第一話 どこから来たの
ただの関西人だった。
それがある日突然、異世界召喚されてしまった。
『明日発売の週刊誌を絶対読みたい、さっさと元の世界に返せー!』と叫んだら、『魔王を倒せば元の世界に帰れます』などと言われた。
仕方ないから勇者になってやって、魔王を倒した。
これで帰れる、そう思った。
「嘘やったんや」
と、魔王城の一番高いところの部屋、魔王の椅子にダラリと行儀悪くたれながら、憂鬱そうに女は言った。
「魔王倒しても帰れへんねん。マジか聞き違いか思って、聖ナンチャラ国に戻ってみたんやけど」
女は、ずり落ちそうになる体勢をちょっと腰かけ直してから、対峙する相手に同意を求める眼差しを送った。
「嘘やってん。神官とか国王とか全部、勇者丸め込むための嘘やってん。人でなしや。最悪や」
「・・・」
女に相対している若者は、返答に困ったようで無言のまま、ためらいがちに右手の宝剣を握り直した。
そんな若者に、女は尋ねた。
「えーと、あんたに聞きたいんやけど。あんたも見た感じ、召喚されたんやな? 日本人? いくつ? どこの人? 関西人?」
「え・・・と、日本人。大阪。今たぶん19で・・・」
若者の答えに、女は身を乗り出した。
「大阪! まって、それであんた、何年何月何日や今!?」
言葉を遮られた男は動揺しつつ、答えた。
「えー・・・。召喚されたのが、えーと、西暦2016年、1月3日・・・」
「2016年て!」
女は酷く衝撃を受けた。
「私召喚されたの、2000年やで! 16年も経ってしもてるやん! 最悪や!」
「え・・・と・・・」
「ちょっと、聞いてーや! 16年て!」
女のマシンガントークの予感に、勇者である若者は勇気を出して切り込んだ。言葉で。
「あの、あのあの! あのですね!」
「なんや、若者」
「俺、勇者です!」
「うん、知ってるけど」
「で、違うんです、あんた魔王ですよね!?」
「うん、そうやね」
「なんでやねん! なんで魔王なってんねん!」
女は顔をほころばせた。
「うれしいわぁ。ボケとツッコミ、懐かしいわぁ。しかも関西弁」
「そんなんどうでも良いわ! なんで魔王やってんねん!」
「だから言うたやん」
女は顔をしかめた。
「召喚されて勇者やれて言われてさ、魔王倒したのに、戻られへん。あんたも騙されてるんちゃう?」
「え、そんなアホな!」
「いや、マジやし。あんた、ちょっと国一旦戻って聞いて来てよ。今なら戻す方法できたん? じゃあ一緒に帰れるやん。頼むわ」
「・・・その話の証拠は?」
勇者である若者が訝し気に尋ねた。
「証拠なぁ・・・このバリバリの関西弁だけでは足りんか? そーやなぁ。16年経ってたら世代ギャップで話あわへんけど・・・。あ、そういやな、ス〇ーウォーズやったら聞いたことある? 分かる? エピソード1見たとこやったし、内容言えるで」
「・・・スター〇ォーズやったら、つい最近、新しいの出たで。えーと、エピソードでいうと、7?」
「マジで!?」
女の食いつき方に、若者は、『あ、こいつ本当に日本人や』と確信を持った。
若者は尋ねた。
「分かった。信じるけどさ。でもなんで魔王やってんの?」
女は頷きながら答えた。
「腹が立ってん」
「うん」
「腹が立ってな。滅茶苦茶暴れたらな。まぁ、こうなったんや」
「・・・なんか色々省略された気がするけど、オバちゃんも大変やったんやな」
「オバちゃん言うな。時間止まってるみたいやし。でも、ホンマに大変やったわ。・・・あんたも他人事ちゃうで。ちゃんと帰る方法とか確認しときや。で、これ心からお願いなんやけど、帰る方法分かったら、お願いやし教えに来て」
「分かった」
「無事に帰ったら、なんかおいしいもん奢ったげるし」
「そんなんいらんけど、まぁ、分かった」
「お互い頑張ろうな」
「それ、こっちのセリフやわ」
こうして、勇者は魔王城を一旦去った。




