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68 勇者という存在

 それぞれの説明が終わると、リーゼは困惑したようなそれでいて納得したような何ともいえない微妙な表情を浮かべ、ジークは天を仰いで盛大に息を吐き出した。


「なるほど、通りで昔から人間離れしていたわけだ。十歳にも満たない少女時代に、暴言を吐いた騎士を木の枝一本で地面に沈めたという話を聞いたときは従者じゃないかとしばらく疑ったものだけど、勇者だったからなんだね」

「いや、それは違う。勇者となったのは軍を抜ける直前ということだから、お前の言う昔からというのは勇者だからだというわけではなく間違いなく本人の資質であり能力だ」

「うーん。じゃあやっぱり勇者というのは本来の能力も規格外ということなのかな」


 シスターの勇姿を思い出したのか、遠い目をしたジークにマリウスが間違いを指摘する。ラフィカがシスターは入隊するまえから素晴らしい云々と目を輝かせていたし、やはりシスターは勇者でなくとも素敵だったのは間違いない。


「そんな話いつしたの?」

「別れる前お前が子供たちに囲まれている間に少し、な」

「勇者ということを疑っているわけではありませんが、私たちが教えられている勇者と本当の勇者というものは根本的に違っていますわね」

「そうだね」


 本当の勇者の使命に戸惑いを見せるリーゼ。

 確かに国や教会が提言する勇者とは人々やこの世界を守るために神に力を与えられた浄化の力を持たない者であり、その中でも神の愛を受け浄化の力を持つ者が聖人・聖女と分類されている。両者の力に違いはあるが、どちらも人々や国のために尽くすべきであるとされているという点は同じだ。そしてその在り方は二百年前も同じ。


 けれど勇者であるシスターに人々や国を守る使命などはなく、あるのは神から直接受けた丘を守るという使命のみ。もちろんシスターが嘘をついているという可能性がないわけではないが、マリウスが言うにはそれは私が学校の最初に受けた筆記試験で満点を取る確率よりもはるかに低いのだそうだ。

 つまり勇者というのは人のためではなく、神の駒として動くために力を与えられた者ということになる。


「神の声を聴ける人間は限られている。その使命や存在意義が正確に伝わっていなかったとしても不思議ではない」

「確かに。いくら勇者が発言したとしても強大な権力には握り潰される。……本人の逝去後に残った者が都合の良いことのみを正式な記録として残すことは容易いだろうね」

「歴史は国が。勇者や聖人・聖女に関しては教会が偽っているということか」


 マリウスの言葉に苦笑を浮かべジークが同意し、きゅっと口を結び視線を足元へと落とすリーゼ。

 そんな二人の様子に、二百年前のあの伝説もそうやって操作された結果なのだろうと妙に納得がいった。それがどういう意図による情報操作なのかはわからないけれど。


「とりあえず、当面は聖女で魔王な少女について調べる。――そういえば、教会のほうはどうだったんだ?」

「近々聖女の誕生が教会から正式に発表される。ルバルツでの目撃情報があるから少女がその力に目覚めたものと推測されているようだね」


 ジークの言葉にほっと控えめな胸をなでおろす。この発表で世間では聖女は幼い少女だと認識されることだろう。


「その聖女様は見つかったのか?」

「いや、まだだよ。聖女が幼すぎて自覚していないから名乗り出ていないのだろうって。だから発表と同時に聖女である少女に心当たりのある者は教会に申し出るよう通達するとか」

「……それはまた面倒なことになりそうだね」


 確かに上空に浮かんだ聖女様と天族は人々に強い印象を植え付けただろうが、遠目には天族との身長差があることはわかっても、その容姿は全くわからなかっただろう。

 恐らく幼い少女だろうとしかわからない状態で探し出すことは難しいのだろうが、これでは多くの聖女候補が現れるのは容易に想像できる。聖女の家族というのはそれだけで名誉なことらしいから。


「新たな聖女は魔王でもある。そう容易く見つけられるとは思えない。でもね、その従者を探すのは容易いかもしれないよ?」


 聖女を探す労力を考えるうちに無意識に寄せていた私の眉根にやさしく人差し指が当てられ顔を上げると、小さく笑みを浮かべたヴィルと目が合う。


「なるほど。聖女のことばかり考えていたけれど、確かにあの少女が本物の聖女として力に目覚めたのなら、同時に従者としての力に目覚めた人物がいるはず……」

「確かにリーゼロッテの時は目覚めた当初、その力に戸惑っていましたわ。従者であると分かり、その後フィーネと出会ったことで落ち着きましたけれど」

「確かに本当に聖女ならば従者がいる可能性は高い。本当に聖女であるなら、だがな」

「探す価値はあるよ。聖女と従者はお互いに引き合うからね、僕たちが今集まっているように。それに聖女はある程度近くにいればエフィーや僕たちは無理でもヴィルは気が付くだろうし」


 ヴィルの言葉にはっとして顔を上げた三人は、顔を見合わせると大きく頷きあう。そしてジークは残念そうな顔で私を見ると、すぐに笑みを作ってヴィルへと視線を移す。


「王都ぐらいの広さならある程度力を抑えていてもわかるよ。エフィーみたいに完全に力を隠されると見える範囲じゃないと無理だけど」

「ならやっぱり聖女はヴィルに任せて、僕たちは従者を探そうか」


 その後はジークが中心となりどうやって従者を探すのかという話題になった。

 従者として力には目覚めても本人に自分が従者であるとわかるわけではなく、突如身についた力の調節が上手くできなく戸惑うことが多いのだそうだ。何かの拍子に力を暴走させたりすることが多く、昔よりも情報伝達の手段が進んだ今、そういった話は噂になりやすいのだという。

 ちなみにシスターも軍に入る前から名前だけは広く知られていたらしい。ただ男でも違和感のない名前だったので軍に入るまで世間では男だと思われていたそうだが。


 噂が必ずしも真実とは限らない。けれど噂になるには必ず何か理由がある。

 もちろん根も葉もないものもあるだろうけれど、それが噂となるには人の悪意や運の良し悪しなど何かしらの理由がある。だからジークたちは噂を集め、その中から従者に関すると思われるものを調べるつもりらしい。


「気が遠くなりそうな話ね」

「現時点で僕たちにできることはこれぐらいしかないからね」


 結局私とヴィルそしてマリウスでウーアや近くの街を調べ気配を探索しつつ噂を聞き、ジークとリーゼは主に王都での噂を集めることになった。

 ジークは王子という肩書があるので王都や学校周辺以外を頻繁に出歩くのは難しい。一方私たちは街で噂を集めることはできてもきな臭い噂が聞けそうな城には入ることすらできないので適材適所ということになるのだろう。


「あ、合間を見つけて精霊の森で鍛錬するのも忘れずにね。各自今の自分の力をきちんと把握して使いこなせるようにしないとあの少女を見つけても対処できないだろうし」

「あの森か。確かに力を加減せずに走れば一日でも鍛錬する時間は取れるだろうが……できるだけ連休に行くほうがいいだろう」

「森への経由でいろいろな町や村に寄れば情報収集もできるし、次の休みにさっそく行ってみる?」

「そうだな」


 訓練という言葉を強調し主に私に向かってにっこりとほほ笑んだジークだが、それの含むところは間違いなく私のシスターの教えにより培われた戦闘様式のことだろう。


 言い訳にすぎないということはわかっているけれど、そもそも孤児院に武器を買うような資金はなく、シスターは魔法を使うことができないのでいざという時のためにと己の体で戦う方法を教えられていたのだ。

 さらに私にフィーネの記憶はあるが魔法は簡単なものしか使えないことになっていたし、なにより二百年前の最後の戦い以外ずっと三人の後ろで守られていた記憶が魔法以外で戦うすべをもつことを強く望んでいた。


「私は何か武器の扱いを覚えなくてはいけませんね。今の私に剣を扱うことはできませんから」

「それは僕が教えてあげるよ」

「……よろしくお願いいたします」


 手取り足取りね、という幻聴が聞こえた気がしたが恐らく気のせいだろう。きっと私の耳が良すぎてジークの心の声が聞こえただけだ。


 その後各自の部屋に戻ったのだが、ベッドに横になってやっとアルボをどうするのかという話をしていないことに気が付いた。まぁ保護者の二人がなんとかしてくれるだろう、多分。




 何事もなくきた週末。

 予定通り私はヴィルとマリウスと共に学校を出て、再びアーラの村を訪れていた。


「……眠い」

「まったく、まだ太陽は真上にあるんです。眠るには早すぎる時間ですよ。しっかりしてください」

「んー……」


 後ろではふらふらと左右に揺れるアルボの頬を、私たちのように魔力の高い人間以外には見えない程度に姿を消しているアクヴォがアルボの頬をその尻尾でぺちぺちと叩いている。

 アルボは姿を消すことができないためにリーゼに同行させることができず、アクヴォはお目付け役兼リーゼへの連絡係としてアルボに同行していた。


「あ、あれ」


 村の外へと続く通りの一角でふとヴィルが声を上げ、壁の張り紙の一つを指差した。

 時折道行く人が足を止め眺めていくその張り紙に押されている印は教会のもの。やはりそれは聖女を探しているという内容だ。


「それにしても、なんというか斬新な趣向だね」

「よくこれを貼り出そうと思ったものだな」

「確かに間違ってはいないと思うけど……」


 聖女の特徴と共に描かれた人相画。良くいえばヴィルの言うとおり斬新と言えるだろうが、私が抱いた感想は「何これ」としか言いようがない。


 一番の特徴として描かれているのは銀髪。確かに間違っていない。あの少女も銀髪だった。

 瞳についても補足として空のような青であると書かれているが、問題はその顔の描写だ。目の位置には目の文字が。鼻には鼻の文字。口には口という文字。

 たしかに間違ってはいない。間違ってはいないが、外見が全くわからないのに何故わざわざ絵を描く必要があったのかということだ。


「外見が解らないが聖女となると安易に適当な顔を描くわけにもいかなかったということなのだろうが……今の教会には馬鹿しかいないのか?」


 教会をよく知るマリウスも困惑気味だ。さすがにこれほどとなると馬鹿しかいないのではなく、かなり力を持つ地位に馬鹿がいるんだろう。


「目を引くという点では優れていると思うよ。これなら聖女候補もたくさん現れそうだ」

「確かに少女であるという以外には髪と瞳の色の二点だけだからな」


 くすくすと笑みをこぼすヴィルの背を、マリウスがため息をこぼしながら押して先を急がせる。

 広くはない村の外に出るまでに、その奇抜な張り紙を数回目にすることとなった。

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