その20
そして私はまた、はわはわと萌えキャラ化し、よく分からないうちにいつの間にかベッドに入っていた。
く、くうう、何か久しぶりに不意打ちをもらった気がするわ。最近油断しすぎてただけあってダメージが凄いわ……。明日ちゃんと彼の目を見て話せるかしら……
大丈夫、大丈夫よ。そんなに深い意味は無いわ。妹か小さな子に対しての可愛い、っていう程度の意味なのよ。
うん、落ち着け、落ち着くんだ…素数を数えて落ち着くんだ…。素数は1と自分の数でしか割る事のできない孤独な数字……わたしに勇気を与えてくれる。2…3…5…7…11…
そこでノックをされた。
誰よ、もう……。また奥さんか。
「おーい、起きてるか?」
へ? 彼? えっ!?
ちょ、え、何、え? 何か用事? 用事ってどんな? あ、え、ど、どうしよ、どうしよう!
ふ、服! 服装は……。駄目! 寝巻き! 見せられない! は、恥ずかしい! そそ、そうだ、返事! 返事しなきゃ!
は、はは、心臓が凄い音してる。な、何で? 緊張? 焦り? 恐怖?
恐怖! それに近そう! 怖い! 怖いんだ! どうして? 彼に会うだけじゃない! 会っていつものように軽い話をするだけよ!?
駄目よ! 駄目! 夏なのよ! 薄着なのよ! この下は下着だけよ!? 彼だって男の人、なんだよ? 誘惑するような事しちゃ駄目!
誘惑? 誘惑!? 無いわ! 無い! このまっ平らな胸見て何を欲情する……こと……が………あ……
無いわー……
何焦ってるのよ私は。恥ずかしい。あ、あれね。ムッツリスケベだからしょうがないね。
寝巻きも夜中トイレ行きたくなったときに見られてるじゃん。今さらだよ。
あー、一瞬で落ち着いたわ。まさに自分の胸に手を当てて考えてみろって事よね。自分の無い胸にね。先人の言葉は偉大だわ! くたばれ先人!!
「お、起きてるけど、もうベッドの中なの。真っ暗よ、中」
「相変わらず寝るの早いな。俺、明日から村長さんの仕事手伝う事になったからさ、それだけ言いにな」
ほほう。見学だけじゃなくて手伝いの許可ももらえましたか。それはそれは。
「そうなんだ。いい機会だし色々教えてもらいなさいね」
「ああ、覗きポイントとかな」
あー、もう、こいつはこいつは。
「スケベー」
「男はみんなスケベな生き物なのさ」
「開き直ったな、このオープンスケベ」
「なんのなんの、ムッツリスケベ」
「ふふ、ふふふ」
「ははっ、ははは……、はっ!? あっ! いや! これは! 違うんですよ! ただ明日の事を……」
お? おや? 何? 何があった。
「この時間はもうあの子寝てるわよね……。ねえ? 貴方はそんな時間にあの子の部屋の前で何を笑っているのかしら……?」
ああ、奥さんに見つかったのか。ご愁傷様だ。
「あ、明日から村長さんの手伝いするって伝えに来ただけで……、な! そうだよな?」
「こーら。女の子の部屋を許可も無しに開けようとするんじゃありません」
ぬ、開けようとしたのか今。カギは掛けてないから普通に開いちゃうんだよね。無用心? 入ってくるのなんて奥さんしかいないよ。朝起きたらたまに一緒に寝ててビックリさせられるよ。
「はーい、こっち来なさーい? 貴方にはちょっとお話が必要ね」
お、OHANASHIであるか……。ガクガクブルブル……
「オイ、こら、返事しろよ! 寝たふりするな、見捨てるな!」
いやー、でもさー、起きたら巻き込まれそうだしさー。ね? 骨は拾ってあげるから安心してね。
ふう、落ち着いたら眠くなってきちゃった。明日謝るからね、おやすみなさーい。
「この裏切り者め……」
次の日の朝食時、彼の視線が痛いわ……
「ふふふ、ごめんね?」
何のことやら、と、とぼけたかったが、ちゃんと謝っておこう。