表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いもけんぴ  作者: 十奥海
2/13

これがかの有名なパパラッチかっ

 ここは、私立蒔那学院。ここらの町では一番大きな高等学校だ。そんなこともあって、ゴロツキにぃちゃんになるような奴ら以外は大体が蒔那学院を目指して受験を受ける。

 俺は別に目指していたわけではないが、受験をして入学することになった。別に頭が良すぎてこんな憎まれ口みたいなことを言ってるわけではない。

 俺はこの学校の理事長の息子なのだ。

 だからと言って裏口入学的なものを使用したわけでもない。親が勝手に蒔那学院の受験名簿に入れて半強制的に受験をさせられただけだ。

 そして、俺も晴れてこの町の中学3年生が大体目指すところの例外に漏れず入学になった。俺の意思とは関係なく。

 そんなことはどうでもよかったんだ。

「おはようございまーす!」

 俺は、なぜか生徒会役員の名簿にも勝手に登録されていた。

 そして、今日は校門での挨拶当番の日。なんで、俺がこんなやりたくもない役職をやらされなければならないのかわからない。が結局流されるままに仕事をまっとうする今日この頃。

 一人一人に挨拶をするが挨拶が返ってくるのは大体3分の2といった具合だろうか。残りの3分の1はイヤホンをして聞こえていなかったり、かったるそうに素通りしていくかの二択だ。

「おはようございまーす!」

 すでに入学して早、一年と半年。もうこの仕事にも慣れてきたが、やはり季節的な問題は解決できないものだ。今は10月下旬。もう冬の兆しが見えてきておかしくない月だ。セーターを着てマフラーも着けるがやはり寒い。

 ブゥウウウン、ブウゥゥゥン!

 一台の軽トラックがうちの学校に入ろうとしていた。

「車が通りまーす!気をつけてくださーい!」

 校門前は坂道になっていて速度を落とすと無駄にエンジンをふかさなければ進まないらしく、けたたましいエンジンの音が鳴り響く。

 俺も車が通るための道を開ける為に少し場所を動いた。だが、車は俺の横で止まった。

「よっ大路!元気に挨拶してるか?」

「うるさいですよ、白帆先生。邪魔するんだったら後にしてもらえますか?」

 車の窓から顔を出したのは白帆先生だった。大路とは俺「平森大路」のことである。

「そうか、私の相手は授業中にしてくれるってことだな。こんな、誰も見ていないところじゃなくて皆が見てるところでいちゃついてくれって言いたいんだろう?」

「いや、やっぱ今にしてください。ちょうど、挨拶も面倒でしたし」

「ぶっちゃけるねー、理事長の息子君」

 笑いながら白帆先生は俺と会話を始めた。

 ちょうど挨拶も面倒になってきた頃に来てくれてナイスタイミングだったりもして、俺は先生と会話を続けた。

「んで、今日も車で登校してきて何を持ってきたんですか?」

 学校は基本的に車登校は禁止されている。荷物の運搬など、何か理由がなければ車で学校に入ることは禁じられている。

「ああ、文化祭の準備でな、色々と生徒とか先生に頼まれてた物を持ってきたんだ」

「先生にも頼まれるんすね・・・なんか使いっパシリみたいですね」

「うるせぇ!理科の先生は色々と調達できて便利なんだとよっ!」

 白帆先生は蒔那学院で科学の授業を受け持っている先生だ。文化祭などで凝った出し物をする場所は白帆先生に頼むことがあるらしいと噂は聞いていたが実際に頼まれる様だ。

 かつんがこんっ!

「きゃっ!」

 誰かが白帆先生の車にぶつかった音がした。鈍く痛々しい音だった。

 俺は痛々しそうな音に少し驚き急いで車の後ろに回り込んだ。

「痛たたた」

 そこにはしりもちまでついて倒れている同じクラスの水本文歌がいた。

「大丈夫か?水本」

「あ、平森くん?う、うん。私はなんともないよ。そ、それより、私の杖が何処に行ったか知らない?」

 水本の言う杖とは、盲目の人が使う白杖の事だ。

 目の見えない水本は杖を手放すとそれが何処に在るの分からなくなってしまう。白杖は校門の坂から落ちて道路の端に落ちていた。俺は白杖を取って水本に渡した。

「これか?」

「うん、ありがとう。平森君にはお礼に大事な大事な私のいもけんぴを進呈しましょう」

 そういって、にっこりと手探りでカバンを探り出した。

「い、いや、いらないよ」

 なんと!と言った様子で水本はカバンから手を出した。

「おー、文歌だったのかー。すまないけど大路、文歌を教室まで連れてってくれなか?挨拶当番すっぽかすいい理由ができただろー」

 窓から顔を出して白帆先生がこっちに向かって叫んでいた。

 願ってもない素晴らしい提案だ。実に身のある当番さぼりの言い訳が出来たってものだ。水本とはクラスも同じだから自分の教室へ一緒に行けばいいだけの事だし楽な仕事だ。

「はーい」

「あ、でもいいんですか?生徒会の仕事さぼっちゃって」

「いいんだよ、困ってる生徒を助けるのも生徒会の仕事なんだよっ」

「では、お言葉に甘えておぶってもらっいます」

「いや・・・肩を貸す程度じゃ、だめだったんでしょうか」

 さすがに生徒会の仕事と言い訳をしても女の子をおんぶして学校を歩くのは気が引けてランクを下げたて提案を出す。

「それじゃぁ、盲目の人みたいで嫌です。だから、手をつないでもらえますか?」

「いや・・・盲目なんじゃ。まぁいいけど」

 そう呟いて、俺は水本の手を取って下駄箱まで歩くことにした。


 水本の下駄箱は何年何組と分けられている場所にはなく来客用の場所にある。来客用の下駄箱の場所に一つ指定の名前「水本 文歌」と書かれた下駄箱があった。

 そこで、俺は水本の靴を取り出した。

「じゃ、右足から脱がすぞ」

「あ、はい」

 水本の靴を俺は脱がして上履きを履かせた。

 パシャパシャ

 その隣でシャッターを下ろす輩がいた。

「おい、そんなところで写真を取ってるんだったら少しは手伝ってくれないのかテル?」

「いやー、僕には女の子を脱がす大路の邪魔はできないでござるよー」

 そういって、現れたのは同じクラスの増田照亜樹ますだ てるあきだった。俺は、このパパラッチ男と仲も良くテルと呼んでいる。

「ええ!?平森君私を脱がそうとしてたの!?そんな私まだ心の準備が、いやそもそもこんな公衆の面前でやらなくても、いやそれはそれでそういうプレイゴニョゴニョ」

「何を考えてるか知らんが、靴をだ」

「なんだ」

 何だとは何だ。靴を脱がされていたのは誰だ。

「んで、なんか用でもあんのか?」

「いや特には。ただ、平森大路君のスクープを学級新聞の一面に飾れたらなぁ、なんて思いながらシャッターを下ろしてただけさ」

 やはりただのパパラッチだったか。

「そのカメラ100円で買おうか、パパラッチ男」

 そういいながらも俺はせっせと水本の逆側の靴を脱がせて上履きに履き替えさせいる。

「このデジカメ原価は4万だぞ」

「なら中古価格で300円で買ってやろう」

 もともとカメラをよこす気の無いテルに対しての俺の交渉も同じく交渉する気は無かった。ただ、その事実を消したいことの意を表しているだけだ。

「お、そろそろチャイムがなるな。んじゃぁ、学級新聞楽しみにしてろよー」

「おいこらまて!分かった1000円で買い取ってやろおおぉぉー!」

 そんな無駄なやり取りを交わしてテルは「じゃぁなー」と言い放って俺たちのクラスに向かう階段に走り去っていった。

「あいつ俺らと同じクラスなんだし少しぐらい手伝ってくれてもいいじゃねぇかなぁ?」

「別に私は登校に時間がかかるから遅刻は免除されてるし、時間はいくらかけても大丈夫だよ」

 そういって、笑って答える水本だが

「俺は遅刻扱いになるんだろうな」

「大丈夫だよ、きっと白帆先生なら水本君も免除してくれるよ」

「あの教師だからこそ、俺だけ遅刻にするんだよ」

 他にも色々と介護をして結局2分で着けるはずの下駄箱から俺らの教室2年A組まで10分かけて着いた。

 下駄箱からずっと後ろで心配そうに見ていた白帆先生は見えなかったことにして。あの、先生は他の先生が生徒たちより全然早く登校してると言うのに生徒たちと一緒に来て仕事が終わるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ