その13
書いてる私は料理経験ほぼ0です。
料理できる人ってすごいですよね。
「ほー、そんなに美味かったんだ、そのオムレツ」
「そうそう、そうなのよ。不思議よねー、合成調味料とか一切無いのにね」
奥様先生のオムレツは本当においしかった。さすが主婦。
「火から上げるタイミングでね、ふわふわにしたり、トロトロにしたり、固めにしたりね、オムレツって結構奥が深いのよ」
「うわ、美味そうだなそれ……」
さすが脳筋タイプ、食いしん坊属性まで付いてるんだろう。
「そのうち私が作ってあげるから、期待して待ってなさいって」
「おお、それはふあ、うん、楽しみだな」
ふあ……?
「今不安って言いそうになったでしょ、失礼ね」
軽くにらめつけてやる。
「いやいや悪かった、つい口が正直にな……」
おいィ。本当に、本当に失礼な奴だな。
「ふーん、だ。そんな事言う人にはもう作ってあげないですよー、だ」
「うわ、子供だ、子供がいる。拗ねるな拗ねるな」
むききき、お前ハイスラでボコるわ……
結局私の花嫁修業? オムレツ修行は無くなってしまった。
奥さん曰く。
「まだやっと娘になったばかりなのよ! それなのに、もうお嫁に行く話なんて、したくないわ! させたくもないわー!」
これにはさすがの奥様先生も苦笑い。ごめんなさいうちの可愛い母が……
「まぁ、毎日オムレツばっかじゃうちの人も飽きるだろうしねぇ。でも、たまには教わりにおいでよ」
「は、はい。すみませんでした……」
「いいって、いいって、ふふふ、まったく最近楽しくてしょうがないね。アンタたちが村に来てくれて本当によかったよ」
またグリグリ撫でられた。もう撫でられるのに慣れきって普通に嬉しく感じてしまう。くやしい……でも感じちゃう! ビクンビクン!
その日の夕食時。ちなみに夕食のメインはオムレツだった。奥さん対抗意識燃やしてるな。
「でも、どうして急に料理を覚えようだなんて思ったの?」
奥さんが、そういえば……、という感じで聞いてきた。
「えと、それは……」
「うん?」
言われてみれば、ちょっとやってみたかった、くらいの気持ちかね。
「え、ええとですね。私も料理くらいはできるようになりたかったんです。お手伝いもできるようになりますし」
「ふふ、そんな事気にしなくていいんだよ。今はまだおいしいおいしいって、食べていればいいのさ」
村長さんがにこやかーに言ってくれた。
それにね。
「それと、二人に食べてもらいたかったんです。それでおいしいって言って……もら……」
うおうう、付け足すんじゃなかった、恥ずかしい。後半ごにょごにょになってしまったよ。
ガタッ
「はう! 可愛すぎるわこの子!! もう駄目!」
奥さんのダッシュ抱きつき! こうかは いまひとつの ようだ。さすがに毎日抱きつかれてると慣れるよ。
「う、うおお……。娘は誰にもやらーーん!」
うわ! 村長さんが壊れた!! めめめ珍しいわ……
ちなみに彼は空気に徹していた。慣れって怖いわ。
そして夕食再開。
「うーん」
奥さんが唸っている。食べすぎ?
「さっきは思わず喜んじゃったけど、よく考えるとね……、本当はあれよね……」
「そうだな……。悔しいが、実に悔しいがあれだな……」
村長さんと二人して通じ合っている。何よ、何なのよ、気になるわー
「あの、どうしました?」
「ううん、何でもないのよ……」
そっぽを向かれる。
「あ、ああ、何でもないさ……」
村長さんにも目線をそらされてしまう。
「ん、ん? あれ、俺? えと、何スか?」
二人の目線の先には彼がいた。いや、偶然でしょ。
「うーん……」
奥さん。
「うーむ……」
村長さん。
「え、何? 俺なんかしたっけ? せっかく空気になってたのに!」
そして彼。面白そうだから放っておこうかな。