せめてもの気持ち
本編の文歌の姉が居た頃の過去になります
日が暮れて数時間。空はすでに暗闇に包まれている。街灯もなく今日は新月だから星の光しか見えない。まるで星がテレビのノイズのようにも見える新月の夜。
私は誰も居ない神社の境内に一人で腰を掛け空を見続ける。
私はこの月の消えた夜が大好きだ。恋焦がれているほどに大好きだ。
何も無い。だから何も掴めない。この虚無感は大嫌いだ。
私の妹を包む世界が・・・
全てが虚無に包まれた世界
いつかこの最悪な世界で飲まれてしまえばいいのに、なんてことを考えて私は月に一度新月の日にこの境内にやってくる。
昔は友達の家に泊まって来るとうそをついてここで一晩過ごしていたが、最近はなんだか嘘をつくことにも意味がないと知って新月の夜に私が家に居ないことは当たり前になってきた。
ああ・・・何度見ても掴めそうで掴めないこの蟠り。
もどかしくてたまらなくて、一晩中考え事をしていても時間が足りない。でも、いつの間にか私はいつも考えている間に眠りについて境内で朝を迎える。午前4時。
最後にお賽銭をして文歌の幸せを願って家に帰る。
パンパン
「どうか文歌が幸せな気持ちで暮らせますように」
振り返って、長い階段を見てこれからこの長い階段を下る面倒くささで我にかえる。この階段を見るときは境内に来たことを後悔する。
ふと、気づくと階段の下から上がってくる人影見えてくる。こんな朝とも夜ともつかない時間にご苦労なことだ。
朝の寒い空気で霧が出ていてよく見えていなかったが徐々に近づいてきて顔が見えてきた。
「文歌!?」
「あ、お姉ちゃん」
下から登ってきていたのは文歌だった。
おぼつかない足元でしっかりと手摺につかまって、少しずつ登ってくる。
「何してるのよ!一人で来たの!?危ないでしょ!」
少し怒り気味で文歌の元に駆け寄る。こんな誰も居ない境内に一人で来るなんて、目の見えない文歌には危険すぎる。しかも階段が長いから踏み外したら危なすぎる。
「えへへ、ごめんなさい。でも、お姉ちゃんが心配で迎えに来たくて」
「私の心配なんてしなくて大丈夫よ!こんな危ない場所に一人で来ちゃダメでしょ!」
私を心配してくれている気持ちはありがたい。いい子だねって言ってあげたい気持ちもあるが、そんな私の身を案じるぐらいだったら文歌には自分の身を案じていてもらいたい。
そんな事を考えつつ、文歌の体を抱きつく様にがっしり掴む。
「そんな危険な場所にお姉ちゃんを一人にしてるほうが心配だよ。だから迎えに来たの」
声のトーンは変わらない、むしろさっきよりやさしい声になっている気がする。だが自分が少し責められている気がする。
「ありがとう。こんな無茶しちゃダメだよ。さ、早く帰らないと学校に遅刻しちゃうわよ」
新月の夜というのは、面倒なことに大体次の日に学校があるのだ。週に5回学校に通っているのだから当然その周期に当てはまる確立が高いのは分かっているが、空気を読んで新月も次の日を土日か祝日にしてもらえないものだろうか。
そうして私達は家に帰ることにした。
パンパンってお賽銭するときの音を
読み返してみたときに
流し読みしてたから何を叩いてんだって自分の書いたものに疑問を持ってしまったことに恥じらいを感じました今日この頃・・・・