その1
人物名、描写はありません。
私、彼、あの人、○○の人、といった感じです。
「何を怒ってるんだ? 俺が何かしたか?」
テーブル向かいに座る彼が言う。
「何もしてないから怒ってるんだけど」
別に本当に怒っているわけではないんだけれど、現状をもう少しでもよくするためには彼にも頑張ってもらわないといけない。
「だってなぁ、難しいんだよコレ。簡単すぎて難しいんだよ」
「今までの常識を捨てて、これからの常識を詰め込むの。文明のレベルが低すぎるんだから、それに合わせないといけないって毎日言ってるでしょう?」
「分かってるって」
「分かってない」
漫画や小説のようには行かないものだ。カミサマに特典能力付きで送られて、戦って、殺して、仲間を増やして、恋人を作って、生きていく。なにそれこわい。
私たちのような子供が親元を離れ、身一つで、外国の電気の通っていないような田舎に送られて生きていけるわけが無い。
あぁ、外国ならまだ地球だったね、何とかなりそうだ。でもここは異世界、違う世界なんだ。
「生きてるのはもう私たちだけ。私は死にたくないの、あなただってそうでしょ?」
「あたりまえだろ」
「なら協力して、本当の意味で言葉が通じるのはもうあなたしかいないの。頼りにさせて」
じーっと見つめて言っておく。瞳もちょっとうるうるしてると思う。どうだ可愛いだろう? こんな子と一緒に生きていけるんだぞ?
「分かってる、わーかってるって。頑張る、頑張るさ。まかせとけって」
私の頭をぐしぐしなでながら言う。おいコラ髪が乱れるヤメロと思いつつも口には出さない。
「うん、一緒にがんばろうね」
ここは小さな村、小さな村だ。小さな村だから名前なんて無い。
今私たちニ人はこの村の村長さんっぽい人の家にお世話になっている。親切な人たちでよかったよ本当に。
泣きじゃくる私とその友人たちに食べ物と着替え、寝る場所まで与えてくれた。帰る家がないならここに住んでもいいとさえ言ってくれた。感謝してもしきれない。
そうそう、言葉はなぜか通じる。トリップ特典ってやつかねまさか。どうせなら力が欲しいと思ったけどそれは贅沢か、まったく別の世界で言葉が通じるんだ、それだけで十分すぎるほどのチートだ。言葉は通じるとは言ってもそれは話が出来るだけだったのだけれどね。それは初めて村に来た次の日、村長さんと話をしていて分かった。
話は出来る、でも、ところどころ意味が通じてない。普通に話していたと思ったら、何だそれは的な顔をされてしまう。
私たちは異世界から来たんです→異世界?→違う世界です→世界ってなあに?→えっ→えっ→なにそれこわい
まさか世界っていう単語が無いのか?と思ってたら友人Aちゃんが「この世界の名前はなんですか?」と聞いた。
いやだから世界っていう言葉が云々考えてると村長さん「世界に名前なんてないよ」と。えっ? 世界っていう言葉知らないんじゃないんかい。
おそらく特典の異世界言語翻訳機能がうまく働かないんだろう、という結論になった。幸い向こうからの言葉はちゃんと翻訳されてるっぽいから、これからは無口系美少女で行こう。
ちなみに村長さんは、最近の若い子の言葉はわからないねぇと笑っていた。あんたいい人や……
私はこの村で生きていく、外になんて出ない、悪いけど彼にも付き合ってもらおう、もちろん死ぬまでね。
いいじゃないこんな美少女女子高生16歳と暮らしていけるんだからさ、私美少女だよ? 大事な事だからニ回言うよ? 結婚だってするよ? エッチだってできるよ? 子供ももちろん生んであげるよ?
だから、だからさ。
「一緒にがんばろうね?」