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『昔から、人を殺してみたかった』、『ひとり殺して踏ん切りがついた』、『思ったよりつまらなくて自首した』。
などと、供述しており。
「あなたと椛椿小晴さんはどんな関係でしたか?」
「親友です、今も変わらず」
「…………では、いつごろから仲よくなりましたか?」
「高校一年生の春です。最初の席替えで、隣の席になって」
「学校ではよく一緒にいましたか?」
「ええ」
「普段はどういう話をしていましたか?」
「決まった話題とかはないです」
「では、最近話したことは?」
「惚気話を聞かされていました。内容はあまり覚えてないです」
「あなたは椛椿さんのことをどう思っていましたか?」
「大切に思っています」
「最近、椛椿さんの様子で気になることはありましたか?」
「いいえ」
「椛椿さんの交際相手について、なにか知っていますか?」
「なにも知りません」
「彼氏との関係は上手くいっていたと思いますか?」
「知りませんし、しつこいです」
「失礼。では、椛椿さんの金銭トラブルについてなにかご存じですか?」
「まったく」
「……最後に会ったのはいつですか?」
「昨日です」
「詳細を教えてください」
「面倒ですね。小鹿公園前で待ち合わせをして、一緒に登校する予定だったんです。だけどいきなり、小晴が『サボっちゃおうよ、ね?』とか言い出して。出席ヤバかったけど、まあ高校だし大丈夫でしょって感じで付き合ったんです。ラウンドワンに行ったりしました」
「詳細を」
「ラウンドワンのゲーセンで太鼓の達人をしました。プリクラも撮りました。UFOキャッチャーは私が嫌いなのでやりませんでした。カラオケに行こうということになって、近くの安いカラオケ店にふたりで入ったのが十一時くらいのことです。一時間だけ居座って、店を出ました。小晴についていっただけなので場所は分かりません。店名も覚えていないし、事件を知ったショックで店内のことはなにも覚えてません。思い出せることもありません。言ってないことは言えないだけです」
「その後は?」
「マクドナルドに行きました。私がチーズバーガーを頼みました。小晴はポテトとナゲットを頼みました。バニラシェイクも頼みました。歩きながら食べました。途中でベンチに座りました。途中でコンビニにも寄りましたが、なにをしたのかは覚えていません。ただのトイレ休憩だと思います。そこから、十三時くらいに古着屋に入りました。私はなにも知らないので、小晴の趣味だと思います。興味がなかったのであんまり覚えていませんが、なにも買わずに出た記憶があります。それからしばらく外をうろちょろして、またラウンドワンに戻って今度はボーリングをしました。そして、スポッチャにも行きました。私の分の代金は小晴に出してもらいました。店を出たのが十七時。結構長居したなと驚きました。帰り道も小晴についていっただけなので、よく覚えていません。最寄りの駅で別れました」
「なるほど。その時、なにか変わった様子はありましたか?」
「いいえ」
「ラインやメッセージのやり取りはありますか?」
「あります」
「見せていただけますか?」
「いいえ」
「…………では、椛椿さんが人を殺すような人間だと思いますか?」
「思っていませんでした」
「情緒が不安定なところはありましたか?」
「いいえ」
「誰かに強い恨みを持っている様子はありましたか?」
「いいえ」
「自首する前に連絡はありましたか?」
「小晴はいつ自首したんです?」
「…………昨日の夜十時ちょうどです」
「ありませんでした」
「『大変なことをした』などと言っていませんでしたか?」
「聞いていません」
「なにか、思い当たることはありますか? どんなに小さいことでも構いません」
「まったくありませんね」
「では、もしなにか思い出したら教えてください。これ、私の連絡先です」
「はい」
「………………最後に」
目の前の刑事は、無愛想なまま言った。
「あなたは嘘をついていますか?」
「いいえ」
にゃん?
美しく着飾ったドレスに、透き通ったような白い肌――あの女刑事は、どうやらかなり手強い相手みたいだ。
さて、諸々を騙る――語る前に、とりあえず状況を整理しておこう。
どうやら小晴は、交際相手の母親と交際相手を無惨にも殺害してしまったらしい。どうやら本人によると、『昔から人を殺してみたかった』そうだ。びっくりしすぎて、心臓が飛び出るかと思った。
嘘だけど。
正直言って、予想はついていた。
私はまったく驚かなかった。
だって、伏線は張られていたのだから。だったら、驚く必要はない。
どんでん返しで売っているミステリ小説の本質がキャラクターだったりするように、私は小晴の本質を突き詰めなければならないのである。彼女の世界を、すべて暴くのだ。
おそらくそれは、好奇心というよりアイドルの追っかけに近い。
小晴は、私の推しなのだった。
なーんて、脳内でどうにかふざけようとしているけど、現実がシリアスすぎていささか身が入らない。身近で殺人事件が起こったのは、生まれて初めてだ。体質的に、職業探偵にはなれそうもないな。
人がふたり死んだ。藍桐という名の男と、その母親。母を殺害したのは子で、その子を殺害したのが小晴――まあ、本当にそうなのかは定かではないが。自らの罪を私に隠していたのだから、嘘をついている可能性だってある。
藍桐背負疎――小晴の彼氏で、小晴に惹かれた男で、小晴が惹かれた男で、自分の母親を殺した男で、小晴に殺された男。まあまあ惨い殺されかたをされたらしいので、もしかしたら小晴は彼を恨んでいたのかもしれない、とか思ってみたが、小晴は人を恨むような性格ではない。
恨めるけど、別に恨まない――悪口くらいは言うかもだけど。
でも、それだけで。
小晴はなにも引き摺らない。
もしかしたら小晴は、人に興味がなかったのかもしれないとちょっとだけ思った。
「そんなわけがないにゃ」
すぐに自分で否定した。
小晴は普通に人が好きだったし、私には小晴くらいしか際立って仲の良い人間はいなかったけど、小晴にはわりといた。その中で、私を優先してくれていたというだけで。
…………告白でもすれば、少しは思いとどまってくれただろうか。
困惑して、最後なのに微妙な雰囲気になって、なんか名残惜しくて消化不良で、それで、自首するのをやめる、とか……、いや、駄目か。そんな甘いハッピーエンドがあるわけもない。
だってその時にはもうすでに、小晴は人を殺しているのだから。
私はまだなんらかの被害者になったことがないので、犯してしまった罪を償うべきだとは思わない。だけど、小晴は違うようだった。彼女はきちんと自らの罪に向き合い、罰を受けようとしている。
ん、被害者になったことないのが私なんだっけ?
「忘れた」
強いて言えば家庭内暴力の被害者か? でも兄は罪を償っていないので、やっぱり私には分からない。
「なんの話だっけー」
時折、考えていることが口から漏れる。完全に無意識だから、どう止めればいいのかが分からない。
分からないことばっかりだ。自分の世界でも。
「小晴もそうだったのかもしれない」
というのは思い上がりだろうか?
それにしても、あの刑事は変わり者だった。まさか、ドレスを着て事情聴取を行われるとは。風変わりな女性刑事はフィクションの中だけの存在だと思っていたから、初めて会ったさっきは本当にたまげた。
もしかしたら夢だったのかもしれない。
「………………おねえちゃん」
「ん」
いつの間にか、私の領地に部外者が侵入していた。自室に妹がいた、とも言い換えられる。
「もう、ごはんのじかん………………」
「もうそんな時間? 時間の流れは早いね」
妹は相変わらずの拙い喋り声だったけど、実年齢さえ考慮しなければそれはむしろ違和感がないくらいだ。身長は私よりも高いくせに、妙に童顔で細っこくて小さい。声も、下手すれば幼稚園児みたい。
まるで、身長以外の成長が止まってしまったかのようだった。
「……きょうは、ごはんをつくるじかんがあのけいじさんにうばわれちゃったから、でりばりー」
「へえ、残念。でも外食もたまにはいいね」
珍しいし嬉しいの二連コンボだった。あんな料理、もう二度と口にしたくない――と毎夜毎夜頭を悩ませ続けてきたのだ。たまには休憩くらいしてもいいだろう。ああ、高校を卒業したらこんな家とはもうおさらばしよう。
「なにたべる? …………きぼうがないなら、わたしがおみせをきめます」
「いいよ、決めて」
「…………まくどなるどにけっていしました。おねえちゃんはなにたべる?」
「うーん………………」
昨日食べたばっかりだなあ、と苦笑したが、妹の希望なので黙っておいた。
「じゃあ、テリヤキバーガーとシェイクのストロベリーで。蜜柑はどうするの」
「わたしも、おなじのたべる。……おねえちゃん、わたしにきがある?」
それを言うなら、『気が合う』だろう。
「まちがえちゃった………………」
「いいんだよ、間違えて。そうやって学んでいくの」
「おとなぶってるおねえちゃん、きもい…………」
少なくとも、妹とは気が合いそうになかった。
妹か。
そういえば妹は、事件についてどう思っているのだろうか。小晴とは何度か会わせたけど、あまり友好的ではなかった覚えがある。妹はかなりの人見知りさんなのだ。
というか、どこまで理解しているのだろう。まさか、なにも知らないのでは?
まあ、知る必要もないのだけど。
それよりも気になるのが、兄との関係だ。兄と妹の関係――私と違って兄とは普通に話すらしいけど、いったいどんな話をするのだろう。きっと、妹に不良行為をさせやがった黒幕は兄貴に違いない。
美人局の計画についてでも話しているのだろうか。
「…………できた、ちゅうもん!」
「お、偉い偉い」
ウーバーの注文ができるくらい賢い妹なのだから、兄の犯罪に加担することは流石にないだろう。もちろん噓だし適当なことを言っているだけだ。
妹は本当に偉い子ではあるのだけど、いかんせん人に流されやすい。
「たのしみだね、おねえちゃん…………」
「うん、そうだね」
ウーバーのアプリをインストールできて、アカウントを登録できて、注文まで完璧にこなせる妹。私にはできないから、少し羨ましく感じる。私にとって妹は、スマホの操作を教えてくれた恩人なのに。
まあそんなことはどうでもよくて、しばらく経った。
ピンポン、と玄関の呼び鈴が鳴ったので、私は玄関へと向かう。妹に来客の対応は無理だろうと判断したのだ。たとえ商品を受け取るだけだったとしても。
その判断は珍しく正解だった――らよかったのに。
「はい、今開けまーす」
言いながら、私はドアを開けた。
「………………え」
そこにいたのは兄だった。
「テメェ、鍵かけてんじゃねぇよ」
「はぁ?」
本当に数年単位で、久しぶりの会話だった。
柊桜八朔――この世でいちばん嫌いで、もしかしたら昔は好きだったのかもしれないけど、結局裏切られてすべてを台無しにされて、だから大嫌いで、そういえば一度もなにかをしてくれたことがないなと今さらながら思い出して、どうしてこんなのが私の兄貴なのだろうかと自分の運命を盛大に呪ったのはさておいて、私が忌み嫌っている兄。
「鍵なくしてんだよ、今」
「そんなの知らない。なんでそんな早いの、今日。気持ち悪い。気持ち悪い」
吐き気を催すほどおぞましい。こんなのと会話をしているというだけで、今日という日が最悪な日ランキング同率一位に躍り出たことはまず間違いなかった。間違いばかりの兄貴だけど。
「ここは俺ん家だろうが。帰る時間ぐらい好きにさせろよ、うざってぇな」
「ざけんなっ! もうこの家にアンタの居場所なんか――!」
「おねえちゃん、どうしたの…………?」
気付けば、真後ろに妹が立っていた。足音すら聞こえなかった。
「うわっ! …………びっくりさせないでよ」
「おこってるの……?」
「………………」
私は兄の顔を一瞥し、自然と出た舌打ちをなんとか言い訳しようと作戦を練って思いつかなかったから無言でその場を去ることに決めた。兄に背中を向けて、妹の横をすり抜ける。今日はもう、なにも食べなくていいや。
部屋に戻ると、中身が入ったまま床に落ちているペットボトルを発見した。今すぐ捨てなければと思ったが、部屋から出たくなかったので、とりあえず窓から投げ捨てることにした。マナーの悪い行為であることは流石に自覚しているが、兄のほうが悪い。アイツがすべて悪い。私がいくら罪を犯そうが、人を殺そうが、兄のほうが悪い。
死ね。
「…………マジで、最悪」
今すぐ家出をするという選択肢もアリだな、と思った。死ぬなら、山中で死のう。離岸流を狙うのもいいけど、やっぱり山のほうがロマンがあると思った。いや、海底のほうがロマンチックか? チックはなくてもいいけど。あ、不随意運動症候群のことではないから安心してね諸君。諸君って誰? 誰! あいしんくそー、えくそー。
そんなことはどうでもいい。
いきなり落ち着くなと突っ込まれるかもしれないが、落ち着いていられるのだから仕方ない。
着替えて、ベッドにダイブする。お風呂は明日の朝入って、学校はお休みさせていただく。あの先生なら、きっと許してくれるはずだ。名前、なんだっけ?
「忘れちゃった」
色々なことが、頭から抜け落ちていく。そういえば、クラスの子から連絡が来てたっけ。そろそろ返しておいたほうがいいのかもしれないが、そんな気分になれるわけがなかった。
だけど無視は酷いので、私はスマホを開く。残りの充電は五十パーセントくらい。
「なんて返そう…………」
登録名、『ココロ』。おそらく爰々ちゃんだと思うけど、どうなんだろうか。
『なんかあったみたいだけど大丈夫? 無理しないようにね!』
優しいメッセージが届いていたけど、あいにくそんなので私の心は動かない。気遣い程度で私に感謝してもらえると思ったら大間違いだからな、というのはもちろんのこと冗談で、だけども心が動かないのは事実だった。
プロフィールを覗いてみる。同じ年代で、同じクラスか。だったら爰々ちゃんだな。
とりあえず、効率的にかけさせてしまった心配を霧散させるための文章を考える。
『ありがとう! 私は大丈夫だから、大丈夫だよ』
うーん。
『返信遅れてごめん!(;;) ありがとね! 明後日から行くよ』
ちょっと長いな。
『返信遅れてごめん。メッセージありがと! 私は大丈夫』
淡泊。
『メッセージありがと! 私は平気だよ』
これでいいや、送信。
次。
未読欄にはあと四人いる。同じクラスの人がふたりと、それ以外がひとり。最後のひとりは公式ライン。
「…………『米春』、って誰だっけ?」
まあ、適当に返せばいいか。
『小晴ちゃん人殺したってホントなん?』
『知らない』
これでよし。
次は……、『皐梓萌々』? プロフィールを見るに同じクラスなのは確定だけど、誰なのかがまったく分からない。アイコンはアニメキャラっぽいけど、なんだこれ?
私にオタクの友達はいない。
うーん…………、メッセージを確認してみよう。
『柊桜さんは大丈夫? ゆっくり休みなよ』
いや、本当に誰だこの子。マジで分からないんだけど、大丈夫かな、私の頭。
『ありがとう! ちゃんと休む』
とりあえず返信をして、スマホの電源を切った。連絡をくれた最後のひとり(公式じゃないほう)に返信するのをうっかり忘れていたけど、まあ大丈夫だろう。私の関係者であれば、私がスマホをあまり使わないタイプの人間であることは把握しているはずだ。その人は同じクラスどころか同じ学校ですらないし、蔑ろにしても問題はない。
「それよりも問題は」
私はこれから、なにをすべきだろう。
幸いにも、明日は休日だ。正しくは公認サボタージュ。
だったら話は早い。
真実を探ろう。
まず最初に話を聞くべき人物がひとり。
「まず最初に話を聞くべき人物――が、私ですか?」
「そうです」
風変わりな女性刑事こと、芹梨澄美警部補。
彼女から、事件の詳細を聞き出すのだ。
「小晴の引き起こした事件について、詳しく教えてください」
「情報漏洩に当たりますので」
「話してくれるのであれば、こちらも話します」
程よく賑やかなカフェの一席。目の前の『大人』は、果たしてどう出るだろうか。ここに来てからまだ一度も表情が変わっていない芹梨さん。この人はプライベートでもこうなのか?
「………………これは独り言ですが」
「はい」
無表情を保ったまま、芹梨さんは独り言を呟く。
「我々捜査本部は、椛椿小晴の供述を妥当と判断しています。裏付けも取れており、藍桐伊奈江を刺し殺したナイフからは、椛椿小晴の指紋が検出されています。さらに、ひとつめの事件現場からは彼女の髪の毛が一本発見されました。椛椿小晴の自宅の洗濯カゴからは、藍桐背負疎の血液が付着した衣類も見つかっています。また、ふたつめの事件現場からも彼女の髪の毛が発見されました。そして、爪を剥いだ際に使用されたとみられるペンチも自宅で押収されており、その先端には血痕が残っていました。さらに、藍桐背負疎の首には、椛椿小晴の手形がはっきりと残っています」
イナエ――おそらく、小晴の彼氏に殺された(らしい)母親の名前か。
というか、思ったよりも物的証拠が多い。まあ、いちばん重要なものだから仕方ないのかもしれないが、これじゃどうしようもない。私には、専門的な知識がまったくないのだ。
きっと、芹梨さんもそれは理解しているのだろう。だからこんなにもあっさりと情報を与えてくれたのか。予想以上にこの女刑事は意地悪な人なのかもしれなかった。
「…………」
録音しておけばよかった、と今さらもう手遅れな後悔をし始める私。もちろん内容は覚えたけど、そうじゃなくて、芹梨さんの弱みを握るチャンスだったのに。完全に失敗してしまった。
「では、次はあなたの番です」
急かされる。もう、逃げてしまいたい。
だけど、この場から逃げ切れるとは思えない。運動音痴が警察を撒けるイメージがつかないからだ。
「ふう…………」
それってただの口約束ですよね――そう言おうか直前まで迷ったが、そういえば警察って別に私の敵ではないんだよなあと思い直してすべてぶちまけることにした。もしくは、ただ誰かに話を聞いてもらいたかっただけなのかもしれないが。
とりあえず私は、隠していた事実の一部を芹梨さんに語った。
「なるほど。あなたは椛椿さんに、『彼氏の代わりに自首する』と言われたのですね?」
「はい、そうです」
「へえ」
その反応はちょっと不適格なんじゃないかという気がしてきたが、まあ他人のリアクションに口出しする資格は他人にないということで、スルーすることに決めた。重い決断である。
「情報提供感謝します、柊桜柚子さん」
「お互い様ですね、芹梨――さん」
フルネームを忘れてしまったので、なんとか誤魔化した。事件の情報を一言一句違わずに記憶したからか、頭がパンクしているのだ。アイクラウドみたいにアップグレードすることはできない。
それから、私たちは別れた。具体的に言うと、私が会計前に芹梨さんを店内に残して店を出た。子どもの私が奢ってもらうのは当たり前のことなので、それが当たり前なのはおかしいぞと身を挺して芹梨さんに教えてあげたのだ、と言えば私の株は上がるだろうか?
ちなみに、金を出したくなかったわけではない。いや、出したくはなかったけど、別に出すつもりではあった。カフェの店員が仲の悪い中学のころの同級生だったことに気付いたから全力で逃げただけだ。
一言で説明すると、その同級生は兄の元カノである。
最悪だ。
「なんで私が兄貴なんかに行動を制限されなきゃいけないの…………」
ブツブツと独り言を呟きながら、思ったよりも人の多い平日昼間の街中を早歩きする。
そういえば、兄の元カノさんは学校に通っていないのだろうか? この時間にバイトをしているということは、中卒か定時か通信かずる休みか不登校かの数択だろう。まあ、どうせ中卒だ。あんなのが高校に馴染めるわけがない。
いやでも、バイトをしているということは、ある程度の社交性は身に付けたということなのか?
いくら考えても答えの出ない問題を必死に解きながら、帰路を辿っていつの間にか自宅に到着していた。
嘘だけど。




