魔王を打ち倒し、この世界をお救いください、勇者様」


素性を隠して、召喚に協力した女もかしずく。同じ場所から来た若者に対して。

「どうか、魔王を倒してください」

心から、頭を下げて、助けてほしいと願い乞うのだ。

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