71 ある天族の独白
人の身でありながら浄化の力を使える者がいる。
そういった者は人の世界では男であれば聖人、女であれば聖女と呼ばれていた。
ある時、我らが偉大なる父の愛を受けた聖女が人の欲によってその命を散らせてしまう。
偉大なる父は酷く嘆いたが人々に干渉することはせず、ただ聖女の魂を輪廻の輪から外し手元に置き慈しもうと考えた。だが、ある男の願いと決意にその考えを改める。
輪廻の輪に戻すためにその男には条件が提示され、それを了承した男は人であった過去を捨て天族となった。
そして二百年の後、再び聖女は誕生する。
俺が人でなくなって長い年月が過ぎたある日、偉大なる父は言った。
――聖女を輪廻の輪に戻す、と。
そして聖女が再び生を受けた数年後、旅先の事故で聖女の両親が他界した。
前世の聖女も同じ年頃に両親を失っている。まるで聖女が前世と同じ生を歩もうとしているような錯覚を覚え、新しく聖女を見守る者がすでにいることはわかっていたが様子を見に行くことにした。
訪れた場で目にしたのは姿形こそ同じだが、同じ魂を持つとは思えないほど逞しく成長している聖女の姿。その姿に酷く驚きはしたが、同時に酷く興味がわいた。
幼い聖女は軽い音を立てながら素手で木を割り薪を量産する。
恐らく攫おうと近づいたのであろう暴漢を、容赦なく殴り倒し保護者へと引き渡す。
ある時は柵を飛び越え侵入した魔物を綺麗な円を描いて蹴り飛ばし、魔物はそのまま外へと吹き飛ばされ見えなくなった。
その後も姿を隠し気配を殺して観察を続けていたが、度々彼女の保護者から笑顔のままの視線を向けられ、その度背筋が凍るような錯覚に陥る。
聖女の庇護者であるのだから普通の人間であるとは思っていなかったが、どうやら偉大なる父はとんでもない人間を庇護者としたらしい。
聖女として力に目覚めた後、聖女はその力を使うどころか一切感知できないほど完璧に封じ込めていた。
自分が天族であるからこそ彼女が聖女であるとわかるが、この状態でそのことに気づくことができる者はいないだろう。
愛し子に与えられているのは偉大なる父の深い愛の証である神の力の一部であり他は普通の人間と変わりない。人として生を受けているのだから当然だろう。
当初は一目見るだけのつもりだったがそのままズルズルと聖女の生態を観察した結果、この聖女は不思議な生き物と言わざるを得ないというのが俺の認識となった。
ある日、聖女の保護者は幼い少年を連れて帰宅する。
ゆっくりと動き出す運命。
その運命に自ら進んで足を踏み入れてた俺は、小さく笑みを浮かべて俺の前に立つ人物を見上げた。




