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「夢じゃない……か」



 ベッドから起き上がり、自分の身体を確認してそう呟く。


 呟いたその声も少女のものだ。


 ボクは不覚にもウィルクの背中に揺られて眠っていたらしい。


 ウィルクの拘束(おんぶ)から抜け出すことを諦め、力を抜いてから記憶がはっきりしない。気がついたらこの部屋のベッドの上というわけだ。


 ベッドと机、タンス、それとドアしかない部屋。ウィルクの家だろうか、良く言えば綺麗に片付いている、悪く言えば殺風景な部屋だ。


 机の上には皿の上に置かれているパンとジャムらしきビン、そしてコップに入った水が置かれていた。


 お腹も空いていたのでありがたく頂く。


 ……と思ったがビンのフタが固くて空かなかった。


(み、惨めだ……)


 自身の非力さを呪う。


 3分ほどビンのフタと格闘し、諦めてパンをそのまま食べた。胃袋が小さいからか、あまりおいしくなかったからか、少し食べただけで満腹になる。


 ベッドのすぐ脇には小さな服が積まれていた。


 今のボクの服は前と同じくパジャマの上半分のみ。こいつを着ろってことだろう。


 しかし何でこの家の主は女児用――認めたくないが確かに女児用だ――の服を持っているのだろうか。


 大人の男の嗜みだというのだろうか。


 背筋がぞわっとしたが、外を見ると明るかった昼とは違い今は夜。ボクが寝てる間に手に入れてきてくれたんだろう、うん。精神安定のため努めてそう思うことにする。


 しかし……



「幼児、それも女の子用かぁ……」



 可愛らしいデザインではなく、むしろ色気のないシンプルなデザインだがその服はワンピースとスカート。ふと異世界でもワンピースとスカートってあるんだなあと現実逃避気味に思う。


 そして、おぱんつ。


 ぱんてぃーだ、これをボクに履けというのか、どんな羞恥プレイだ。


(これだけは絶対無理……)


 一緒にこの世界にトリップしてきた相棒(トランクス)が恋しい。ずり落ちて履けたものじゃなかったが、これよりは万倍マシだろう。


 ……そうだ!


 ここはおそらくウィルクの部屋。ならタンスの中にでも男物の服と下着があるだろう。それをちょっと拝借してしまおう。



「失礼しまーす」



 若干の罪悪感を感じつつタンスを漁る。上の方は手が届かないので下の方から。


 探し物は思いの外すぐ見つかった。


 男性用の服、それとボクサーパンツっぽい下着。


 他人の下着を履くのは非常に不本意だが女児パンツなんかよりよっぽどいい。



「……ん?」



 タンスの奥に何か硬いものがあった。部屋の主に悪いと思いつつも興味を引かれ取り出してみる。


 これは……ガラスだろうか?


 縁と裏は何らかの金属で覆ってある。まるでガラスを金属の額縁に入れたみたいだ。


 これは何だろうとガラスの部分に触れてみる。


 すると、画像が浮かび上がった。



「…………」



 えっちな、画像が、浮かび上がった。


 これはアレか、元の世界で言うエロ本的存在か。


 もう一度ガラス部分に触れると別の画像に切り替わった。どうやらスマホみたいにタップすれば画像は切り替わるようだ。


 エロ画像自体は結構際どいものもあるが、今のボクでは全く興奮しない。


 それに少し残念なものを感じつつ、それでもやらねばならないことがあった。



「中身、確認しなきゃだよなぁ……」





----------------------------------------------------------------




 ガラスのエロ画像集を全て確認し終えた。5分程度で確認できる量だった。


 無論、下世話な意味で見ていた訳ではない。


 ボクが探していたのは、ロリ画像。この家の主がロリコンかどうか、確認する必要があったのだ。


 結果は杞憂、ロリコンではなかったようだ。安堵感にほっと息をつく。巨乳画像ばかりでロリロリしい画像は一つもなかった、一安心。


 ガラスのエロ本をバレないように元の場所に戻し、当初の目的の男物の服と下着を取り出す。


 そして、それを着てみる。



「…………」



 分かってはいたがやはりぶかぶかだ。


 腰を押さえておかないとすぐずり落ちてしまうし、ズボンの裾は完全に引きずる形になって歩くのもおぼつかない。ベルトはなかった、ちくしょう。




----------------------------------------------------------------




 さて。


 なるべく考えないようにしていたが、そろそろ無視出来なくなってきたので一番の問題に取りかかろうと思う。


 トイレ、である。


 この世界に迷いこむまではボクは男子大学生だった。


 だが認めたくはないが今は女の子の姿だ。


 ボクはこの姿になってから自分の性器を確認していない。触った感じだと男のシンボルはなくなっているようだが、今のボクに用が足せるのか。


 そもそもボクはロリコンではなかったが、それとは関係なく性的な欲求を一切感じない。


 ちょっと前までは人並みな性欲はあったはずだが、この姿になってしまったことで消えてなくなってしまったのだろう。


 しかし逃避してばかりはいられない。


 尿意がだんだんときつくなってきたのだ、早めに何とかしないと。


 そう言えば朝から一度もトイレに行ってないな。


 ……ヤバイ、そう考えた途端に尿意が八割増しとなってボクを襲ってきた。


 マジでヤバイ、男だ幼女だ言ってる場合じゃない!とにかく一刻も早く用を足さないと!


 ズボンと下着をずり落ちないように掴み体を揺らさないように内股となって摺り足で、且つ素早く部屋を探索する。


 ない、ない、ない、ない――トイレはどこだ、トイレはどこだ!


 嗚呼、ボクは何故先にトイレを探さなかったのだろうか!エロ画像なんて見てる暇があったら一刻も早くトイレの場所を確保するべきだったのに!!


 過去のボクを呪いながら部屋を探索する。


 ない、ない、ない、ない――一通(ひととお)り家の中を探索し終えた。


 もしかしてこの家の中にはないのだろうか。


 絶望的な気分がボクを襲う――その時、(ウィルク)舞い降りた(ドアから入ってきた)


 ボクがぶかぶかの男服を着ていることにぎょっとするが、すぐに尋常ではない様子に気付きボクの頭に手を置く。直接肌が触れ合ってないとコミュニケーションが取れないからだ。


(ボクの両手はズボンと下着、それに股を押さえるのに忙しい)



「トイレっ、トイレはどこっ!」


『トイレか?』



 ぶんぶんと首を縦に――振ってしまいそうなところをすんでのところで抑え、ゆっくりと首を縦に振る。


 今首を激しく動かしたらそれだけで漏らしてしまいそう、それほど危険な状態なのだ。



『トイレならあのドアを出たところにある』



 そう言ってウィルクは部屋の一角を指差した。


 そこは既に探索した範囲だった。焦りのあまり、見逃したのだろうか。


 心の中で自分自身に悪態をつき、摺り足で素早くトイレに向かう。


 長い長い道のりを何とか踏破し、トイレに入ると――和式便所にフタがしてあった。


 まるで卵のように継ぎ目なくフタされてある和式便所(のようなもの)。


(ど、どうやって開けるのこれ!?)


 も、もう、限界――




----------------------------------------------------------------




「ぐすっ、ひくっ、えぐっ」



 ボクは泣いていた。男としてのプライドが粉々に砕け散り、泣いていた。



『お、落ち着けよ。

 俺は全然気にしてねぇからよ』



 少し慌てた様子でウィルクはボクを慰める。


 だがウィルクが気にしなくてもボクが気にするのだ。


 想像してみて欲しい。


 他人の服や下着を勝手に身につけ、その服のままおしっこを盛大に漏らすのだ。そして後処理はその服や下着の持ち主に処理させる。ボクの濡れてしまった股だって奴に拭かれてしまった。


 こうなった以上、ウィルクを殺してボクも死ぬしかない。だがこんな姿になってしまったボクでは逆立ちしてもウィルクを殺せそうにない。


 もうどうすればいいのだろうか、ボク一人死ねば全て丸く収まるのか。



『しかしトイレの使い方、分からなかったのか?』



 えぇそうです。お漏らししてしまった恥ずかしい(ようじょ)は一人でトイレすらまともに出来ないのです。


 さらに泣く気配を察知したのか、ウィルクが慌てて謝った。



『わ、わりぃ。

 お前を馬鹿にするつもりはねぇんだ。

 そ、そうだ!

 いつまでもお前じゃ都合悪いよな!

 名前、なんて言うんだ?』



 あからさまに話を逸らそうとするウィルクだが、その気遣いはボクとしてもありがたい。


 そう言えば名前教えてなかったし。


 ……

 …………

 ………………


 あれ。


 ボクの名前……なんだっけ。

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