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10x.side-O


 −イントロダクション−


 求め続ければ無くさないと、誰かに期待していた。


 −10x.七月一日(side-O)−


 私、こと常陸 白音はとある人物の後を物陰と物陰とを渡り歩き、本人に見つからぬよう慎重かつ慎密に隠れながら、あとをつけて歩いた。いわゆる『尾行』をしている訳だ。人に感ずかれず、後をつけるというのは素人対素人では追跡する側が圧倒的不利だ。何故ならば……と、危うく脳内で無駄な論議を己対己で交わし始めそうだった。今は専念すべき事に専念すべきだ。

 現状における追跡される側の人間、被追跡対象は言わずもがな、睦月 飛鳥。私の数少ない友と呼べるクラスメイトの後を、失礼千万にも無許可に追跡していた。私と同じように尾行をしているのは、勿論の如く青海 麟。彼女が尾行しようと言い出した張本人な訳だが、だからといってそれを現在行っている所業の免罪符にするつもりは無い。私も人のことが言えないし、な。

 商店街で別れてすぐ、私と麟は気づかれぬように踵を返し、飛鳥の後ろにつけた。遠すぎず近すぎず、我ながらベストなポジショニングをしたと思う。麟が近づきたそうにうずうず体を揺らしていたので、独走しないようにさり気無く鞄を掴んで、行動を制御。まさに手綱だ。動物的なところを持ち合わせる麟には実にシックリくる。

 どうやら歩いて帰宅するらしく、バス停の方角には向かわなかった。ここから近いのだろうか?いや、それは短絡過ぎる考え方だ。金銭、時間、体力等、歩く理由は距離以外、挙げようと思えばいくらでもある。

 若干前に出すぎている麟を引っ張りつつ、なるべく自然に観察する。と、唐突に、

「ふふっ……」

 飛鳥が含んだような笑いをした。友達をこんな風に言うのは忍びないが、正直に言おう、思いっきり変態だ。今度見かけたら注意しておこう。

 麟が隣できもっ!こわっ!と言っているのを聞かないことにしておきつつ、尾行を続行。

「はぁ……」

 今度はため息。なんとも感情起伏の激しい子だ。もっとも、私たちの前ではなだめ役に回っている所為であまり感情を見せる事は無いが。今度は私がなだめ訳にまわり、麟と飛鳥をぶつけてみるのも良し、か。

 それからは特に何事も無く、ゆったりとしたペースで歩く。あまり劇的なことは期待していなかったが、こうも何も無いと肩透かしを食らったような、物足りないような、とりあえず不満だ。

 若干の哀愁を漂わせつつ、鞄から鍵を取り出し、戸をあけた。愛しの兄君がいる割には随分と暗い。

 ……もしかしたら、飛鳥は兄が嫌いなのかもしれない。私たちに心配とかをかけないように、兄好きを演じていたのか?いや、それはいくらなんでも考えすぎだ。いやいや、飛鳥なら変なところに気を回すからありえる。

 だからといって、どうやって真相を確かめる?本人に聞けるはずも無く、私が思考の沼に陥ろうとしていた時、麟から声が掛かった。

「んで、この後どうするよ?ん?とりあえず、お兄さんに突撃かますか?」

 怪しい笑み、怪しい眼光、怪しいポーズ。変態め。

「突撃するのは構わんが、屍は拾わんぞ」

「死ぬの確定!?」

「どう考えても」

「酷っ!私が前衛、お前が後衛、これでOKのはずだろ!?背中は任せたぜ!」

「あぁ、ばっちり背中から切り捨ててやる」

「裏切んの!?」

「どう考えても」

「そこは考え直そうぜぇ」

「無理だな」

 寸劇コントはこれぐらいにしておいて、早々に立ち去るか。あまり長く居過ぎて見つかったら、後々取り繕うのが面倒だ。

 それにしても、飛鳥の兄に直接突撃か、良い策かもしれない。日を改めて実行も考えておこう。目的は勿論、睦月家長男の人格判別だ。

 Uターンするのも変だと思い、そのまま睦月家を通り過ぎる形で、家に帰ることにしよう。ほんの少しばかり遠回りになるが、致し方あるまい。

「さ、帰るか」

「合点承知の助〜」

 奇怪とか古いというのは言わないでおこう、可哀想だ。清々しいまでの麟の笑顔が。

 睦月家を通り過ぎ、閑静な住宅街の更に奥のほうに行く途中、

「〜♪」

 妙に上機嫌に追い抜いていく、女性が目に留まった。狂ったように美しい、女性。

 麟は興味なさげ、いや、大音量の鼻歌を奏でていたから気づかなかっただけか。

 どちらだって構わない、私はいつ頃睦月家に突撃するか黙考しつつ、帰宅した。

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