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タオルはタンスの中を探したらすぐに見つかった。水については隅の部屋に大きな桶があり、その中になみなみと入っていた。
文明のレベルが安定していないなあ。昨日の夜は照明をつけていたが、照明は現代日本と変わらないくらい発達しているというのに。このちぐはぐな感じは地球にはない魔法の影響だろうか。
そう言えばあの黒歴史和式トイレも中身は結構近代的だった。後で使い方を聞いたところ、すぐそばのスイッチに触れるとフタが開き、閉まっている間は自動で便器を洗浄するらしい。
形は和式だけど、性能は洋式トイレだ。水道が通っている様子はないし、どういう仕組みなのだろう?
それはともかく。
ボクはタオルを持って水が入った桶の前に来た。やはり身体を洗うところなのだろうか。そこだけ個室みたいに仕切りがある。
ほんとは桶の中に入って風呂みたいに身体を清めたいが、勝手にそんなことをするのは憚られた。もしかすると飲み水を貯めておいたとか別の用途かもしれないし。
予定通り濡れタオルで我慢しよう。
ボクは服を脱ぎ、裸になる。服といっても例の上だけのぶかぶかパジャマだ。
結局あの黒歴史の後、このパジャマを着続けてきた。つまり昨日は少しだけウィルクの服を拝借した時以外はずっとこのパジャマを着ていたことになる。トリップする前の一昨日の夜から着ていることも考慮するとかなり長い間着ているのだ。
うわ、何だかばっちく思えてきた。そのうち洗濯しないとな。
ごしごし。
身体を濡れタオルで拭く。お湯だったらいいのになあとちょっぴり思ってしまう。
「わっ」
少し身体を拭いただけなのにタオルが黒くなっていた。どうやら思っていた以上にボクは汚れているらしい。
「お風呂入りたいなぁ...」
やはりお風呂という文化は偉大だった。なくなって初めて恋しくなるものだ。
桶の中に飛び込みたくなる。何だかんだいって、多分身体を綺麗にするための水だと思う。いっそのこと入ってやろうか、という衝動を何とか抑える。
ごしごし。
もう認めるしかない、今のボクは正真正銘の幼女だ。ぷにぷにとした身体に幼女らしいイカっ腹。くびれなんかも皆無といっていい。
股間は――幼女だ、とだけ言っておこう。具体的に言うといろいろ問題ありそうだし。
七歳、いや六歳くらいに見えるだろうか。こう見えても中身は十九歳の男だ、勘弁して欲しい。
ごしごし。
髪も濡れタオルで丁寧に拭く。腰まである長い髪、これやっぱり手入れしなきゃ駄目かなあ。女の子ってめんどくさい。
「わわっ!」
髪を拭いたタオルを見ると真っ黒になった。
もしかして髪、滅茶苦茶汚れている?
タオルの別の場所で拭くとそこも真っ黒になる。これ、タオルに痕残らないかな?
しかし、なんでここまで汚れてるんだ? 異世界トリップするときにドブ川にでも頭から突っ込んだのだろうか? 尋常ではない汚れ具合だ。
「シャンプーが欲しいなぁ...」
石鹸も欲しいが、とにかく髪を洗いたい。
知らなかった時ならともかく、こんなに汚れてると知ってからは我慢なんて出来ない。
そういえば、昔テレビでシャンプーの代わりになる食材とかやってなかったっけ。
えーと……そうだ、重曹だ! でもこの家に重曹ってあるのかなあ……?
昨日トイレ探すときに台所っぽいところは確認したが。
ダメ元だ、ちょっと探してこよう。
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探しに出ようとすると、仕切りのすぐ外に男の子用の服と下着が畳んで置いてあることに気付いた。
「おお!」
目的を忘れ、少し感動する。小さな男児服だが女児用のに比べたら神々しくすら見える。
身体を洗い始める前はなかったはずだ。ウィルクが昨日のうちに用意し、身体を拭くボクに気づいて置いておいてくれたのだろう。
ということは起こしてしまったか。しかし気が利くイケメンではないか。
視点を移動させる。そのすぐ横に青い卵形のガラス玉が置いてあった。
「ふむ?」
このガラス玉も身体を洗い始める前にはなかったはず。
つまり、服と一緒にウィルクが置いていったものだろう。
これは一体……?
ふとガラスのエロ本を思い出してつんつん触ってみる。
「……?」
何だか変な感覚がする。うまく言えないけど、どこかピリピリしたりするような――
もしかして。
ボクはそれをボクの腕に押し付け、滑らせてみた。
「おおおおおおおー」
ガラス玉を滑らせた場所だけ僅かに白くなっているではないか!
泡は立たなかったが、これは恐らくこの世界の石鹸。
よし、こうなったら身体をピカピカに綺麗にしてやる。もうウィルクに身体を洗っていることはバレているんだ、時間をかけて丁寧に洗おう。
そして最後に桶の中に飛び込んで五右衛門風呂っぽい水風呂を満喫してやろう! 勝手に入るべきではないだなんて知ったことか!
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たっぷり一時間後。
ボクは生まれ変わった。
本当にそんな気分だ。
肌は透き通るように白くなり、くすんでいた髪の毛は美しい銀髪に。って銀髪だったのか、あまりに汚れていたから自分でも知らなかった。
小汚ないスラムの小娘から一国のお姫様レベルにまで綺麗になれたのではないだろうか。鏡がないのが残念でならない。
……まぁ、いくら綺麗になってもボクは男だ。あんまり嬉しくはないんだけど。
嬉しいというより達成感だろうか。薄暗い物置を大掃除して新品同様ピカピカに綺麗にした、そんな心境だ。
そして、身に纏う男児服。
男としての尊厳を取り戻し非常に気分がいい――はずなのだけどよく考えると男児服でもちょっと屈辱に思えてきた。
服のことはあまり考えないようにしよう。無論、男児服を用意してくれたウィルクへの感謝を忘れるわけではない。
この格好でウィルクのところに向かう。
「――――?」
ウィルクは呆然としていた。お前誰? とでも言っているのだろうか。
ふふん、どうだ、まいったか。
ウィルクは我に返るとボクの手を握って話しかけてくる。
『えーっと...
お前、あのガキだよな?』
「他に誰に見えるのさ」
言葉が通じないのは分かっててもついつい自慢してしまう。
子供が褒められると天狗になるのはこういう心境なのか、納得。
しばらくは男児服で進行していきます
必ず可愛い服を着せるのでのんびり待っていてください