表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

その24

「何だ? どんな状況だ?」


 彼が帰ってきた。村長さんはいないな、一人か。


「うわ、マジ泣きかよ。あの、何かあったんですか?」


 あったよ、あったさ! 色々とあったさ! 今までの人生の中で最大級の何かが!


「マジ? 確か本気で、って意味だったかしら?」


 ちょ、何で、あ、彼か、彼から聞いたのか。何教えてるのよアンタは……


「うん、マジ泣きだけど大丈夫よ、大丈夫。悲しくて泣いてるわけじゃないからね? 全部解決したの」


「え? あ、そっか……、やっと話したのか」


「ううん?」


「へ?」



 ここだ!!



 お母さんから離れて、今度はダッシュで彼に抱きつく。

 彼に抱きつくなんて恥ずかしいが、でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない。


 今はこの気持ちを……



「え?」


「あらあら?」


 抱きつきから腕を取り……、くらえ!!


「何だ? どうしあだっ! 痛え!! うわ! 噛み付いてる!? やめっ! 痛い痛い放せー!!」


 うるさーい! アンタが悪いのよ! アンタが!! この! ……ありがとねっ!!!


「コラ! いい加減に……、え? 何だ? 泣き笑いしながら噛み付くな!! 怖いわ!!!」


 そろそろ開放してあげましょうか、何かしょっぱいわ……。彼の味? 汗の味!?


「もう少し我慢してあげてね? 悪いのはあなたなのよ?」


 どうしよう! 放すタイミングが! ああああ味が! 舐めてる、彼の腕舐めちゃってるよ私!!


「ええ? 俺が? ……!? 痛ええ!! 強まった!? ごめん! 何が何だか分からないけどごめんなさい!!」






「うわあ、まだ痕付いてるよ……。噛み付きとか子供じゃないんだからさ……」


「ふーんだ。いつもは子供扱いするくせにさー」


「いや、そういう事じゃなくてだな……」


 分かってるわよ、ただの八つ当たりよ。ただの照れ隠し、よ。だが謝らない! うう、照れ隠しでさらに恥ずかしい事しちゃったわ……


「そんなの舐めてればすぐ治るわよ」


 民間療法だね。まあ、血が出るほどは噛んでないし、大丈夫じゃない? 舐めなくてもさ。……舐める!?


「あー、痛え。舐めとくかー……」


 ちょ、そそそそこ! わわ、私が口、つけたっ! 噛んだ! 所!?


「ななっ、舐めるな馬鹿!! 噛むわよ! また噛まれたいの!?」


「何でだよ!?」


「あらあら、ふふふふ……」











 さて、いい加減本題に入らなきゃね。彼の腕を拭きながら言い始める。


「何勝手に話してるのよ、説明してくれちゃってるのよ。せめてその事を私に言いなさいよ、私も一緒に説明したかったわよ!」


「うおう、バレてるよ。奥さん、言っちゃいました?」


「うん、言っちゃった。てへっ」


 てへぺろ☆ だと……。いつか私もやろうとは思っていたが、まさかお母さんに先を越されるとは……


「ああ! もう! もやもやするわ!! うにゃうにゃするわー!!!」


「ああ、可愛い……。うちの子可愛すぎるわ……」


 お母さん大絶賛。もっと言って! 今日は子供扱いでも嬉しいわ!


「ホント子供だなぁ……。うお! 待て! 口を寄せるな噛み付くな!! ぎゃー!!!」


 だがアンタは許さない! まさかこんなに狙いやすい位置で、そんな事を言うとはね。彼の腕を持って話しててよかったよ。











 その後、村長さんも帰ってきて、四人そろっての昼食になった。


「うー、うううー……」


「食べながら唸るなよ。猫かお前は」


 うるさいわね! そういえば猫って唸りながら食べる子もいるよね……


「いいじゃない可愛いんだから」


「そうそう。可愛いからいいじゃないか」


 そうよ! 可愛いければ全て許されるのよ! 可愛いは正義なのよ!!


「可愛くても噛む動物はちょっと……。でも、どうして急に話しちゃったんです? こいつが自分から言い出すまで待つんじゃなかったんですか?」


 あー、それは説明したくないな……。私主に泣きまくってただけだしね。



 あれ? そういえば、どういう流れでこの話になったんだっけ?


「うん、それがね……、うん? どうしてだったかしら?」


「だよね、じゃない、ですよね。何でこの話になったんでしたっけ?」




 お母さんと私が思い出しながら話し始める。


「ええと、今日は私の仕事のお手伝いを頼んだのよ、うん。それで、管理表を出して、見せてね、この計算はできる? って聞いたのよね」


「あ、はい。この村のお金の管理の、でしたよね」


「ああ、あれか。俺も見せてもらった事あるよ」


 アンタもあるんだ。それは今はいいや。


「それでね、この子ったらね、少し見ただけで理解しちゃってね。天才だわこの子! って思ってたらね」


 あ、ああ、あー、そうだったそうだった。うん? あ! その先は!


「急に泣き出しちゃったのよ。今までも結構泣き顔は見たけど、今回は焦ったわ……。まるで何か、絶望してる感じだったから……」


 ひい! やめてください! 私の羞恥心ゲージがぐんぐん上がっていく!


「お前そこは分からないって言っとけよ。隠す気あるのか……」


 呆れられてしまった。ううううるさい! 油断してたのよ! 何故か今日は、気を抜きすぎてたのよね……



 あ、そうだ。



「お母さんあの時、やっぱり思った通り、って言ってた、ましたよね?」


「あ! そうだわそう! その後泣き出しちゃったのよね」


「うん。あ、はい」


「思った通り?」


「うん、そうなの。私はそれで、自分は怪しまれてたんだって勘違いしちゃってさ。お恥ずかしい」


 何が思った通りだったんだろう? 彼からすでに聞いてたって事は、怪しまれてるとかそういった物じゃ無いはずだ。



「聞きたい? 教えて欲しい? どうしよっかなー。あ、そうだ。一つお願いを聞いてもらっちゃおうかしらね」


 ここで交換条件とか! くう、断れるわけも無し、聞こうじゃないか。


「もう放っておいても時間の問題だと思ったんだけどね。どうせならこの場で決めちゃいましょう、何か無理してるっぽいしね。ねえ? あなたもそれでいいわよね?」


「ああ、その事か。うむ、そうだな。私も気になってたところだ」


 え? 私!? 無理してる?




「気づいてる? 少し前から、自然に私のこと、お母さん、って呼んでるわよ。突っ込んじゃうとやめちゃいそうだし、黙ってたんだけど」


「え……? あ、言われてみれば、そう、かも、ですね」


「そう! 私が言いたいのはそれ!」


 ええ!? どれ? どれよー?


「ましたよねー、とか、ですねー、とか。私とこの人に対して敬語なんてやめなさい。さっきから気になってたのよ、あなたわざわざ言い直してるでしょ?」


「かなり話辛そうだったね。そして、その違和感に自分で気づいてなかったんだよ」


「あ……」


 そうなのよね。何故か急に敬語で話しにくくなったのよ。なるほど、お父さんお母さんって呼んでる人に敬語は確かに変だわ。



 うん、うんうん。もういいわ! 考えない!



「うん。分かったわ、お母さん。それにお父さんも、今までごめんね?」


「おおお、私もついにお父さんと……!」


 おお、お父さん感動してる。もっと、冗談でも何度か言ってあげればよかったよ。数えるほどしか言ってなかったんじゃないかな……



「意外にあっさり決めたな。どうした?」


 彼が心底意外という風に聞いてくる。


「深く考えないようにしただけよ。考えて、考えすぎて馬鹿を見た結果になっちゃったしね、今回は」


 これからはもっと、もっと、その、なんて言うか……、そう、肩の力を抜いて考えよう。って結局考えるんじゃん!



「うーん。そうでもないと思うわよ?」


「ああ、そうだね。ふむ……、馬鹿を見た、という事は無いと思うよ」


 確かに空回りしただけに見えるけどね、と付け足す。いやん言わないで。


「だが、その空回りのおかげで、全てうまく行ったと私は思うんだよ。すまん、うまく言葉にはできないが、私はそう思う、そう信じているよ」


 え? 誰これ? 偽者!? いつもの、のほほんとしたお父さんはどこへ!


「今回も最終的な結果を見てごらん? 悩み事、隠し事を打ち明けるきっかけになり、それを全て解決した。そして、私たちのことをちゃんと父、母と呼べるようになったし、敬語も抜けた。素晴らしい事じゃないか」


 ホントにどうしちゃったのよ。ここ多分感動するところよ? でもできない! 私ひどすぎ!


「もし、養子の話以前に、二人でちゃんと説明に来ていたら、その養子の話自体無くなり、私たちの子供になる、という事も無かったかもしれない」


 う、うーん? 考えすぎじゃないだろうか?



 でも、うん、何かいいね。前向きだね、前向きな考えでいいね。


「うん、そうだね。きっとそう。何か、そう考えるとさ、素敵だね、それ」


「それは無いわ!」


 おいィ。お母さんここは同意しておきましょうよ。空気読もうよ。KY? KYなの?



「あなたはね、何がどうなっても私たちの娘になってたわ! きっとね!」


「あ、ああ! そうだ、そうだな! 娘にならないなどあるわけが無い!」


 お父さんも乗っちゃったよ……、いいけどさ。










「あー。それで、結局さ」


 今まで黙ってた彼が言う。ああ、アンタもいたね、忘れかけてたわ。我ながらひどい考えをしてしまった。


「何が、やっぱり思った通りだったんですか?」


「あ、その話だったね。私も忘れてた」


「思い出しちゃった? もう、忘れててもいいのに」


「そうはいかんさ。この子はちゃんと条件を飲んだんだ、君もしっかりと答えてあげなさい」


「そうね、うん。えとね、ただね、この子はやっぱり私の若い頃に似てるなー、と思っただけなのよね」


 私がお母さんの若い頃に? という事は私も将来はこの素敵な人のようになれるんだろうか。うん?


「え? それだけ?」


「そうよ? そう思い始めた理由は他にあるんだけど、あの時はそれだけよ」


「それだけなんだー……」


「それだけよー?」


 にこにこ。










「なあ」


「何よ」


「すげえ盛大に空回りしたなお前」


「……言わないで………」


 一体今回の事は、何年からかいの材料になってしまうんだろう。











 何年でもいいけどね! 何十年でもさ!! 家族なら、いいよね!!!




最終回じゃないぞよ。

もうちっとだけ続くんじゃ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ