表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の就活生  作者: 銀子
2/11

2.説明会

 電車から降りて、リクルートスーツ姿の奴がいないか探した。見渡す限りでは、誰一人としてリクルートスーツ姿の奴はいない。いたら、ついて行こうとかとも考えたんだけど、見当たらないから自分で行くしかない。

 改札を出て、駅にある地図で方向を確認し、鞄に入っているファイルを取りだす。その中に入っている印刷した地図を見ながら会社を目指した。地図を見る限りでは、駅から結構近いけど。でも、もしものために早足で歩こう。時間にはまだ余裕はあるが、途中で迷ったりするかもしれないからな。なんたって、俺は方向音痴。それに、信号で全部ひっかかるってこともある。

 真っすぐ歩き、信号を渡り、そこを左に曲がる。そうすると、会社はあった。どうやら、今回は迷わなかったようだ。会社のビルは、大きくて綺麗なビルで、このビルの二十三階が今日の説明会の会場だ。周りに似たようなビルがあるが(ここはビジネス街?)会場のビルの名前と同じビル名が書いてあるから間違いなくここだ。俺は念のため住所とビルの名前や、階を三回くらい確認した。ビルの前で緊張しているのか、心臓がドクドクいっているのがわかる。息をのみ、ファイルを鞄の中に仕舞う。自分を落ち着かせ、心の準備が出来ると、自動ドアを通った。

 エレベーターに乗り、二十三階のボタンを押す。途中で、このビルの中に入っている会社の人が乗ってきたけど、俺は特に気にしなかった。初めは挨拶しようかどうか迷ったが、どこの人かもわからないし。結局、俺の思った通り関係ない人で、その人は二十階で降りた。そのあとは誰も乗ってこず、二十三階まで順調に進んでいった。エレベーターを降りると、左側と右側に通路が見えた。どっちかが説明会がある会場だけど、どっちなんだ? とりあえず左側の通路を進んでみよう。その通路を右に曲がったところに、すぐに俺が受ける会社の名前を見つけ、会場を見つけた。だけど、会場に入る前にトイレによって、トイレと身だしなみチェックをする。それが終わると鏡の前で深呼吸だ。鏡の俺が明るい雰囲気になるまで、深呼吸を繰り返す。こんな雰囲気じゃ、落ちるのは決まっているようなものだからな。


「……よしっ!」


 何となく明るい雰囲気と、元気を取り戻すと気合いを入れ、俺は会場へと向かった。もちろん、背筋をのばして。


「こんにちは!」


 受付に座っている女の人に俺は元気よく挨拶をした。女の人は立ち上がりはしなかったが、にっこりと笑った。


「こんにちは。お名前をお願いいたします」


 女の人は二人座っていて、右側の女の人が言った。俺が右側の女の人の前にいるからだ。


上村幸大かみむら こうだいです」


 俺は一文字一文字はっきりと言った。俺の名前って、よく間違えられることが多いからな。女の人は、名簿から俺の名前を探しだし、チェックを入れた。この感じは、俺の名前は間違った位置にはないな。そんな気がする。


「本日、履歴書をお持ちですか?」


 同じ女の人が問うた。俺と女の人が話していると、隣の女の人のところに、ボブヘアーの女の子がやってきて、受付をしていた。就職活動しているのが俺だけじゃないのがわかって、ちょっと嬉しくなった。


「はい」


 俺は鞄の中から、ビルの前で仕舞ったファイルを取りだし、その中に入っている履歴書を取りだした。履歴書の向きを直し、「宜しくお願いします」というセリフと共に履歴書を女の人に渡した。女の人は、またにっこりと笑った。


「こちら、本日の説明会の資料となります。パンフレットの中にアンケート用紙が入っているので、時間になるまで、ご記入してお待ちください」


 女の人は履歴書を受け取ると、パンフレットと、パワーポイントの配布用資料をくれた。俺は「ありがとうございます」と言って、その資料を受け取った。

 会場は広かった。まだ開始まで二十分近くあるのに、会場には既に人がいて、俺は二列目の窓際の席に座った。そのあと、すぐにさっき受付をした女の子がきて、俺の隣に座った。この子も、まだ俺と同じで内定がないのだろうか? それとも、決まっているけど就職活動をしているのだろうか? 後者だったらちょっと俺は複雑だなぁ。むしろ、その内定が欲しい。

 開始時間まであと十五分くらいになると、次々と人が入ってきて、五分前には、会場が満員となった。うん、やっぱりまだいるんだ。こんなにたくさんの人が就職活動しているんだ。そうだよな。説明会の予約をしようにも、満席で出来ないのが多いもんな。全員ってわけじゃないけど、内定貰ってない奴だっているはずだ。まだ、こんなに就職活動している人がいるんだから。就職活動なんて、内定出たら普通終わるもんな。最近は、それでも納得いかなくて、続けている人もいるみたいだが。でも、この隣の女の子は、凄く真面目そうに見える。それなのに、内定がない、もしくは就職活動に納得できないのだろうか。そういえば、この間行った説明会で、内定がない奴だと思って話しかけたら、内定持っているやつだったってのがいたな。短大で、俺より年下だけど。それを聞いて、俺は四大なのに、なぜ決まってないのかって思った。だって、短大より四大の方が学歴的に有利じゃん。なのに何で俺は決まらないんだ? そんなことを考えていると、時間になったらしく、会社の人が会場のドアを閉めた。俺は急いで、鞄からノートと筆箱を取りだした。あ、アンケート何も書いてないや。きっと、書く時間後で有るはずだ。考え事しすぎるのもよくないな。もしかして、こうゆうところが落ちる原因なのかもしれない。


「時間になりましたので、説明会を始めたいと思います」


 受付の人とは違う女の人が前に出てきて、そう言った。それから、大体四十分くらい会社の説明をした。どうゆう会社だとか、企業理念とか、ステップアップとか、研修のこととか、福利厚生のこととか。俺はノートをとるのが下手だから、ものすごくノートがぐっちゃぐちゃで、何が何だかよくわからないページになった。しかも、書いていると聞きもらすし……。しかも、字も汚い……。だけど、隣の女の子は、説明されたことを一言一句聞きもらさずにノートに記入している。それも、すごく綺麗。字も綺麗だし。ノートを綺麗にとるっていうのも、一種の才能だと思う。俺には、その才能はないな。

 説明が終わると、大体ここでいつも質疑応答とかになる。だけど、いつも手を挙げて質問することが出来ない。質問したいことがあっても、質問することができない。後、最近思ったことだが、就職活動始めた頃よりは手を挙げる奴も減った気がする。うーん、手を挙げて質問できる奴は内定があるってことか? なんか、ちょっと複雑だな。そんなことで、内定とか決められたら俺、ずっと貰えないじゃん。今回の説明会も二人か、三人くらいしか質問をしなかった。その質問を聞くと、こんなことでも質問をしていいのかって思う。で、次の説明会では言おうと思うくせに、言えない。

 質疑応答の次はいつものように今後の日程に入る。今日は、この後グループ面接があるらしい。知っていたけど、やっぱり緊張する。特にグループ面接は、他の人と比べられるってこともあるから、余計に緊張する。比べる必要何かないのに、どうしても比べてしまうんだ。相手が留学とか立派なことを言っていると。

 トイレ休憩の後(俺はいかなかったけど)、全員がもといた席に座るのを確認したあと、受付の左側に居た女の人がやってきて、面接の順番を発表した。俺は一グループで、隣の女の子も同じグループだ。この女の子、君島さんって言うのか。とにかく、今はそんなの関係ない。今は頑張るしかないな。俺は俺の出来ることを精一杯やるだけだ。俺たち、一グループはすぐに荷物を持って面接の部屋に移動した。四人で面接するみたいだが、君島さん以外は男だ。むさくるしいなぁ。しかも、皆俺よりデカい。きっと、何か運動をやっているに違いない。案内してくれたのは受付の右側の人で(左側の人は会場に残った)、その女の人がドアをノックし、ドアを開けてくれた。俺たちは、一人ずつ「失礼します」と言い(俺は三番目に中に入った)、部屋の中に入った。最後に入ってきた君島さんがドアを閉めた。面接官は男三人だ。


「じゃあ、上村うえむらくん。ここの席に座ってください」

「あ、あの……上村かみむらです」

「あ、すみません。上村かみむらくんですね」


 部屋に入り、並んでいた順番で椅子のある位置につくと、真ん中に座っている面接官の人がどこに座るように俺たちに指示した。俺は、またかと思った。また、俺の名字を間違えられた。他の学生は間違えなかったのに、俺だけ間違えられた。わかっているよ。俺の名字が間違えられやすいってことは。生まれてこのかた何度も間違えられた経験からそれはわかっている。でもさ、履歴書にちゃんと振り仮名ふったじゃん。 すみませんじゃない。名前を間違えられるのは、多いけどやっぱり腹がたつ。だって、俺はちゃんと履歴書に振り仮名を振っているんだから。それに、いちいち間違いを直すのもめんどうだ。もしかして、こんな態度も俺が落ちる原因なのかもしれない。それからは、いつもの面接で、手ごたえがあるのかはまったくわからなかった。と、いうか名前を間違えられてモチベーションが下がってしまったし、俺はまた、比べてしまった。だけど、君島さんはすごくしっかりしたことを言っていたと思う。少し、話してみたいと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ