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その21

 ふーんふ ふふーふ ふふーふふん♪ ふふふーんーふーふ ふんふーふ ふーんふふ~♪


「駄目よ、まだ抱きついちゃ駄目……、あの子が鼻歌なんて珍しい事してるんだもの。もっと堪能しなきゃ……! でも……、ああ……!」


「ふーんふ……、えっ?」


 なぬ? 鼻歌? あ、知らない間に鼻歌なんて歌ってたよ私。


「ああ! 気づかれちゃった……」


 奥さんが残念そうにしている。むう、いつからだろう、恥ずかしいな。


「ふふふ、今日は何だかご機嫌ね。ねえ、続けて? できたら実際に歌って欲しいわ」


 ご機嫌? 機嫌が良いのか私は。自分じゃいつもと変わらない風に思えるんだけど。


「さーて、お仕事の続きしましょう」


「ああん、いじわるね」


 人前で歌とか……。カラオケはたまに行ってたんだけどね。








 朝食後、村長さんは彼を連れてお仕事に。私は今日は奥さんのお仕事を手伝う事になった。

 これで間接的に村長さんの仕事振りを知る事ができるのではないだろうか。


「今日のあなたのお仕事は、可愛く歌って私を癒す、という事にしましょうか」


 おっと急遽仕事の変更だよ。ふむ、歌か……、何を歌ったものか……? 何か違くね?


「え? えー」


 いや、まあ、歌うのは嫌いじゃないんだけどね、むしろ好きだよ。でもなー、何かねー。こうさ、歌って、って言われると急に恥ずかしくなってこない?



「ふふふ。冗談はこれくらいにして、こっち、ここ見て。この計算なんだけど、できるかしら?」


 計算? 計算か……。数学は苦手なのよね……、どれどれ。


 文字、数字は、読めないけど理解できるっていう感じなんだよね。こっちが書いた日本語も何故かちゃんと相手も読める不思議。英語も問題はなかった、本当に不思議だよ。



 うーん、何だろこれ。収穫物の出荷数? 売り上げ? 農具の値段? 予算? ってこれは。


「この村のしゅ、お金の計算ですか? 何をどれだけ売っていくらになった、とか。」


 さすがに収支計算じゃ通じないかな、危ない危ない。


「え? ぱっと見ただけで分かるの? え? え? 天才なのこの子」


「え、あ、これくらいなら……」


 よかった、綺麗にまとめられてる、これなら簡単にできそうだね。さすが奥さん素晴らしいお仕事です。



 しっかし、この程度で天才扱いか……。しまったな、分からないって言っておけばよかったか……




「うーん……、やっぱりね。思った通りかなこれは」


 奥さんの一言に血の気が一気に引く。思った通り……? まさか、怪しまれてた!?



 失敗した! 大失敗だ! 気を抜きすぎだ私の馬鹿!! この世界、ちゃんと勉強してる大人じゃないとこういう計算できないんだ!

 どうしよう、天才で通すには無理がありすぎる。だって私、子供に見られてるんだよ。そんな子が、村長さんの奥さんがやるような仕事を一目見て理解しちゃうとか、ある訳無いじゃない!



 もし、この人に、ありえないものを見るような、怯えの混じったような目で見られたら……


 イヤ! いやよ! 嫌だ! この人に嫌われたくない! この人たちの子供でいたい! まだ娘でいたいよ……!




「ふふふっ。さすが私の自慢の娘ね。可愛いだけじゃないのよ、頭もい……い? ええ!?」


 へ? 自慢の娘? まだ娘でいていいの……?


「何!? どうしたの!? 何で泣いてるの!?」


 え? ホントだ気づかなかった。すっごい量の涙だ。



 奥さんは大焦りで私に走り寄り、少し強めに抱きしめて、優しく撫で始めた。


 ああ……、よく分かんないけど、まだこの人の子供でいてもいいんだ……、甘えていいんだ……。よかった、ホントに、本当によかった……



「ごめんね……? 何か嫌な事思い出させちゃったのかしら……。私のせいよね……、もっと考えてあげなくちゃいけないのに……」


 違う! お母さんのせいじゃない! 私が悪いんだ! 私が別の世界から来たっていう事を秘密にしてるのがいけないんだ!


 全部話して、それで、嫌われる事が怖くて! 私が、私が悪いんだ!



「う……、くっ……、ご、ごめんなさい……」


「ええぇ……、何であなたが謝るの……。お願いだから泣き止んで? 落ち着いて話を聞かせて?」


 話を…………? 嫌、それだけはできない、したくない! 嫌われたくない!!!


「ごめんっ、なさい……。ふっ、くっ、ううっ……、ごめんなさいい……」


 抱きしめられながらもイヤイヤと首を振り謝る。謝り続けるしかできない。


「うううう可愛い……、じゃないわ。それじゃあね? もう聞かないからね? お願い、泣き止んで……」


 この人をこれ以上困らせたくは無い、泣きやま……ないと……


「う……、ごめん、なさ……ううう……、うああああ……」


 駄目だ止まらない。ごめんなさい、もう少しだけ……


「うああ、うああああああああああ……」


 ああ、子供みたいだ。私ってこんな風に泣けるんだね。








「だ、誰か助けてー……。 何なの? でも可愛いわ……。はっ! じゃなくてね、だ、誰か、誰かいないかしら……。だ、駄目よ! 私はこの子のお母様なのよ! 私が何とかしなければいけないのよー!!」


 可愛いなあこの人は……。もう少し、もう少しだけ泣かせて……、お母さん。





登りきったジェットコースターは、がくんと落ちるもの。


お、落ちてるのかなこれ?

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