その11
いつのまにか二桁ですよ、十一話ですよ。
終わりはまったく見えませんがまだまだ続きます。
「腕、焼けたね。真っ黒だ」
さすが毎日炎天下の下農作業。半袖から見える腕だけが見事に真っ黒だ。
半袖長ズボン、頭には麦わら帽子、首には手ぬぐい。残った腕だけが焼けている。
「おう、凄ぇだろ、ホラホラ」
そう言って袖をめくり、境界線を見せてくる。
ふむ、健康的でいいねぇ……
「見せなくていいよ……」
「ははっ。お前は焼けにくいんだっけ?」
「うん、赤くなってヒリヒリするだけ」
彼と一緒に毎日外仕事してたら、私も腕だけ焼けてしまった。
服装は半袖ワンピースに麦わらぼうしだ。避暑地のお嬢様なイメージだね。
「ああ、奥さんの反応凄かったな……」
「うん……」
奥さんの過保護っぷりは一応の落ち着きを見せた。
しかし、事あるごとに超反応をされてしまう。うかつな行動はできない。
大げさに言ってはみたが、迷惑ではない。むず痒い嬉しさだ。
「うー、腕がヒリヒリするよ。真っ赤だよ」
暑いからと半袖にするべきではなかったか。痛いよ。
「うわ、本当に真っ赤だなソレ、日焼けなのか?」
「うん、何日かヒリヒリするだけで、すぐに元に戻るのよ、私の日焼けって」
袖を少しめくって、日焼けとの境界線を見せてやる。チラッ。
「おお、はっきり紅白に別れてるな。縁起が良さそうだ」
乙女の柔肌を見てそのセリフか、こいつめ。もうちょっと思春期の男の子っぽい反応をして欲しいね。
どうやら本当に、彼は私のことを妹くらいにしか見てないようだ。変に反応されたらされたで対処に困るんだが。複雑だ。
こっちに来てからしばらく、結婚だのなんだの考えてた自分が馬鹿らしくなってくる。村公認カップルなのは今も変わらないが……
お? 奥さんがこっち向いて固まってる。どうしたんだろう。驚愕に目を見開いてる感じだ。まさか今の二の腕チラに反応したのか?
と考えてたらダッシュで近寄ってきて腕をとられた。
「な、何これ!? 赤いわ! 一体どうしたの!? 何があったの!?」
うわあ、真剣に心配してるよ、変な病気かと思われたか?
「まさか……」
彼のほうを見て。
「まさか貴方、叩いたの? こんなに赤くなるまで、しかも満遍なく叩いたの……?」
「え? へっ?」
おやおや、彼に矛先が向いたよ、これは面白そうではないか。最近私ばっかりネタにされてる気がするからね、少しはアンタも構ってもらいなさい。
「答えなさい……?」
背後に阿修羅を携えた奥さん。新手のスタンド使いか! いいぞもっとやれ。
「ちょっ、やっ、違いますよ! ただの日焼けですって!」
「日焼けで? もうちょっとまともな嘘をつきなさい」
奥さんの反応からするとこんな日焼けする人はいないみたいだね。メラニンだっけ? 私のように少ない人はいないんだろう。
「オイ、お前も何とか言えよ、言ってください、助けて!」
もうギブアップか軟弱な。とりあえず笑顔を返しておこう。
「もう、あなたもニコニコしてないで何か……、え! まさか!?」
まさか? え? 何? これ本当に病気なの? え、え、どうしよう。
奥さんは少し考えてから話し出した。
「二人とも落ち着いて聞いてね」
あああ、病気なんだ、本当に病気なんだ……
「人の趣味、性癖にも色々あるとは思うんだけどね」
どうするどうする、病気なんかで迷惑をかけ……、へ? 性癖?
「その、あのね、そういうのはね、いけないと思うの」
奥さんちょっと顔赤いね、もじもじしてる奥さん可愛いよ。って何を考えてるんデスカ?
「被虐嗜好って言うんだったかな。うう、この子にそんな趣味があったなんて……」
被虐嗜好? また難しい言葉が出てきたな、珍しい。簡単に言うとマゾか。
「はあっ!?」
え、誰がマゾよ?
「外から見える腕がこうだとすると、脱いだら一体どんな痕が……、ムチ? みみず腫れ!?」
この世界でもそういうのはちゃんとあるのね、意外だ、意外すぎる。まぁ、同じ人間だしそれはそうかな。ってそうじゃないよ!
「ちちち違います! そんな趣味無いです!」
奥さんの前でこんな大声出すの初めてなんじゃないか? 初大声がこんな話かよ、泣けるわ、泣きたいわ。
とても優しく、諭すように奥さんは続ける。
「大丈夫、大丈夫よ。私たちに任せて? 完全に完治とまでは無理かもしれないけど、根気よく治していけば軽い刺激で満足できるようになるからね?」
「刺激って何ですか刺激って! 話を聞いてくださーい!」
「ぶっ」
話に追いついてきたのか彼が吹き出した。ぐぬぬぬぬ、元はといえばアンタのせいだろ! 違うな、日焼けの説明を逃した私のせいか……、たまにはいじられろと彼を差し出した私の自業自得なのか。ちくしょうおまえらは馬鹿だ。
「一緒に頑張りましょうね?」
何かそのセリフよく聞く気がするね。奥さん慈愛の笑顔、眩しいよ……
どうしてこうなった、どうしてこうなった!!
その後、必死な説得の結果、体を見せて証明するついでに拭いてもらう事で納得してもらった。
私の体を拭く奥さんは終始にこにこと、とても楽しそうだった。
全部奥さんの計算通りだったんじゃないかな……