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65 魔王より恐ろしいもの

 地図上ではただ平地が広がるだけの特になにもないとされる場所。

 強い魔物は少ないが生息する魔物の数が多く訪れる人間は少ない。


 特に生息数が多いのは雑食だが草や果物をより好み、人里を襲うことは稀というあまり魔物らしくない魔物。唯一魔物らしい点は人や動物を見れば襲い掛かるということぐらいだろう。そしてその魔物を餌とする魔物がそれなりに生息している。

 現時点では人間に被害がほとんどないことや、わざわざこの地を開拓しなくても問題ないほどこの国には豊かな土地が多いこと。何より時折天災級の魔物が現れることもあり、この辺りは基本的に人の手が入っていない自然が広がっている。

 その天災級の魔物というのは大量にいる餌となる魔物を狙ってやってくるのだと以前読んだ本には記されていたが、十年以上この地で暮らしていたというのに私は一度もそれらしい魔物を見たことがない。

 数は少ないが貴重な素材がとれる魔物も存在するのでそれを嬉々として追いかけまわしていた某村人や、村を襲ったが返り討ちにされ逃げた魔物を他に被害が出ないようにと追いかけたシスターが何らかの理由で魔物と間違われただけのような気がしてならない。


 ――といったことからまだ日があるというのに人の気配を全く感じない草原を、二つの黒い影が駆けていた。


「お前の保護者は色々すごい人だな」

「ええ、本当にシスターは素敵な人よ。私の憧れであり目標なの」

「……前回はアレで今回はコレか……。間違っているとは言わないが、お前は毎回突飛な――いや、幸せそうで何よりだ」


 ウーアまで私たちの足ならば魔法による補助なしでも門限までに十分間に合うということで、今はマリウスによる遮音と隠蔽の結界を纏った状態で疾走している。結界により内部の空気の流れは一定に保たれているので会話をするのもたやすい。

 従者として目覚めてより高度な魔法が扱えるようになったマリウスは、短時間であれば私の浄化の力を遮断する結界も張れるそうだ。何でもフィーネの宝玉を安置するまでの間に開発したのだとか。


「しかし勇者か……」


 走る速度を落とすことなくマリウスはすっと目を細める。


「とりあえず、フィーネの宝玉は今まで通りシスターに任せるしかないわよね」

「下手に手を出したら敵と認識され排除されかねない。そもそもすでに宝玉は形を無くしているはずだから回収は不可能だろう」

「どういうこと?」

「宝玉は永遠ではない。長い時間をかけ、この世界に溶け込む。それが聖女でも魔王であっても変わることはない。さすがに聖女や魔王ともなるとその場に多大な影響を残すようだが」


 マリウスが言っているのは孤児院のある村の丘とヴィルの宝玉が安置されていたという精霊の森の事で間違いはないだろう。記憶が戻り、精霊の森の異常さの理由に合点がいったといった表情だ。

 これは良い機会だと、私は人生設計の目標の一つについてのかかわりのあるというのにすっかり聞き逃していたことについて尋ねることにした。


「魔王の宝玉って魔王封印の地にあるとばかり思っていたんだけど、精霊の森にあるっていうし。実際封印の地には何もないの?」

「何もないわけじゃない。あそこには未だ消えない魔王の魔力が残存している。従者では浄化できなかった暴走した闇の魔力がな。だからその場に人が近づかないようジークムントが取り計らったんだが、その場所に力の結晶ともいえる魔王の宝玉をそのまま安置するわけにもいかず、色々な条件に合ったあの森に安置したんだ」


 確かにリーゼもあの森の特殊な磁場を利用して魔王の宝玉を安置したと言っていた。

 二百年たった今でも森全体に影響を残しているのほどの魔力だ。暴走した魔力の残る封印の地にそのまま安置していたら、宝玉の力が暴走した魔力に引きずられて精霊の森とは比べ物にならないほど辺りに悪い影響を及ぼしていたとしてもおかしくない。


「封印の地に残留魔力しかないのなら、お墓詣りはやっぱり森のほうに行くべきかしら」

「どうして墓参りという発想が出てきたのかわからないが、すぐ近くにいる本人を拝んでやった方が喜ぶんじゃないか?」

「……本人?」

「ヴィルが元魔王なんだろう?」


 ぎぎぎ、とぎこちなく首を曲げるとマリウスは何か不審なものを見るような目を私に向けた。


「あの容姿であの力。代々の魔王は全員同じ容姿を持つという可能性が無いわけではないが、あの魔王の素性や俺たちが今ここにいることを考えれば、魔王も俺たち同様転生したと考える方が自然だ」

「……確かに」

「どうせもうお前が元聖女だということも気づかれているんだろう? 問い詰められればお前が口を滑らせないはずがないからな」


 確信を持って私を見るマリウスの瞳は揺らぎない。

 私が失言して正体をばらしているというところまで確信しているあたりマリウスらしいといえるが、ヴィルに聖女だと気づかれたのもヴィルが元魔王だと気が付いたのも、すべてヴィルが力を行使したことによるものであり断じて私の失言が原因ではない。あの時ヴィルの力を防いでいたとしても力には気づかれていたのだから不可抗力といえるだろう。


「でもあの教会にあった神器には魔王の宝玉の欠片が埋め込まれていたのよね」

「神器に?」

「ルバルツで私たちが夜に抜け出したのは神器を確認するためだったの。そしてその神器には間違いなく魔王の宝玉の欠片が埋め込まれていた」

「あの時か」

「でも欠片とはいえ魔王の宝玉がどうしてそんなところにあったのか……」


 今思えば、あの時のマリウスへがヴィルの闇の魔力に触れたことが前世を思い出すきっかけになったのではないかと思う。

 ここまでかなりの速度で駆けてきたため、陽が傾くより先に、前方にはウーアの街が見えてきていた。さすがに今回はマリウスが一緒だったので道を間違えることもなく無事に到着したようだ。


「――もう街も近い。まだ時間に余裕はあるようだし、話の続きは街の適当な場所でするか」


 そう言ってマリウスは速度を緩め、結界を消し去る。

 マリウスが続きは学校でと言わなかったのは、私服で一緒に学校に戻りどこか人気のない場所に向かうところを目撃されでもしたらどういう騒ぎになるかをよくわかっているからだろう。

 交流会で起きた想定外の事態にも冷静に対処したとして特にマリウスの評価は大幅に上がり、マリウスとヴィルを有望株と見ているお嬢さん方のやる気は急上昇。一方アプローチを受けるマリウスの機嫌は急降下している。


「それにしても、マリウスも大変よね」

「またお前の面倒を見なくてはいけないからな。アルボだけで手一杯だというのに」

「そうじゃなくて、女性人気が高くて大変ねってこと」


 街に入ったので手ごろな場所を探しながらあたりさわりのない会話を交わす。

 モテるのも大変だなのだとしみじみ感じていたのだが、マリウスはそれを違う意味に受け取ったらしい。むっと眉を寄せつつ間違いを訂正すると、マリウスはその顔に驚愕の色をのせ、後ずさった。


「エフィー、お前はそれを本気で言っているのか? あれは女ではなく獲物を狙う肉食獣の目だ。下手に手を出せないぶん魔物よりたちが悪い。あの視線には身の危険を感じる」

「それだけ熱心ということよね。今のマリウスを力ずくでどうこうできる人なんてそうそういないんだし、手を出せなくても身の危険なんてないんじゃない?」

「本当にお前は馬鹿だな。貴族社会では知りもしない人間が恋人を通り越して本人の知らぬ間に相思相愛の婚約者になっているなんてことも十分にある。楽観していたら貴族社会の闇に食われる――っと、確かこの辺りに空き地があったはずだ」


 女子生徒たちの目を思い出したのか、マリウスは魔王と対峙したマティアスよりずっと悲壮な表情を浮かべ自身の腕を掴む手にぐっと力を込める。

 学校へと続く坂へと差し掛かると、マリウスは小さく呟き音もなく横道に足を踏み入れた。その足取りに迷いは見えず、ずんずんと先へ進んでいく。

 しばらくしてマリウスが足を止めたのは、見覚えのある小さな空地。入学試験の時に私が転移したその場所だった。

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