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猫の就活生  作者: 銀子
4/11

4.ため息

 朝、うだうだしていたら母さんにたたき起こされた。いつまでも、寝ているんじゃないと。まだ八時だっていうのに。だから、もそもそと起きて、ジャージに着替え、リビングに行った。親父と姉さんはもう仕事にいったみたいだ。


「母さん、おかずはー?」


 食卓についた俺の前には、ごはんとみそ汁しかなかった。母さんはこたつの上を片付けながら、朝のワイドショーを見ている。


「おかずなんかお姉ちゃんが全部食べちゃったわよ。あんたが早く起きないのがいけないの。洗い物もしてちょうだいね」


 大体予想できた答えだった。そうだと思ったさ。あのくいしんぼう姉さんめ。そんなんじゃ、ダイエットなんか絶対無理だ。太る一方だ。そのうち彼氏にも嫌われるんではないか? そんなこと言ったら絶対怒られるけど。とりあえず、母さんに言われた通り、食器を洗っておこう。こんだけだから、すぐ食べ終わっちゃったし。お昼まで持つかな。てか、俺の食器しかないや。母さんが全部洗って拭いて片づけたんだ。俺のだから適当に洗って適当に拭いておけばいいや。

 その後は、すぐにパソコンの電源を入れた。朝から何やってんのって、母さんには嫌みを言われたけど、無視だ。だって、このパソコンしかインターネットにつながってないし、何かいい情報が更新されているかもしれないから。それに、今日の電車を調べずに寝ちゃったから、電車を調べないと。だけど、うちのパソコンはたちあがるまでに凄く時間がかかる。色々なデータが入ってておもいのはわかるけど、どうにかならないのかな。少しかるくするべきか? そうだ。パソコンがたちあがるまでメダカに餌をやっておこう。こいつら、食いしん坊だから俺が来ると、皆でこっちを見てくるんだ。ちょっと、可愛いよな。

 パソコンがたちあがり、検索サイトで電車の時間を調べたら、十一時半くらいに家を出ればいいことがわかった。会場は前にも行ったことのある会場だから、大丈夫だろう。きっと、迷わない。後は、就職サイトとかを見て情報をチェックしよう。母さんが掃除とか洗濯物干したりしているけど、今日の俺は忙しいんだ。求人も見ておかなきゃ。

俺は十時くらいになって、スーツに着替えたりお昼を食べたりした。お昼は用意するのがめんどうだから、カップメンだ。そのころには、母さんはもう、ばあちゃんの病院に車で行っていて、俺一人になっていた。母さん、掃除とかが終わると化粧して、俺に文句いいながら出かけて行ったもんな。帰りは何時なんだろう。夕飯のこととかちょっと心配。また夕飯が遅くなるか、それとも適当になるか。適当より遅い方が嫌だな。そういえば、ロロの姿が見えないけど、きっとソファの下のハウスの中で寝ているのかな。

 そんなことをしていると、あっという間に時間は十一時になった。ロロに「行ってくる」と声をかけ、テレビを消し、電気を消し、戸締りや、火の元を確認し、玄関にフェンスを立て、俺は鍵をいつものところに置き、家をでた。




 いつもの商店街をいつものように歩き、駅に向かう。家から出ると、昨日の猫が向かいの家の車の上で、気持ち良さそうに寝ていた。日が当っているから、気持ちいいんだろうなぁ。


「いいなぁ……」

 そんな気持ち良さそうな猫を見て、ボソっと呟いた。これは前から思っていたこと。昨日だって、思ったし。だから、犬とか猫がかなり羨ましかった。俺も、こんなふうに何も考えずに日なたで丸くなって寝たいと思った。人間なんて、辛いとか、悲しいことだらけだ。就職は決まらないし。このままじゃ、負け犬になってしまう。本当に嫌になるよ。そう思いながらも、俺は駅へと向かい、ちょうど来ていた電車に乗った。


「上村くん。上村くんでしょ?」


 次の駅に着くころ、俺は誰かに声をかけられ、声の方を見た。


「あ、君島さん」


 俺に声をかけてきたのは、リクルートスーツに身を包んだ君島さんだった。もしかして、俺と君島さんって実は家が結構近い?


「上村くん、さっきの駅で乗ってきたでしょ? 私、見ていたもん。その時は、多分そうかなって思っていただけだから、声はかけられなかったんだけどね」


 君島さんはにっこりと笑った。


「あ、はい。さっきの駅で乗ってきました」


 やっぱり、君島さんには何故か敬語になってしまう。謎。だけど、君島さんは俺がそんな謎を感じている間も、にっこりと笑っていた。


「やっぱり! 私も、最寄り駅がそこの駅なんだ」

「え、そうなんですか?」


 少しだけ驚いた。だけど、同時に気のきいたことが言えない自分が嫌になった。


「上村くんは、今日どこに行くの?」

「えっと、今日は有楽町です。そこで、説明会があるんです」

「ホント!? 私も今日は有楽町に行くの」


 俺は内心、君島さんと同じ所だったらいいなって、考えていたけど、それが本当になった。しかも、少し嬉しかった。同じとこってことは、もしかしたらライバルかもしれないってことが、俺はわかっているんだろうか。わかっているけど、嬉しかったんだ。

 それから、俺たちは仲良くなって、赤外線通信でメールアドレスを交換した。もちろん、電話番号も。それが、嬉しくてか、今日の説明会の内容はほとんど頭に入ってこなかった。席も隣だから、君島さんのことを考えていて、頭に入ってこないんだ。帰りも一緒に帰れたことも嬉しかった。だから、俺は君島さんと別れた後、まるで天にも昇るような気持ちで家に向かった。顔もにやけていたと思う。この顔を姉さんに見られたら、絶対キモいとか言われるぞ。

 家に帰ると、あの猫がまたいた。あのキレイな猫が。その猫を見たとたん、俺のテンションは下がり、猫になりたいと思いながらため息をついた。その後はほとんど昨日と同じ一日を過ごした。もしかして、時間を無駄に使っているのではと思いながら。


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