第二話 やっと来た
数年の後、魔王城を勇者一行が襲った。
「やっと来たんか!」
勇者一行は、城のロビーで魔王である女に出迎えられた。女は大歓迎だったが、魔王を取られたくない魔物たちの威圧がものすごかった。
女だけが喜色を満面に現していた。声が弾んでいた。
「わぁ、お友達一杯連れてきたんか。皆日本人なんか?」
「・・・違うわ。なんか魔物がやたら強くなってんねんけど、アンタのせいじゃないの?」
すでに歴戦の勇者、と言った風情になっている若者が、周囲に気を配り剣を構えたままで尋ねた。
「え?」
魔王は周囲をチラリと見回して、それから肩を竦めた。
「ごめん、私がハシャギすぎたみたいで、『勇者来たらニホンに帰る』って言ってたら、皆が必死で止めるねん。愛されてるなー、私」
「超迷惑!」
「で、帰る方法、分かったんやんな?」
嬉しそうに女が尋ねて、勇者が答えようとした途端、魔王を守る魔物の一人が勇者一行に強力な魔法をかけた。〝沈黙”
「・・・」
勇者が何かを怒鳴ったが、音は聞こえなかった。
女が顔をしかめて軽く指で宙をはじく動きをする。
「・・・あんた、油断し過ぎちゃう? 何やすやすと魔法かけられてんねん」
勇者がムっとして何かを答えようとすると、また魔法がかかった。〝沈黙”
「・・・ちょっといらんことしんといてくれる?」
女が魔族の一人をベシっとたたいた。その魔族はよろめいて倒れた。勇者はその様子に目をむいた。
女が勇者の魔法を解いてやると、
「オバチャン、めちゃくちゃ強いな」
勇者の勢いは削がれていた。勇者は茫然としていた。
「そりゃまぁそうやろ。魔王なったぐらいやしな。で・・・?」
勇者は、魔法もかけられていないのに沈黙した。
「あれ? どうしたん。お腹痛いん?」
「・・・オバチャン、あのな。勇者は魔王倒したら帰れるらしいわ」
「それ、嘘ちゃうん」
「いや、そう思って調べたけど、これはホンマやった」
「・・・じゃあ、私はどうしたら良いんやろう。私の帰り方は?」
若者は暗く伏せた目を、まるで絶望したような表情をしながら、女に向けた。
「俺勇者やから、魔王を倒すやろ。その時に弾け飛ぶ魔力を使って、俺が魔王も一緒にニホンに戻るねん」
「ん? は?」
「俺がオバチャン倒して、オバチャン連れてニホンに帰る」
「おぉおおお!」
女は感動した。周囲の魔物たちの殺気が膨れ上がった。勇者一行はジリっと後退した。
「あんたら、良いか、手を出したら殺すよ」
女は周囲に向けて殺気を放ったが、放たれた側は興奮した。〝王に殺されるなら本望です”
女は残念そうな目を勇者に向けた。
「ごめんな、アホばっかりで。皆、私が育てたようなもんやからなぁ・・・」
「・・・オバチャン、帰りたいんやんな?」
「うん」
「じゃあ、ちょっとそっちは、オバチャンが何とかして。俺も、ちょっと正直まだ力が足りひんのよく分かったから。出直してくるわ」
「そっか。でも、とりあえず一戦交えてみるか?」
女の提案に、若者は首を横に振った。
「ごめん、負ける気しかせぇへんわ」
「そっかー。まぁ、じゃあ、次来てくれるの楽しみに待ってるな」
「うん、待ってて。じゃ、帰るわ」
「うん。・・・おぃ、アンタら、勇者に手を出したら、今後一切口きかへんし遊んであげへんで」
〝・・・!!”
魔物どもがショックで硬直した隙に、勇者一行は去って行った。