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101.【番外】それは、口移しだったのです。

診断メーカーさんより「トキ&ミオへのお題は

・負けず嫌い(9%)

・額にキス(9%)

・服をたくし上げる(27%)

・口移し(55%)

です。アンケートでみんなが見たいものを聞いてみましょう

https://shindanmaker.com/590587」


「えぇと、せっかく卒業祝いということで、私がお金を出しますから、トキくんの好きなお店に行きましょう、って言いましたよね?」

「あぁ」

「目の前に見えるのは、安さが売りのジャンクなチェーン店に見えるのですが、見間違いでしょうか?」

「その隣だ。あと、俺が出す」

「トキくん、人の話をちゃんと聞いていたのですか? 私が……もぐぐご」


 ちょ、勢い余って鼻まで塞いでいるのですよ! 酸素、酸素!


「女に出させるとか、ありえねぇだろ」

「ふぐふがー!」

「オレが出すって……ん?」

「ぶはぁっ……、さ、酸欠で、死ぬかと思った、のです」

「悪ぃな、アンタの顔が小さいの忘れてた」

「ど、どういう意味ですかっ」

「そのまんまだ」


 むしろ、トキくんの手がやたらと大きすぎるだけなのですよ! しかも握力はあるし、手の皮はぶ厚いし、掴まれたら逃れられる気がしないのですけど!


「ここ、なのです?」


 ジャンクなお店の隣にあったのは、なんだか怪しげなレストランだったのです。エスニックな香りがぷんぷんするので、どこかの国の料理に特化したお店なのでしょうが、……うーん?


「入るぞ」

「は、はい」


 店内はこぢんまりとしていて、テーブル席が4つほどの広さでした。少し早い時間帯だからか、お客さんはまだ入っていないみたいなのです。


「Kuzuzanpo」

「?」


 と、トキくん、それは何語なのですか? まったく聞いたことがないのですけれども! く、くずざんぽ……? ここ、どこの国のお店なのです?

 私が混乱していると、お店の奥から、店員らしき人が出てきました。トキくんを見ると、ニカッと爽やかな笑みを浮かべます。


「トキ!」


 どうやら、顔なじみのようなのですが、……えぇ、何やら解読不能言語で会話が始まりました。さっぱりヒアリングもできません。できれば、日本語でお願いしたいのですけれども。


「あぁ、トキの連れはコトバ、分からないね。いらっしゃいませ、おすしなお席へどぞー」


 お『寿司』なお席へどうぞ、されたので、私はちらりとトキくんを窺ってから、一番近くにあった椅子に腰かけました。なんだか座ると余計にトキくんが大きく見えるのです。ただでさえ身長さがあるというのに、って、どうして隣に座るのですか。普通は向かい合わせに―――


「適当に頼んだ。アンタ、辛い物は得意じゃなかったよな」

「あ、はい、……はい? そこまで苦手ではないのですよ?」

「気にすんな。―――ここは出張先で世話になったアイツの店で、まぁ、見てのとおりだな」

「分かりません」

「じゃぁ、どこの国だと思う?」


 そんなことを言われても、ヒントが少なすぎます。辛い料理と言われて思いつくのは、メキシコ、中国、インドあたりでしょうか。でも、中国は少し違うような気がします。だって、中華料理のお店って、こう、「福」の字が入口に書いてあったりするのですよね? メキシコと言えば、サルサでルンバな印象があるので、ちょっとお店の雰囲気とは違う気もします。


「えぇと、インド、あたり、でしょうか?」

「はずれ」

「うぅ……」

「でも、アンタ、本当にそういうのはちゃんと頭が働くんだな。はずれだけど、遠くはねぇ」

「褒めているのか、褒めてないのか分かりにくいのです」

「褒めてる」


 わっしわっしと頭を撫でられると、せっかく綺麗にかした髪の毛がぐっちゃぐちゃなのです。カフェのバイトをやめて伸ばし始めた髪の毛は、ようやく肩に触れる程度なのですが、トキくんのおかげで、わちゃわちゃです。


「それで、正解はどこなのです?」

「とりあえず、先入観持たずに食ってみろ」

「でも……」

「辛いのも多いが、うまいから」

「はぁ」


 なんなのでしょうね、このトキくんのプッシュの仕方は。本当に美味しいから勧めているのか、それとも面白いことになりそうだから勧めているのか……表情を見る限りだと後者なのですけれど。


「どうした?」

「なんでもないのです。――――出張先でさっきの店員さんとお知り合いになったそうですけれど、海外出張とかなのですか?」


 とりあえず、話をすっぱり忘れてしまいましょう。モヤっとするとき、考えてもどうしようもないときは、まったく別の話題に持っていくのが一番なのです。


「あぁ、出張準備でな」

「準備?」

「そっちの方に潜入するときに、アイツに言葉を教えてもらったことがある」

「語学教師……」

「そんな大層なモンじゃねぇ。会話相手になってもらったり、生活習慣なんかを教えてもらった程度だ」

「それ、語学教師よりも……いえ、なんでもないのです」


 いつも思うのですが、トキくんのお仕事の話を聞くたびに、カルチャーショックを受けている気がします。こんなことをしょっちゅうさせられているのに、どうしてトキくんの成績はあんなによかったのでしょう。俗に言う天才という人種なのでしょうか。


「なんか、変なこと考えてねぇか?」

「いえ、なんにも」


 最近は、私の思考が逸れているのを察知できるようになったトキくんなので、逃げの一手を打つのです。

 そんな遣り取りをしていたら、料理が運ばれてきました。


「パクシャバおまち。エマ多めね」

「おう」

「こっちはモモ」


 トキくんの前に置かれたのは玉ねぎや大根、お肉を煮込んだ料理のようです。……が、赤いです。

 私の前に置かれたのは、モモという名前の……餃子、でしょうか?


「あとノウシャパとエマダツィ出るよ」

「セムチュムツェムは? あと、ケワダツェ」

「そっちのお連れさん用ね。トキは食べない?」

「オレはいらねぇ。赤米は?」

「すぐ、もてくるよー」


 うーん、やはりお店の人は、ちょっと日本語が不自由なところはあるみたいなのです。でも、このぐらい許容範囲内ですよね。むしろ、異国情緒感が増すというか……


「熱いから気をつけろよ」

「トキくん、私は子供ではないのですよ? いただきます」


 ぱむん、と両手を合わせると、大きめの餃子のような料理を手元のお皿に取りました。嬉しいことにお箸がちゃんとあったので、まずは中身を確認、と割ってみたら、すごく肉汁が出たのです!


「はふ、はふっ」

「熱いって言ったろ」

「でも、美味しいのです」

「辛みが欲しけりゃ、それ付けろよ」


 お皿の横にちんまりと盛られた赤いものは……ちょっと遠慮しておきます。このままでも美味しいですし。


「はい、おコメおまたせよー」


 ドン、と山盛りの赤米がテーブルに乗せられました。えぇと、これ、食べきれるのかな? まぁ、トキくんなら大丈夫ですよね。いつも、びっくりするぐらいに食べますし。


「はい、これサービスね」


 私の方に、白い飲み物がとん、と置かれました。えぇと、ヨーグルトか牛乳か、それとも他の?


「随分と親切だな」

「トキのことだから、説明不足で連れてきたね?」


 おぉ、分かっていらっしゃる! どうやら、店員さんは私の味方のようです! それなら、ここがどの国の料理なのかを尋ねても……って、すぐに引っ込んでしまうのですか!


「そっちの煮込み料理は、どんな味なのですか? たしか、エマ、でしたっけ、何かを多めにしてもらったみたいなのですけど」

「食ってみるか?」

「……どうして、食べてみるか確認するだけなのに、そんな笑顔になるのですか?」

「いや、アンタ、食に対する好奇心は強いよな」

「別に、食いしん坊なわけではないのですよ?」


 とりあえず許可をもらって、手元のお皿に盛ります。豚バラっぽいお肉と、大根っぽいお野菜なのですが、なんか、すごく……赤いのです。多めに入れてもらったのは、何なのかは分かりませんが。


 とりあえず、お肉で野菜をくるんと包み、ぱくりと口に放り込みました。一口サイズですし、そんな――――


「~~~~~~~!」


 辛っ! ちょ、辛いのですよ! これ、飲み込もうにも、喉を通ることを考えたらとてもとても……!


「予想通り過ぎるリアクション過ぎて、何も言えねぇな」

「!?」


 隣のトキくんが、突然、私の腰を引き寄せたかと思うと、顎を無理やりあげさせました。って、重力に負けて、この辛いものが喉に……っ!


「ふぐっ!?」


 私の口をこじ開け、ぬるりとしたものが……って舌! 舌なのです! 何を公衆の面前で……!


「ほら、これ飲んどけ」


 私の口の中にあったお肉と野菜は消えてました。

 あと、白い飲み物はヨーグルトでした。

 口の中はまだヒリヒリしているのです。

 ぶわっと毛穴が開いて汗が滲んでいるような感覚がします。


 ……って、そうではなくて!


「トキくん?」

「おう」

「い、いま、何……」

「あぁ? 辛そうにしてたから、代わりに食っただけだろ?」

「く、口の、中、から」

「あぁ、まだ辛いのか。おい、飲み物お替り」


 奥に引っ込んでいた店員さんに声をかけたトキくんですが、私の方を見るとニヤリと笑いました。

 明らかに確信犯なのです!


「あー、エマ多めなんて頼むからよ。そんなの食べるのトキか仕事仲間くらいね」


 店員さんの証言に、じとん、と隣の少数派を睨むと、どこ吹く風で美味しそうにその料理を食べています。


「こっちは辛くないよ。どぞー」


 店員さんにオススメされた料理は、チーズをふんだんに使っているみたいで、辛いものに痛めつけられた私の舌でも、ちゃんと美味しいと感じることができたのです。店員さんには本当に感謝なのですよ。

 とりあえず、トキくんの前に置かれた料理は避けて、二の轍は踏まないようにしましょう。


 後日、あのお店のことを調べてみました。どうやらブータンの料理の専門店だったみたいです。唐辛子が野菜扱いされているそうなので、辛い料理が多いのは納得なのですが……。

 エマって、その唐辛子のことだったみたいです。ただでさえ辛い料理にエマ多めにするって、どれだけ辛党なのですか、トキくん!

 とりあえず、今後、カレーを作るときに辛さをどうするか検討した方がよいのでしょうか。絶対、物足りないと思われていますよね?


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