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その22

「落ち着いた? もう大丈夫かしら?」


 あれからしばらく泣き続けてしまった。泣いている理由も分からないお母さんは、それでもずっと優しく抱きしめ、撫でていてくれた。

 泣き止んだ後も、まるで小さな子にするように、優しく、丁寧に顔を、涙を拭いてくれた。


「う、うん……、ごめんなさい……」


 あ……、お仕事の邪魔しちゃったな、なにもできてないや……。ホントに駄目な子だな私って……


「わわわ、泣かないで!」


「大丈夫です。もう、大丈夫」


 じゃない。











「ええと、話してもらえるかな? あなたが何を抱えて、悩んでいるのか。お母さんに教えて?」


 やだ、言いたくないよ……


 ブンブンと首を振って返す。


「うう……、そんなに話しにくい事なのかしら……」


 話しにくい、話せない、話したくない。



 でも、話したい……



「うーん、やっぱり、ね。駄目なのかな、私じゃね」


 え……? やっぱり? ……あ! ああ……!!



 と、止めないと!! 言わないと!!! 駄目! この先を言わせちゃだ




「本当のお母さんじゃないしね、私は。うーん、悔しいわ」




 言わ……せ、ちゃった……




「ご、ごめ……」


 泣くな! 私はさっき十分に泣いた! 今泣きたいのは私じゃないはずだ! この人に、お母さんに、何てことを言わせてるのよ!!


 涙を止めろ! 大きく息を吸い込め!! 言え! 言うんだ!!


「ひがっ! 違うっ! 違います! お母さんはお母さんです! 私の大好きなお母さんよ!! お父さんもそうよ! 本当のだなんて関係ない!! 二人とも大好きよ! 大好き!!」


 肩で息をしている。こんなに体力を使うのか、大声って。


「え、あ……」


 お母さんビックりして固まってるよ。ここまで大きな声を出したのって生まれて初めてなんじゃないか? でもまだだ、まだ言い切っていない。


「悪いのは私! 私なの!! でも言えないの!! 言っちゃ駄目なの!! 言ったらお母さんに、みんなに嫌われ……! ……ちゃ……うの……」


 あああ、言っちゃった、言っちゃったよ。もうごまかしは効かないよ私。




 覚悟を、決めよう。




「ふふふ。ちょっとビックリしちゃったわ、ふふふふ。嬉しいわ……、大好きなお母さんですって! 嬉しいわ!!」


 目じりにうっすら涙を溜め、お母さんは本当に、とても嬉しそうだ。私もまた涙が……


 今すぐ抱きつきに行きたいが、まずはこの話を終わらせてからだ。今は我慢よ。



「うん、大好き。本当のお母さんじゃないとか、思った事も考えた事も無いわ。私の母親はお母さんだけよ。私の大好きな、お母さんだけよ」


 涙声になってしまったが、はっきりと、ちゃんと伝わるように言い切る


 ひゃー、恥ずかしい。ガラにもない事言っちゃったよ。穴があったら入りたいよ。そのまま冬眠したいよ。今秋か、秋眠か? ええい、どうでもいいわ!



「ありがとう……、ありがとうね……。でもね、そのあなたが大好きな素敵で優しい美人のお母様がね、あなたをそんなに簡単に嫌うと思うの?」


 素敵で優しい美人とまでいった覚えはないんですが。調子出てきたね、私もお母さんも。


「初めて一緒に寝た日に言った事覚えてる? もっと甘えなさい、迷惑掛けたくないとか言ったら怒っちゃうわよ? ってね」


 よく覚えてるな、私も覚えてるけどさ。あの一言は心に来たわ。


「うん。覚えてる、覚えてます」


「む、戻っちゃったか。ま、いいわ。続けましょう」


 戻った? っと、ちゃんと聞かなきゃ。



「私はね、お母さんなのよ、あなたの大好きな、あなたを愛している、お母様なのよ! あなたを嫌う? そんな事っ! あるっ、わけっ、ないでしょう!!」


 うわあ、自信満々だ。どうやら私の一言で、母親として、一つ上のランクに上がってしまったようだ。

 多分、お母さんも今まではまだ抑えていたんだろうと思う。考えてみたら叱られた事もないもんね。叱られるような事してないっていう事もあるけどさ。



「例えあなたが被虐嗜好の持ち主でも! 例えあなたが実は男の子だったりしても! あ、それもいいわね!」


 そのネタはもういいよ、大声で言うのやめてよ! しかし男の娘か、その発想は無かったわ。もし私が男の娘だったらいろんな意味で危なそうだな……


 おっと現実逃避はやめよう。しかし本気で言ってるのかなこの人は。本気なんだろうなぁ……





 よし! ぶっちゃけ大会だね! 言うよ。全部、話すんだ。


 全部、ぜーんぶ話して、受け入れられなかったらさ、しょうがないよね? その時は彼と一緒に……




























「例えあなたが彼と同い年でも、例えこことは違う、遠い遠い所から来たのだとしてもね? お母様を、母親というものを甘く見ちゃダメよ?」


 お母様にっこにこ笑顔。してやったり、といった感じかな。綺麗で優しくて、そしてカッコいいお母さん。私もこんな風になりた、……?



 え?



 え……? 今……、なんて……? 私まだ何も言ってないよ!




「な、なんで……? え? どうして!?」


 どうして! どういう事、どういう事なのっ! なんでお母さんがもう知ってるのよ!?





















「だって彼からもう聞いてるしー」


 しー、じゃないよしー、じゃ……。じゃない!




 あーーーーーーいーーーーーーつーーーーーーはーーーーーー!!!!!!!!!!!!!



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