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104.side-S


 −104.七月一日(side-S)−


 ――放課後。

 クラブに入っていない私は必然的に帰宅することになる。もちろんの如く、面倒な委員会なんかにも入ってない。

 もっとも、クラブに入っていてもそろそろ引退の時期。窓の外、教室から見えるグラウンドの上では最後の大会などに向けて一心不乱に練習し、汗をかいている。

 うちの学校のグラウンドは狭いので運動部の使用は交代制。今はちょうどサッカー部だった。

(サッカー、か……)

 兄さんは今頃、部活をしているのだろうか?それともまだ授業中?たぶん授業中だよね。中学なんかと違って、授業数も断然多いし。帰ってくるのは今日も遅いんだろうな……。なんか憂鬱、なんか暇。いやいや、暇じゃない。受験勉強しないと。兄さんの学校のボーダーラインにかすっても無いんだから。 

「何、黄昏てる。早々に帰るぞ」

 思考に耽っていると白音ちゃんが声をかけてきた。

「似合わない事この上ないな」

「大きなお世話」

 軽口の叩きあい。いつも通りの筈なのにどこか違和感を感じた。何か不足している気が……いや違う、正確に言うなら物足りないといった感じ。何かを忘れてる気がして仕方ない。

 何の気なしに白音ちゃんから少し目を逸らしてみる。そして理由を発見した。

 麟ちゃんがいる。懐いてない猫みたいに警戒している麟ちゃん。警戒しているので当然、借りてきた猫のように静か。ためしに麟ちゃんに向かって手を延ばしてみる。引っかかれた。フー、って鳴いている。

「猫がいるーっ!!」

 そう叫ばずにはいられない。当たり前の事だけど、麟ちゃんの頭の上にはクエスチョンマークが乱舞している。私からしてみれば、手を延ばしただけで引っかかれた時点で、こっちが疑問符を浮遊させたい気分なんだけどな。

 白音ちゃんにいたっては、腫れ物を見るような哀れみの目で私を見ていた。酷い、あまりに酷すぎる仕打ち。仕舞いには、

「病院へ行こう。大丈夫、私の知り合いの精神科医だ。信頼は出来る。私はどんな事があっても友達だ。だから、さぁ」

 と言い出す始末。白音ちゃん、引っ叩いてもいい?という言葉を何とか嚥下し、グッとこらえる。

 ところで、何で白音ちゃんに精神科医の知り合いがいるんだろう?そこら辺を追求しても面白そうに思えるけど、あいにく私は面白いからといって行動に出るタイプではない。たとえ言ったとしても、適当に言いくるめられるのがオチだ。下手をすれば自分に矛先が変わっているだろう。そんな面倒な事は避けておきたい。

「まぁ、そんな下らない事はおいといて」

 白音ちゃんが両手を左から右へと弧を描くように動かす。いわゆる「おいといて」のポーズだ。そういえばこの動作に正式名称はあるんだろうか?少なくとも私は知らない。なんとなく気になる。そんなことをボーっと考えてみた。結局知ったところで誰も使わないと思うけど。一種の知的欲求と処理して脳の外に掃き捨てた。

「今日はどこかによっていくのか?」

「うーん、もう受験も近いし、まっすぐ帰ろうと思ってたんだけど……」

 正直言うと遊びにも行きたい。けど、どう考えても勉強量が私には足りていない気がする。実際のところは人一倍しているはずだけど、目指す所が目指す所だし。勉強量に比例して成績が上がる訳でもないというのも知っている。

 受験というものはいくら学力が高くても、ほんの少しばかりの例外を除いて勉強を志望校と似合うだけの勉強をすれば受かる。そう兄さんが言っていた。兄さんもその例に漏れなかったとも。

 漠然とした不安。

 雲のように掴み所がない、消えない、消せない不安。そんなものが心の奥の方にわだかまっていた。いくら兄さんのい言葉があっても。

「たまに気晴らしも必要だぞ」

「でも……」

「家にこもって勉強するばかりが良いとは限らん」

「なんか言葉遣い変だよ、白音ちゃん」

 ん、そうか、といって首をかしげながら、奇異な点を修正しようと努力しているらしい白音ちゃん。

 確かに言葉遣いも変だけど、可笑しいのはそれだけじゃない。いつもならいくら弱々しくとも否定すれば、引くはずの白音ちゃんがこう押してくるのは違和感が塊で転がってくるぐらい変だ。

「どこか行きたいところでもあるの、白音ちゃん?」

「ん?あ、ああ、少しだけな」

 熟考していたのか、白音ちゃんの反応が少し遅れた。それを取り繕うように言葉を繋ぐ。

「だから、商店街の方まで行かないか?」

「わかった」

 白音ちゃんから誘ってくるなんてめったにないことだし結局、私は誘いを承諾した。

 荷物をサッとまとめて席を立つ。そのまま白音ちゃんの横に立ち、教室から出――

「って、ナチュラルに無視すんなーっ!!」

 ――ようとした所で麟ちゃんが爆発した。ちっ、ばれたか。

「お前らは悪魔かっ!!私がいくらナチュラルな存在だからってなめんな、コラーッ!!」

「なんだ、居たのか」

 あくまでそっけなく、静かに対応、いや、挑発する白音ちゃん。本日の第二ラウンド勃発!カーンッ!


「居たのか、じゃねーだろっ!あたしは空気かっ!」「良かったな、みんなに必要とされているぞ」「肯定すんなよっ!」「嬉しくないのか」「喜ぶ奴の顔が見てみたいよっ!」「私は条件によれば嬉しいぞ。さぁ、私の顔を篤と拝むといい」「ふざけてんのかよっ!」「あぁ」「肯定すんなよっ!」「同じ台詞を二度言うのは文脈上好ましくないぞ、麟」「キャラクターの分際でそんなこと気にすんなよっ!」「なんとも珍しい。麟が私に突っ込みを入れるなんて」「あたしのボケは無視かよっ!」「あぁ、当然の如く無視だ」「マジかっ!」「あぁ、大マジだ」「酷っ!」「あぁ、酷いな」「訂正は?」「どれについても無理」「さらに酷っ!」「まぁなんにしてもだ。この書き方は読者の方々に多大なる迷惑をかけていると思うぞ、麟」「読者ってなんだーッ!」「キャラクターとか言って貴様が言うか」「言うわっ!」「まぁ、そろそろ麟の戯言に付き合うのにも飽きたな」「戯言とか言うなよっ、仮にも友達だろ」「仮なのか」「いや、違うけど……何つーか言葉の綾だよっ!」「驚きの連続だな。言葉の綾という言葉を知っていた君にビックリだ」「馬鹿にしすぎだろっ!」「あぁ」「馬鹿にして面白いかよ、お前は」「腹がよじれて筋肉痛になりそうなほどに」「まったく笑ってないぞっ」「心の中で嘲笑ってるんだ」「笑いの種類が間違ってる」「きっと読者はもう私がどちらか分からなくなっているに違いない。私が麟だ」「嘘つくなよ。あたしが麟でお前は白音だっ!さらに混乱さすな」「読者に対する突っ込みはもう無しか」「ところで、これってどうやったら勝ちになるんだ」「戦いに明確な勝ちなどないのだよ、麟」「お前は――」「それ以上言うな、著作権に係わる」「どうでもいいから勝敗決めようぜぇー。そうしないとあたしの目が妖しく光る」「お前の意味の取れんボケなど聞き飽きた」「もう何でもいいから、勝敗――」「フン!」「ヴッ!?何でいきなり右フックを私のミゾオチに……?」「被害者なのに説明ありがとう。言うなれば先手必勝という奴だ」「今までの、話し合いに、何か意味あった、のか……?」「この世には意味のあることのほうが少ないんだ、麟」「酷すぎ、だろ……」「安らかに眠れ」「勝手に、殺すな……。でも、マジ、死ぬかも」


 決め台詞を白音ちゃんが言い放ち、麟ちゃんは糸の切られた操り人形のようにばったりと倒れた。

 読者の皆様、このわけの分からない対決に付き合ってくださり誠にありがとうございます。作者に代わりこの私――睦月 飛鳥が謝罪いたします。すいませんでした。心よりお詫び申し上げます。


   ―●―


 麟ちゃんが回復するのを待ってから、白音ちゃんとの約束どおり商店街まで出てきた。

 お約束のようにここで第三次七月一日戦争が起きたのは言うまでもない。だが、あまりにも理由が馬鹿らしいので割愛させていただきたい。結果だけは簡単に伝えておきたいと思います。




 麟ちゃん、大破(常人なら再起不能)。教訓として、白音ちゃんは敵に回してはいけない、としっかり頭に刻み付けた。

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