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おまけその1

もうひとつの私と彼の物語



 ふう、毎日お勉強ばかりで嫌になっちゃう……


 私も普通の、一般庶民の家に生まれていれば、友達と外で走り回ったりできたのかしら?

 駄目ね、贅沢な悩みよね。裕福な家庭に生まれた事は嬉しい事のはずよ。お父様、お母様にも悪いわ。私ってなんていけない子なんだろう……



 私は最近十歳になったばかり。同じ年頃の子達って、やっぱり友達を沢山作って、外で遊んでたりするのよね。羨ましいわ。

 もちろん遊んでいるだけじゃないことも分かってる。男の子ならお父様のお仕事のお手伝い、女の子ならお母様の家事を手伝ったりするんでしょうね。



 本当に、羨ましい。





 私のお父様はこの町一番の商人、いつも忙しそう。お母様も、そのお父様のお仕事をお手伝いしている、とても頭のいい母。私自慢の尊敬する両親。

 十八歳のお兄様、十五歳のお姉様もいる。二人とも両親に似て頭の回転が速く、賢い。兄はすでに独立、姉は両親に付いてお仕事の補佐をしている。こちらも自慢の兄と姉だ。


 そして、私。自分で言うのも恥ずかしいんだけど、両親、兄、姉、その自慢の家族よりさらに頭の出来がいいらしい。自分では分からないが、皆が言うのならそうなのだろうと思う。天才少女と言ったところか。



 そんな事もあって、私は物心付いたときから、付く前からも、毎日勉強ばかりさせられている。

 厳しくされている訳ではないわ。末の娘、妹、という事もあり、結構甘やかされてもいる。

 甘やかされている、という事を理解してしまう辺り、私は駄目なんでしょうね……




 ふう、二度目の溜息。


 私も畑仕事や家事を手伝ってみたい。一度お願いしてみた事はあるが、許されるはずも無く、かと言って叱られる事もなかった。使用人達のお仕事を取るわけにもいかないか……


 両親は私に何を望んでいるんだろう。第一に私の幸せ、これは間違いない。素敵な方との結婚? 幸せな家庭? それとも商人としての独り立ち?

 商人にはなりたくないわ。両親の忙しさを見ていると、本当にそう思う。

 現実的に考えると、誰か有力な商人の方に嫁ぐ事になるのかしら? そしてその人の補佐をしっかりするためのお勉強、という事ね。


 とても十歳の考えじゃないと自分で思ってしまう。でもしょうがないわよね、なんとなく分かっちゃうんだから。天才なのも考え物よね。



 でもね、そんな物は幸せなんかじゃないわ、決してね。




 私の幸せは、私が決めるのよ!



 私の幸せ? うーん? 私の幸せね……


 ふむ、まずは田舎の小さな村に住むことね、これは確定。町はゴミゴミしてて嫌いだわ。

 そして素敵な人とお知り合いになるのよ。お付き合い、結婚もね。

 お仕事から帰ってきた旦那様を笑顔で迎えるのよ。そして夜は熱い……、おっといけない。すぐにこういうことを考えちゃうのは、私の悪い癖ね。

 そう、夜の生活といえば、子供。子供は二人は欲しいわね。男の子と女の子、うん、最低でも二人は欲しいわ。

 そして家族みんなで幸せに生きていくのよ。幸せにね。



 ふふ、笑っちゃうわ、本当に笑っちゃう。夢は見るものじゃないわね。




 ふう、三度目の溜息が出る。


 やめましょう、こんな事、不毛だわ。夢は叶わないから夢なのよね。

 きっと私は誰か、名前も知らない、会った事も無い人に嫁ぐ事になるのよ。それは、ほぼ確実。

 きっと人並以上に幸せになれる事でしょうね。私の願う幸せとは違うのだけれども、ね。





 最近はこんな事ばかり考えてしまう。溜息の回数が凄い事になってるわ。


 頭を切り替えなきゃ、お勉強の続きをしなきゃ……














 そんなある日の事、珍しくお休みの母と姉と一緒に外に出かける事になった。


 いろいろなお店を見て回って、お買い物をして、ご飯を食べて。

 町はあまり好きではないのだけど、いい気分転換になる。母と姉に甘えれるのもとても嬉しい。

 本当に楽しかったわ、一日中甘えちゃった。私もまだまだ子供よね……、と、子供らしくない考えをしていた時だったわ。



 ふと通りの方を見たら、ある男性と目が合ったの。



 一目、一目見ただけで、何とも言えない気持ちになった。

 自分でも頭はいいと思っている、でも、この気持ちは言葉に出来ない。

 一体なんなのかしら? あの人をどこかで見た? それは無い、私は記憶力もいい、会った事は無いと断言できる。

 それなら……、もっと考えよ……う?


 !? 


 こちらに軽い会釈をした後、あの人は目をそらし、歩き始めてしまう。


 駄目! 行かせては駄目! でもどうして? 何なのこの気持ちは!? いけない! すぐ考え込んでしまうのは私の悪い癖よ! 行動よ! 行動しなきゃ! でも、何を、どうしたらいいの!



 気づいたら体が動いていた。母と姉が何か言っている気もするが聞こえない、何も耳に入らない。


 とにかく今はあの人を捕まえるの! 絶対に逃がしてしまっては駄目なの! 理由なんてどうとでもなるわ、私は天才少女なのよ!




 あの人、彼はゆっくり歩いていたようで、子供の私の足でも走ればすぐに追いつけた。




「待って! 待ってください!!!」


 叫んだ、こんなに大きな声を出したのは初めてだ、はしたない。でもそんな事今は気にしていられない。



 彼は立ち止まってこちらに振り向いた、そしてまた目が合う。あの気持ちが膨れ上がってくる!



 どうしよう、どうしたらいいの。私、頭がいいんでしょ、天才でしょ? 早く考えて!


「あ、あの……! え、ええと……」


 駄目! 思いつかないわ!


「あ、俺でいいのかな? 君は? さっき目が合ったお嬢さんだよね? 俺、何か気に障るようなことでもしたかな? だとしたらごめん。俺、田舎者だからさ、この町に来たのも初めてなんだよ」


 とても素敵な笑顔で言う。ははは、と笑い、頭を掻きながら。




 その笑顔を見た瞬間理解したわ。この感情、この気持ちの正体をね! ふふふ、さすが私よ、天才少女よ!




「わ、私と、結婚してください!!!」




 言っちゃった、言ってしまったわ。そう、一目惚れなのよ、これは、恋なのよ!

 やってしまった、と思うがしょうがない、もう過ぎた事だ。今はこの人をどう手に入れるかを考えなければ。



 彼は驚いて、でも、少し考えて。




「うん、いいよ。こんな俺でよかったら、結婚しよう」




 はっきりと、そう、答えてくれた。




「ええええええ!?」


 まさかの即時返答! しかも受け入れられた! 凄い! この人凄いわ! ああん、もう!



 とりあえず抱きついてしまえ!










 その後は大変だったわ。にこにこ笑顔で彼にくっつく私、笑顔で好きにさせてくれている彼、追いついて来た母と姉。

 はしたない離れなさい、と言うお母様に初めて逆らったわ。絶対離れない、離したくない、私はこの人と結婚するのよ! ってね?


 もう、楽しくって、嬉しくって仕方が無かったわ。母と姉には悪いのだけれどね。



 どうしても離れない私に諦めたのか、彼ごと家に帰る事になったわ、お持ち帰りね。彼は彼で宿を取っていたんだけど、そんな事は知らないわ、どうでもいい事よ。


 父と兄を緊急呼び出し、説明。私はこの人と結婚する事にしました、よ?

 もう、大激怒! 大反対! 説明しろ! って言われてもそれ以上できる説明も無いしね。



 そういえば、このときまだ彼の名前も知らなかったのよね私。自己紹介もしてなかったわ。



 家族みんな呆れ顔。いきなり自己紹介を始めた私たちを見て、力が抜けちゃったみたい、落ち着いて話を聞いてくれることになったの。


 話って言っても、本当に何もないのよね。私が一目惚れして追いかけて求婚しました、そして彼が受け入れてくれました。で終わり。

 そうそう、彼も一目惚れだったんですって、嬉しかったわ、きっと運命ね。


 そこでやっと彼についてのお話。


 彼はこの町から少し離れたところにある、小さな村の住人。時期村長になる人らしい、素敵。

 村長はこの町の商人と商談する事もあって、今日は顔合わせに来たらしい。それだけ。あっさり終わったわ。



 実は話の間中、私は彼のひざの上にいたのよ。誰が何と言っても離れなかったわ。

 殆ど見た事の無い、私の本当に嬉しそうな笑顔を、彼に素直に甘える姿を見て、分かってくれたのかしら? お母様が賛成してくれたの、驚いたわ。一番反対されると思ってたのに。


 お母様を味方につけたら、もうこっちの物よ。すぐにお姉様もこちらに来てくれたわ、勝ったも同然ね。


 反対されたら逃げられるだけよ、駆け落ちされるだけよ、この子は頭もいいし、行動力もあるのよ?

 彼が時期村長ならいいじゃない、村一つ分の商談をこの際うちが全部もらってしまいましょう?

 あの村は確かアレとかソレが多く取れるのよね? 今まで手が出せなかったところじゃない?

 まだ子供? 年の差? いいじゃないそんな事、十年も経てば気にならなくなるわ。

 あなたは何歳? 十六? あら若いわね。こっちの娘にお似合い、ごめんなさいもう言わないわ、だから泣かないで。

 もちろん嘘泣きです。

 あらあら、まあまあ、うふふふふ。


 あれよあれよと決まっていく。母、姉、私の三人に、父も兄も、彼もたじたじだ。





 ふふふ、出会ったその日に婚約よ。凄いでしょう?


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