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73 現状確認

 ユディトが学校に現れた日から時は過ぎ、あっという間に暑い季節を通り過ぎ実りの季節へと移り変わりつつあった。


「万策尽きたわ……」

「まぁまぁ。落ち着いて、エフィー」


 相変わらずの情報のなさに私はぐったりと項垂れた。

 これまで聖女や魔王に関して調べてはいたが、これといって新たな情報を得ることは出来ていない。ジークによると神殿にもそれらしい人物は現れたという話もないらしく、神殿側にも焦りが見えるのだそうだ。

 そして情報収集と並行して鍛錬を続け個々の能力の向上を図っていたが、同時に新たな問題も発覚していた。


「とりあえず、現時点で解っていることをや気になることをもう一度確認してみようか。何か見落としていることがあるかもしれない」


 ジークの提案に皆が頷き、まずマリウスが魔法全般についてだが、と前置きをして口をひらく。


「技術の進歩によって魔法を扱える人間は増えたが、魔力量や補助なしでの制御といった技術面は二百年前と比べると劣っているな。魔道具という括りでだけ見れば一般家庭にもかなり普及している」


 それは灯りであったり調理に使う火であったり。燃料となる魔力を帯びた魔石も私たちの記憶にあるような魔道具には使えない昔であればクズ魔石として見向きもされていなかったようなものだ。

 ちなみに孤児院どころかあの村にそんな便利道具などはなく、みんな魔法や物理的な力によって自力で火をおこしたりしていた。……というか、孤児院のちび達でも全員が簡単に物理的な方法での火起しはできていたのでそういうものだと思っていた。


「杖以外でも装飾品で魔法の制御を助けるものがかなり出回っていて容易に手に入る物もある。それらのおかげで魔法を暴発させる危険が下がったから、魔法は二百年の間に人々にとって身近なものになったんだと思う」

「魔法が身近になった結果、貴族はより強い魔法を扱えることも社会的身分において重要とされてこの学校のような魔法を学ぶ場ができたのでしたわね」


 マリウスの言葉にヴィルが補足し、リーゼが眉を寄せる。どうやらリーゼは今は良くも悪くも魔法が身近になりすぎていると考えているようだ。


「ただ、道具に頼らない自分の力のみで制御することを放棄とまではいかないけれど軽視された結果が今……かな」

「戦いの場では早く呪文を発動することや魔法を扱える人間を増やすほうが効率はいいだろうから、そういった研究は進んだんだろうね。二百年の間に魔王の脅威はなかったけれど、それなりに大きな戦は何度もあったから」


 さらに続けるヴィルの言葉にジークが同意する。

 確かに村でも簡単な魔法を扱えるといった人は何かしら制御用の魔法具を身に着けている人が多かった。そもそも私――というより孤児院にシスターの銃以外の魔道具がなかったので気にした事がなかったのだけれど。

 学校では魔道具を使えない実技もあるけれど、それ以外の場では条件を満たせば魔道具の所持が認められているらしい。

 ちなみに小さな火を起こす程度の制御を助ける魔法具であれば一般家庭でも少し生活を切り詰めれば買える程度の価値で、戦闘用の魔法具となるとちょっと裕福な家庭程度では躊躇うだろうけれど手が出せないほどではない程度のお値段だそうだ。


「精霊との関係も殿下の力を借りて調べた結果、私の知る契約ではなく百年以上前に今の主流となっている魔石による従属へと変わっていたようですがその詳細までは解りませんでした。精霊と従属ではなく契約しているクルト先生はかなり異端であり、軍でも力のある存在だったようですわ。ただ、契約と従属の違いについては本人が隠しているのか全く知られていませんでした」

「ちなみに彼が軍を退いたのはアンリと同時期。ある任務で足を悪くしてしまったからで、日常生活に支障はないけれど軍に残るには問題があると本人が判断した結果だそうだよ。それでも国が手放すのを惜しみ、いざという時に召集できるように国の機関であるこの学校の教師になることを強く勧めたんだ」


 クルト先生の有能情報に、確かに、と頷く。だってあのシスター直属の部下だったようだし、普通や少々有能程度ではとてもやっていけそうにないだろう。アーラの町の宿屋の女将さんもかなり個性的な軍医だったようだし。


「そういえば、シスターは何故軍をやめたの?」

「あれ、聞いてない? ある日突然『やりたい事ができたから旅にでる』って言って、止めようとした将軍を物理的に止められなくして出奔に近い形で軍を抜けたんだよ。ちゃんと受理されてはいなかっただけで手続きはしていたから、軍ではすこし騒ぎになったぐらいで終わったんだけどね」

「やりたいことってシスターになること?」

「シスターがやりたかったからかはわからないけれど、嫌ならなっていなかっただろうからそれも含めて今はやりたいことができてるんだと思うよ」


 シスターのやりたいこと。

 それは単純に身寄りのない子供の保護なのかもしれないが、シスターは時々孤児院を留守にすることがありその時にしている事なのかもしれない。まぁそれは今考えてもしかたがないことだけれど。


「それで今回の聖女についての情報が恐ろしく少ないことに関してだけど、もしかしたらエフィーのように力を隠しているか、ヴィルにも感知できないような特殊な場所にいるものと僕は考えている。そこで質問なんだけど、その力は容易に隠すことができるものなのかい?」

「やろうと思えばできないことはないっていうぐらい。私はフィーネの記憶が流れ込んだ時に聖女を強く拒否したから気合でできただけであって、それがなければ力の拒否どころか隠そうなんて考えもしなかったと思う。……フィーネみたいに」

「まぁ可能なんだろうな。ヴィルも普段はしっかり隠しているどころか一番適正があるのは水だと偽装しているぐらいだ」


 名前を出されたヴィルは一瞬キョトンとしたような表情を見せるがすぐにくすくすと笑みをこぼす。


「俺の属性は隠し事にも向いているからね。気合でどうにかできるフィーのほうがすごいよ」

「まぁエフィーだし、保護者が保護者だから気合とか根性で自然の摂理を無視しても不思議とは思わないけれどね」

「エフィーですものね」

「今も昔も方向性は違うが、色々考えが足りていないことに変わりはないからな」


 失礼なマリウスの言葉に全員が頷くのを憮然として肩を落とした。

 自分では昔に比べて色々と、本当に色々と考えているつもりだったというのにあんまりな言葉である。

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