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いもけんぴ  作者: 十奥海
3/13

トラップの仕掛けられた一日

「はぁぁー、空がきれいだなぁ~」

「そんな自殺しそうな声で言われても綺麗に聞こえませんけどねー」

 そんな学校終わりの午後3時過ぎ。俺は水本を背中に背負いながら廊下から見える窓の景色を眺めていた。

 結局今日一日は水本の介護をして学校生活が終わったのだ。

 いつも水本の介護をしているのは白帆先生なのだが今日は何かと忙しかったらしく俺が面倒をみる羽目になったらしい。


 登校時のホームルーム

「あー、大路。朝から文歌の面倒見てもらったし、先生この後忙しいから授業の文歌の面倒よろしくな」

「いや、白帆先生の仕事じゃないんすかそれ」

「先生もいろいろあんだよ。文歌もいいよな?」

「おっけーだよ。せんせー」

 陽気な声で水本は了承をした。もう少し俺の介護に不安を抱いて頂けるとこちら側としてもありがたかった。

 ちなみに、俺は遅刻扱いにされた・・・


 昼休み

「意外に介護って疲れるな・・・」

「でも今日初めて介護した人とは思えないほど快適でしたよー」

 そりゃぁ何故か仕事があるとか言って後ろから白帆先生の監視が付いてるからな。下手な介護したら何を言われるやら。

「そりゃどうも」

「大路ー、先生忙しいから文歌のご飯のめんど」

「それは、先生がやってください!」

 どこまでも、俺の自由時間を奪うつもりなのかこの先生は。


 そして今、学校の帰り時間になって俺は文歌を白帆先生の所に連れて行って帰り支度に着く時がやっと来たというわけだ。

「お、学級新聞だ」

「学級新聞?」

 廊下を歩いていると掲示板に学級新聞があった。毎週水曜に刊行しており今日がその水曜日。朝撮られた写真は一体どうなったのか少し気になって見ることにした。

「ああ、朝会った変態パパラッチいるだろ。あいつみたいな奴が集まって学校の新聞を作ってんだ」

「なんか、平森君の説明だけ聞くと変な新聞みたいに聞こえるね」

「実際変なことばっかり書いてあるからな」

「どんなことが書いてあるんですか?」

 そんな話もしつつ、俺は学級新聞を読んでいる。

「お、白帆先生についての記事があるぞ。えっと、白帆先生の髪留めには現在の彼氏の名前が書いてあると言う噂、だってさ」

 白帆先生は髪をサイドで縛ってサイドテールにしてある。教師にしては中々攻めてくるじゃねぇかと思わせる髪型だ。

「せんせー彼氏なんていたの!?」

「さあな、先生の髪留めを見ない限りにはわからないな。興味もねぇよ」

「ええ!?私見えないから今度平森君私の代わりに見てくれないですか?」

「・・・気が向いたらな」

 正直、少しは気になっている自分がいる。

「絶対ですよ!」

 絶対といった覚えはない。

「んで、その白帆先生は第三理科室にいるんだっけか?」

「はい、そこまで連れて行ってもらえればあとは先生が」

「んじゃ、さっさと行くか」

 今日一日始めての介護で疲れた体は、もうかえって寝たいと悲鳴を上げていた。疲れたと言っても、疲れは殆どが水本を背負っていることによる足腰の疲労なのだが。


 第三理科室前

「あっはっはっは、そいつぁ大変だったねぇ」

 第三理科室の前の廊下を歩いていると、まったく女ッ気のない白帆先生の笑い声が聞こえてきた。もう少し女らしく笑うことは出来ないわけだろうか。誰かと話している様子だ。

「お?なんだ先生だけじゃないんだな」

「え?誰でしょう」

「ほんと大変だったんだよぉ菜伊美君」

 もう一人の声が聞こえた。もう一人の方はプロレスラーの様な工事現場のおっさんの様な野太い声だったが、学校の先生や生徒には聞き覚えの無い声だった。菜伊美とは白帆先生の名前だ。

 すでに、第三理科室前に来た俺はノックをしてさっさと中に入ってその人物を確認することにした。

 コンコン

「失礼しまーす」

 ガラガラー

「おお、遅いぞ大路。待ちくたびれて泣くとこだったじゃねぇか」

 戸を開くと、人の姿は白帆先生一人だけだった。

「水本連れてきましたよ。って先生さっき誰かと話してませんでしたか?」

 周りを見渡してみるが誰もいなかった。

「ああ、硝さんのことか?硝さんだったらここにほら」

 そういって先生は自分の目の前の席を指差している。だがその場所に人はいない。気でもふれてしまっただろうか・・・

「せんせー、硝さんって誰ですか?」

 後ろで俺におぶられている水本が顔をひょっこりだしていた。目が見えない分指をさしている場所すらわからない水本にはもっと理解が出来ない状態なのだろうか。

「誰もどこにもいないじゃないっすか」

「ワシのことだろ」

 野太い声がまた聞こえたと思ったら、先生が指差していた椅子から一匹の猫が前の机に飛び乗って現れた。声の主はこの猫らしい。

「水本・・・帰ろう」

「え?え?そ、そんなまだ私達付き合っても無いのにお持ち帰りな」

「違う!」

「なんだなんだ、夫婦漫才かこのやろうめ」

 猫は声に同じく態度もおっさん風だった。

「今日一日でそんなに距離が縮まったかぁ、そうかそうかじゃぁしょうがないお持ち帰りして来い!」

「比目の魚は二匹そろわんと泳げぬというしなぁ」

「うるせぇ!猫が喋るな!何なんだその比目の魚ってのは!」

「比目の魚ってのはな小僧」

「別に聞きたくねぇよそんなもの!」

「ええ!猫さんが喋ってるんですか!どこですか!」

 後ろで目を輝かせてる気配がするのがまた状況を混沌とさせる。もう、どうにでもなってくれ。

「ほれここじゃここ」

「こっちくんな!」

 猫は机を飛びついでこちらに近づいてきた。

「大路は臆病だなぁ、猫が喋ったくらいで怖気づきやがって」

 誰が臆病者か。怖気づいてるわけでもない。ただ、常軌を逸しているこの状態を受け入れたくないだけだ。

「とりあえず、教室に入れ。戸を開きっぱなしにしてると寒くてしょうがない」

「あ、すいません」

 ガラガラガラ、ピシャ

 ああ、閉めてしまった。こんな、意味不明な生物のいる部屋に俺は少しの間でも滞在することが決定した音だ。

「とりあえず、ここに座っておけよ」

 そういって俺は、近くにあった椅子に水本を座らせる。

「それでだ、 今日一日大路に文歌の面倒を見てもらったわけだが」

「(やっぱり故意だったんですね)」

「文歌先生?点数はおいくつで?」

「う~ん、90点!」

 意外に高くてびっくり。そもそも、介護の点数を高くつけれらてもそこそこに嬉しくは無い。が、ご不満が無かったのならばそれはそれで何より。

「そんなわけで、今日から大路も花火作成の一員になりましたー。どんどんぱふぱふー」

「は?」

 まったく状況が理解できない。花火作成?なぜ俺が?そもそも今日からって、今まで花火作りなんてこの二人はしてたのか。

「わ~、平森君もがんばってつくろうね~」

 拍手をしながら水本が歓迎の意を表している。

「いやいやいや、俺こんな訳のわからない猫がいる場所で作業とかしたくなですよ?俺は非現実的なものは見えなかったことにする主義なんで」

「そんなこと言わないで、手伝ってくれよ大路ー。先生と文歌じゃ人手が足りないんだよ」

「平森君、嫌なの?」

 さっきと打って変わって、申し訳なさそうに聞いてくる水本。

「・・・別に嫌でもねぇよ」

 見事に俺の心はへし折られた。

「じゃそゆことで今日からよろしくな坊主」

 そういって、猫は手を差し出してきた。がそれはどう見てもお手をしようとしている手にしか見えないのは黙っておこう。

「猫と仲良くするつもりはねぇよ!」

「なんだとこの坊主!」

「坊主じゃねぇ、平森大路って名前がちゃんとあるんだよ!」

「おう、じゃぁおめぇは今日から大ちゃんだ!」

「やめてくれえぇぇええええーー!」

「だから俺のことは硝ちゃんって呼んでくれてかまわないぜ」

「うるせぇ、硝ちゃん!」

 ぐほっ!これは自分で言ってて自分にかなりダメージが来る。

「にゃあぁあ!中々やるじゃねぇか大ちゃん・・・」

 猫にもダメージがそこそこ与えられているようだった・・・・

「先生止めなくていいの?」

「男と男の馴れ合いって奴だ。女の私達に手を出す余地なんてないさ」

 

 

 数分後

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

「いやぁ元気のいい餓鬼だ。餓鬼はこれくらい元気がねぇとな!」

 数分間言い合いが続いたが結局俺は、なんだかんだで言いくるめられ劣性状態から抜け出すことなく。猫の名前は硝さんと呼ぶことに決定した。

「で、先生。俺は何をすればいいんだ?」

「ああ、今日か?実は昨日火薬が入ってるビンを割っちまってなぁ。夜遅かったし放置して帰ったら湿気にやられて使い物にならなくなっちまってな。あっははは・・・」

「もー、ほんとに心配したんですからね。今度から気をつけてくださいよー」

「で、今日は一体?」

「ふむ、今日はな・・・お前を花火作りの一員にするための日だったのだ!つまりこれで、かいさーん。仕事はまた火薬仕入れることが出来たらな」

「つまり今日一日俺は朝から作戦にはまっていたってことですか?」

「そうゆうことぉ」

 にっこりして和むその顔は今日一日で初めて先生の女っぽいしぐさを見た気がした。それは、俺の一日の疲れを現在に集約させる効果も持っていた。

「はぁ、じゃ俺はもう帰っていいですよね?」

「いやー、火薬買うのにも手続きが色々あってな。そんなわけで、今日は文歌の家まで送ってやってくれないか?」

 挨拶当番の時からずっと同じ調子でまた帰宅までもこの教師は俺に押し付けるらしい。別に嫌というわけではないが。

「そろそろ、水本も俺じゃ不満があるだろ?」

「いえ、ありませんけど。でも、平森君がいやなら別に帰りは一人でも帰れますし、そもそも今日は平森君をここに連れてくるために一日面倒を見てもらっていたわけですし」

 本音ざっくばらんにどうもありがとうございます。白帆先生に言われるよりなんだか納得してしまうのは、先生の日ごろの行いが悪いからなのだろうか。

「いやじゃねぇけど・・・」

 少しも嫌がる気配のさせない水本に照れる自分が恥ずかしい。でも不思議と嫌な恥ずかしい気持ちではない。

「ああ、あと硝さんもよろしく頼んでいいか?」

「嫌です!」

「なにぃい!わしの何が悪いってんだこの坊主!」

 ここで、坊主じゃねぇと返したらまたさっきの二の舞になってしまうから、はやる気持ちを抑えて。

「喋る猫なんざ俺の家において置けるか!」

「別に一人暮らしなんだし、いいじゃねぇかなぁ?文歌」

「え?私に同意を求められても・・・でも、私だったら飼ってみたいな~。でもうちは親が飼わしてくれないだろうし」

 すると、硝さんが水本の座っている膝元に行った。

「文歌ちゃんには悪いがわしも男でな、人様に迷惑かけるようなことはできねぇよ」

 俺に迷惑かけておいて、どの口がひん曲がったらそんなことをいえるんだ。

「わぁ、猫さんだぁ~」

 水本は膝元に来た硝さんの頭を撫で始めた。物静かな雰囲気の水本にこれがなんとも絵になる。だが

「んで、なんで俺の家ならいいんだ」

「だって、大路んところペット飼うのOKなアパートだろ。しかも、一人暮らしだから迷惑をかけるのは大路だけ。完璧だな」

 そう、俺は一人暮らしをしているんだ。しかも、そのアパートは学校の目の前。立地条件最高の物件だ。だからといって、俺に迷惑をかけることは良しとされるのは納得が行かない。

「・・・わかったよ。だが、くれぐれも騒ぎを起こすなよ」

「わかってるって、わしはこれでもジェントルメンだぞ」

「じゃぁ、帰るか・・・」

「はい」

 俺はまた、水本を背負って帰宅の途につくことにした。隣にはおっさんじみた猫を連れて・・・

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