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※ 本作はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。また、本作には犯罪行為及び刑罰法令に抵触する表現が含まれますが、それらを助長、推奨、誘引する意図は一切ございません。

 椛椿小晴には、彼女の世界があって、私の知らない世界があって、私が関与できない世界があって、そんな当たり前のことを見落としていた私は、きっと誰よりも愚者でピエロで惨めな存在なのだろうと思った。


 小晴に彼氏ができて、私は失恋した。初恋だったのに、自覚してから半日も経たなかった。


 そもそも、私の気持ちは本当に恋情だったのだろうか? ただ、小晴のことを性的対象として見ていただけではないのか? もしそうだとしたら、それはそれでちょっと気まずい気もするが。

 だけど、失恋よりはマシなのは明らかだった。


 昨日、先生の様子がおかしかったのは、もしかしたらそういうことだったのかもしれない。冷静になって考えてみると、私は小晴に執着しすぎていた。ただの友達――ではないが、親友に向ける感情としては不適格だ。不適切、なのかもしれない。


 どこかで聞いたことがある。『すべての女性は、レズビアンかバイセクシュアルである』、と。ただしそれは、女体に興奮する人間が男女問わず興奮しない人間よりも多いということなのかもしれないし、その説に根拠があるのかすら私には分からないし、わざわざ調べようとも思わないが……、しかし、同性愛者の割合が男性より女性に偏っているというのは、なんとなく感覚的に納得できる。もちろん科学的根拠などは知らない。私が当事者だから得心しやすかっただけなのかもしれない。


 どちらにせよ、私は普通の人とは違うのだろう。

 今のところ、断定できるのはそれだけだ。


「…………サボりたい」


 現在、四時間目の授業中。体育で、バレーボールをしている。チームはランダムに決めているため、女の子が多い私のチームは、男の子が多い相手チームに十点差つけられて大敗を喫している。ちなみに、小晴とは別のチームだ。


 現在のスコアは、三対十三。私のいるチームの、ふたりしかいない男子が必死に頑張ってくれてはいるが、どちらもモヤシの文化部系オタクタイプなのでお話にならない。相手チームにいる男子は全員運動部なうえに、女子も吹奏楽部なのだ。勝てるわけがない。


 そうこうしているうちに、ボールがこちらに飛んできた。相手チームの男子がいつの間にかサーブを放ってきていたようだ。勢いがヤバいけど、まあ取れなくはないだろう、多分。


 真ん中の子にボールが向かうように角度を調整して、サーブを受ける。しかし、跳ね返ったボールはサーブの勢いを緩めないまま、私の顔面スレスレ横を通りすぎていった。


「やば、ごめん!」

「どんまー」


 隣の子――(なずな)爰々(こころ)ちゃんが優しく声をかけてくれる。彼女はチーム内で唯一まともにバレーができる子だ。ちなみに、前の真ん中にいた男子は舌打ちをプレゼントしてくれた。


 そういえば、私ってまともに男子と絡んだことないんだよなあ。

 だから、同性を好きになったのか。

 どうだろ。


 ミスをしたくせにくだらないことを考えていると、さっき舌打ちをくれた男子が声を張り上げて言った。


「あのさ、女子に向けてそのサーブは流石にないんじゃないの?」


 あ、さっきの舌打ちは私へのプレゼントじゃなかったのか。ヤバい、好きになってしまう。


 サーバーだった運動部男子こと(くすのき)米春(よねはる)は、両手で『ごめんちゃい』のポーズを取りながら言った。


「確かに、流石に強すぎたかーな。柚子ちゃんすーまん!」

「軽っ! 気にしてないから大丈夫だよ」


 そうだ、オタクくんにもお礼を言わなければ。


「ありがと、オタクくん」

「だ、誰のこと?」


 クラスメイトの名前が分からないというのは、わりと致命的なのではないか。ふと、そんなことを思った。一年以上同じクラスにいい(クラス替えがない)人の名前すら忘れてしまうくらい、私は小晴に夢中になっていたのか。


 まあ、今はそんなことを考えている場合ではない。私にとっては、全然そんなことではないのだけど。


「ばっちこー」


 今回の楠くんは、アンダーハンドサーブで仕掛けてきた。さっきのを反省してやりかたを変えてきたのか、それは俗に言う天井サーブだった。漫画で見たことはあるけど、実物は予想以上に面倒そうだ。


 幸いにも、ボールは私の真反対――右後ろのオタクくんBのほうに落ちていった。私よりかは確実にレシーブが上手いBくんは、落ちてきたボールをなんとか受け止め、相手側のコートに飛ばした。


「お、こっちきーたぞ!」


 飛んでいったボールを美しいレシーブで受け、セッターにボールを送った楠くんは、そのまま前側に移動する。セッターがボールに触れたタイミングで加速。あ、これスパイクだな……。


 左前の女子(名前忘れた)とその隣の男子(Aくん)がブロックの構えを取る。しかし、ふたりが飛んだ瞬間、楠くんは姿勢を変えた。うわ、フェイントだ!


「もらーいっ!」


 指先でちょいと押されたボールは、ゆっくりと私の前に落ちてくる。腕が届かないので、前に移動する。これはミスれないぞーと思いながら両腕でボールを高く飛ばした。ギリギリセーフ。多分。


「ナイス柚子ちゃん!」


 爰々ちゃんが私の上げたボールを目がけて助走をつける。そして、踏み切って空中に跳躍した。落ちてくるボールと振り下ろされる手のひらの位置が、完璧に噛み合う。

 思ったよりも鈍い音を鳴らして、ボールは相手側コートの地面に突き刺さった。


「よしっ!」


 小さくガッツポーズをする爰々ちゃん。

 間違いなく、今日一番のハイライトだった。




 私の妹――柊桜蜜柑(みかん)の常喫タバコがハイライトメンソールであるということを知ったのはつい最近のことだった。


「…………ん?」


 木曜日の深夜、ふと物音が聞こえた。部屋を出ると、妹の部屋のドアがほんの少しだけ開いている。中をのぞいたが、誰もいない。トイレにでも行ったのかな――それなら私も行っておこうかなと思い、一階へ向かった。


 しかし、階段を下りた時、廊下は異様に寒かった。違和感を覚え、ドアが開けっ放しだったリビングに向かうと、ベランダへと続くテラス窓が開いていることに気が付いた。カーテンを閉じていたけど、そのカーテンが風で靡いていたのだ。


 妹が、ベランダにいる――なにをしているのか気になった私は、こっそりとカーテンに近付いて、がららら。


「ふぇぁっ⁉」

「なにしてんの」


 ベランダにいた妹が、甲高い声で悲鳴を上げた。

 その片手には――


「…………タバコ?」


 モクモクと煙を上げて、フィルターに近付いていく先端。ベランダのテーブルには、携帯灰皿とハイライトメンソールの箱。


「おねえちゃん……」

「……蜜柑って不良だったの? 意外」

「いや、ちがっ…………!」


 くはないなと自分で納得したのか、妹は口を閉じた。常識的に考えて、未成年がタバコを吸うことは十分に不良行為である。というか、少年警察活動規則に定められている。『飲酒,喫煙,深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為』をしている少年を不良と呼ぶのだ。

 ちなみに、喧嘩で人を殴ったりする少年はただの犯罪少年である。


「どこで買ったの?」

「…………」


 なんで沈黙するの? 買ったのではなく盗んだのだとか言い出したら、ちょっと本気で頭を抱えることになってしまうので、それはやめてほしいのだけど。というか、どうやって盗むんだよ。


「そういうの、よくないと思うよ」

「お、おねえちゃんだって、むかし…………」


 妹はなにかを言いかけたけど、またすぐに口を閉ざした。だが、言いたいことは伝わった。

 確かに、私に説教をする資格はない。


「…………それ、美味しいの?」

「……え? べつに…………」

「意味あるの?」

「とくには、ないけど…………」

「じゃあやめたら?」

「いやあ…………」


 妹は本当に中学生だなあ、と思わず感心する。妹は本当に中学生なので、私がなにに感心しているのか、自分でも分からなくなってきた。困惑はするが、自問自答はやめておいた。それをして、今日痛い目に遭ったばかりなのだ。


 まあ、説教はしないでいいか。妹との仲を悪くしたいわけではないので。

 一度空気を変えるために、雑談をしよう。


「あ、イヤホン付けてるじゃん。なに聞いてるの?」

「…………すたい」

「すたい?」


 知らない曲だった。とりあえず、妹の言う『すたい』が、英語の『stay』じゃないことを祈る。流石の妹も、そこまで馬鹿じゃないと信じたい。姉として――というか、人として。まあ、イギリス英語なら『stay』が『すたい』に聞こえても仕方ないのかもしれないが。でもここは日本だ。


 妹は、手に持っていたタバコをくわえて、吸った。どういう原理なのか、先端が橙っぽく光って、妹がタバコを口から話すと、その色は消えた。携帯灰皿に灰を落としながら、煙を吐く妹。大人びて見えた――なんてことはなく、ただ女子中学生が似合わないタバコを吸っているようにしか見えなかった。


「あの、おねえちゃん……」

「ん?」

「おかあさんには、ないしょで…………」


 だろうな。


「了解。私はもう寝るけど、バレないようにね。もしバレても、私の名前は出さないで」

「うん………………」


 もし妹の喫煙が親にバレたとき、妹に『でも、おねえちゃんだって知ってるもん』とか言われたら、私にまで被害が及んでしまう。矛先を分散させるという高度な頭脳戦ができるほど、頭がよくない妹ではあるけども。


「おやすみ」

「おやすみなさい……」


 相変わらず、妹は三点リーダーを多用しすぎている。声も小さいし、学校で上手くやれているか心配になる。家に友達を連れてきたことが一度もないので、もしかしたら友達がいないのかもしれない。だからグレたのか。


 家族の今後が心配だと、なんだか不安だ。たとえ妹であろうとも、人の不手際に巻き込まれるのは嫌なので、どうにか妹が成長してくれればいいのだけど……。


 お手洗いを済ませてから、部屋に戻ってベッドに飛び込む。今後のことを、考える。


「私は、どうすればいいんですかにゃあ……」


 気持ちを伝えるのは、もう駄目だ。受け入れられないと分かっている状態での告白なんて、相当の勇気がなければできない。つまり、私にはできないということだ。


 ただ好意を伝えるだけというのも、なんだかな。自分の気持ちを相手に押し付けている気がしてならない。あまりにも身勝手すぎると、自ら行動にブレーキをかけてしまう。


 いっそのこと、関係を切るというのもひとつの手だ。小晴には、私以外にも大切な人がいる。私の知らない世界で、私の関与しない小晴が、きちんと生きているのだから。なら、私は手を引いてもいいのかもしれない。


 この問題は、後回しにはできない。

 だけど、問題を後回しにしないなんてことが、私にできるのだろうか?




「…………無理かもなあ」


 翌日の朝、いつもどおりの時間、いつもどおりの場所で、いつもどおりの待ち合わせ。

 小晴は遅れてやってきた。どうやら、あまり眠れていないようだった。理由を知りたくはなかったので、突っ込まずにスルーした。彼氏と寝落ち通話してたんだーとか聞きたくない。


「おはよー。なんだか眠いね」

「そうにゃね…………」


 とりあえず、関係を絶つ――でも、どう切り出せばいい?

 小晴はなにも悪くないのに、私の都合で小晴を振り回すのか?


 そんなことはしたくない。しかし、このまま関係を続けるのも苦しいだけだ。八方塞がりで通行止めで常時停止で体ごと打ち上げ花火みたいな状況で柚子どうしよう。頭からつま先まで破綻で溢れてる。


 結局のところ、私には勇気がないのだった。


 大事なことを大事な友達に言い出せず、後回しにして大事になる。


「聞いてよ。昨日の夜さー、彼氏とラインしてたんだけどね……」


 小晴の自慢話を右から左に聞き流しながら、なんとかこの場をやり過ごす。本当になんとかしなければならないのに、本当になんにもできない。


 私はあまりにも弱い。


 もっと恥じろ。

 弱さを恥じろ。


「…………」


 学校に到着して、授業を聞き流して、一緒に帰ろうと小晴を誘って、断られて、ひとりでトボトボと帰路につく。家に帰り、自室に一直線。制服から部屋着に着替えて、ベッドの上に寝転ぶ。


 距離を置きたい――その一言がどうしても言い出せなかった。


「………………あーあ」


 でも、もしかしたらだけど、言い出せなくても別にいいのかもしれない。

 だって、これ自然と関係切れるパターンじゃん。


「小晴……」


 あっけない。


「本当に呆気ないよ………………」


 妹の三点リーダー癖がいつの間にか伝染ってしまったようだ。


「別にいいけどにゃあ……」


 憂鬱な気分だ。人生って、こんなに最悪だったっけかと自問自答してみるが、答えは永遠に返ってこなかった。自分で分からないのに自分に答えを求めたって分かるわけがないのだ。そんな簡単なことも忘れるほど、私の頭は悪かったのかとさらに落ち込んだ。だけどまだ、最悪ではなかった。最悪でないことが救いになるだなんて甘い現実が実在するわけないのでそんなことは本当にどうでもよくて、私はただベッドの上で自分のなにがいけなかったのかを真剣に考えるという作業に打ち込んでみた。だけどそんなことを考えたところでおそらく本当に意味などなく、それに今回私がいけなかったことなんて小晴に恋をしてしまったことと小晴に関係解消を言い出せなかったことくらいしかなくてただただこの世界が理不尽だと思い知っただけの結果になってもう生きなくてもいいのかなと自暴自棄になれるはずもなくただただ平常心で異常なまま冷静に物事を分析して自分に落ち度がないことを確認して安心という名の沼に浸り続けることに夢中になっていたらいつの間にか私の部屋に妹がいた。


「おねえちゃん、ごはんのじかん…………」

「ん? ああ、おーけい」


 十五時四十分に帰ってきたわけで、今がご飯の時間つまり十九時半であるということは、つまり私は四時間くらいずっとベッドの上で無意味な作業に勤しんでいたということか。あまりにも非生産的すぎて、笑えてくる。


 面倒な女だ。


「今日のご飯なに?」

「………………ひみつ」

「はーい」


 実は料理担当の妹だ。十歳で家の夜ご飯担当に任命された妹の腕前は、そりゃとてもすごい。

 いつ見ても驚愕するレベルである。


 リビングに降りて、両親がまだ帰ってきていないことを確認する。兄はおそらく、悪い友達と夜遊びに興じているのだろう。この前は先輩に詰められて貯めていたバイト代をすべて捧げることとなった兄だけど、まだ懲りていないのか。


 中心にあるテーブルには、スライムが満タンまで注がれた汁椀と、黒曜石が半分ほど詰まった飯椀、そしてゾンビ肉を痛めつけて土を加えた刺激的なアートをぶちまけた大皿が人数分、不規則に不均一に並べられていた。


 孫を溺愛するおじいちゃんおばあちゃんですら吐いて捨てるほどグロテスクで異常な見た目と、一口で舌の細胞が死滅する画期的な味――妹には、料理の才能がまるでないのであった。


 えーそーなんだいがーいちゃんちゃんエンディング、で落とせればよかったのだけど、私はこれからこの生物兵器のようなものを食べなければならない。おそらく、お味噌汁と米、そして豚肉と野菜……、なのかな?


 まあ少なくとも、激マズなだけで、毒ではないはずだ。元々は食べ物だったのだから、人間が食べられないなんてことはない――私はそう信じる。勇気を持て、私。


 というのを毎晩繰り返しているのが私の日常なのだった。


「いただきます」

「いただいて…………」


 まずは、箸で黒曜石をつついてみる。思ったよりも簡単に崩れたので、硬くはないようだ。崩壊させた部分を箸でひょいと持ち上げて、そこまで躊躇せずに口に運んだ。案の定、美味しくはなかった。


「うん、美味しい」

「ふふふ………………」


 なんだろうか、これ。石の味……? 石ころを舐めたら、同じ味がしそうだ。


 次は、スライムに手を出す。いったいどんな調理をすれば、普通の味噌汁がゼリー状になるのか。気になるところではあるが、それよりも私はこれを食べなければならないという懸念事項。


「ふう…………」


 少し間を置いて、覚悟を決める。そしてお椀を持って、素早い動きで中身のゼリーを口に流し込んだ。吐き出さないよう我慢し、涙を抑えながら、口に含んだ分のゼリーを噛んでぐちゃぐちゃにしていく。人間の排泄物と同じにおいがするのだけど、調味料は下水だろうか? 糞尿と吐瀉物と血液を混ぜ合わせて、ゼリー状にしたみたいな味だった。


 なんで私はこんなことをしなくちゃならないんだろう。理不尽な人生に、文句を吐きたくなってきた。こんなの、害意がないだけで拷問だろう。


「……おいしい…………?」

「…………」


 無言で頷いた。今、口を開けたら吐く。


 水を飲んでから、しばらくしてもう一度スライムに挑戦する。

 殺されたほうがマシなくらいの拷問を繰り返し自分に与えていたら、いつの間にかスライムがなくなっていた。味噌汁を完食した、とも言い換えられるかもしれない。でも、あれが味噌汁なわけがないので、やっぱり言い換えられない。


 次は、お待ちかねのメインディッシュ。ゾンビ肉と土を混合させたハイブリット炒め物こと、豚肉(多分腐ってる)と野菜(黒く変色している)の痛め物だ。食中毒になりそうだけど、まあ仕方ない。


「…………っえ」


 箸で崩壊させた肉を一口食べた瞬間、思わず変な声を漏らしてしまった。キツすぎるアンモニア臭に、酸っぱい味と苦味の、逆マリアージュが最悪の組み合わせだった。腐った卵のようなにおいも確認できる。その場で吐いてもおかしくない。悪寒と、嫌な汗が背筋と両胸の間と脇腹と首と頬と脇と足を伝って、鳥肌がぶわあ。唇はおそらく腫れている。


 ちなみに妹は、私が苦しんでいる間、ずっと普通に食事をしている。スライムをむしゃむしゃと、黒曜石をがりがりと、ゾンビ肉をぱくぱくと。平気な顔で、美味しそうでも不味そうでもなく、当たり前のように。喫煙者だからって、流石にそこまで退化しないだろ、味覚。


 それでも、なんとか平らげる。野菜は、人の臓器と同じような味がした。あと、虫が何匹か混入していた。


「ごちそうさまでした。ちょっとトイレ」


 今日はいつもより酷かった。胃の中をすべて吐き出さないと、多分本当に死んでしまうだろう。もしかしたら、本当に自分の排泄物や吐瀉物、血に体毛に皮膚などを混入させているかもしれない。ちなみに、ヒルとミミズは本当に入っていた。


「……ヴぇっ、っあ、っ…………!」


 変な声だなあ、と自分を客観視して呆れてみた。抑えていたダムが決壊して、瞳から数え切れないほどの涙が溢れ出す。ここまで酷いのは珍しいけど、別に初めてではない。どうやら、今日の妹は絶好調だったようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 とんでもなく体力を持って行かれた。


 だけど妹のお陰で、しばらく小晴のことを考えないで済んだ。感謝するべきだろうか。


 トイレから出て、キッチンに直行。誰もいないことを確認してから、水道水でうがいをした。朝風呂派ではないので、もうそろそろお風呂にも入っておこう。お金に困っていない人間が風呂キャンセル界隈なんて、気狂いとしか思えないから。


 と、昨日今日とで風呂をサボっている妹に告げておいた。

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