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魔法剣士(スペル・フェンサー)(3)

 ドアベルが鳴り、新しい木札を抱えたゲラルトが戻ってきた。

 彼はカウンター越しに、自分に殺気(さっき)――もとい、鋭い視線を向けているプリシラに気づいた。


「嬢ちゃん、そんな顔してても客は来ねえぞ」

「よく言いますわ。鍛冶屋の主が、自分の店を冒険者に任せて出かけるなんて、どういうつもりですか?」

「嬢ちゃん、お前さんは育ちが良すぎるんだよ」


 彼はカウンターの裏に入り、古い木札を外した。

 そして棚から一組の武器が消えていることに気づいた。


「おい、あの斧はどうした?」

「売れましたわ」

「……何だと!?」

「心配いりませんわ、その木札の通りに売りましたから……」


 彼女の声は、彼が持っている新しい木札を見た瞬間に消え入った。

 そこには、銀貨五十枚よりも(はる)かに、遥かに高い数字が書かれていた。


「……あ」


 数分後、プリシラは脇にリオナラを抱え、鍛冶場(かじば)から逃げ出していた。

 背後からは、火箸(ひばし)やハンマー、ありとあらゆる道具を投げつけてくる激怒したゲラルトの声が響く。


「このクソ冒険者め! 俺の金を返せ!」

「ちょっと! あなたが頼んだことでしょう!」


 彼女は飛んでくる三つのハンマーを、走りながらレイピアの(さや)で叩き落とした。


「投げるのはやめなさい! 誰かに当たったらどうするのです!」

「当たればいいと思って投げてんだよ! 俺様の最高傑作(さいこうけっさく)を銀貨五十枚で売りやがって!」

「だったら先に言いなさいよ!」


 その光景を目の当たりにし、リオナラは思わず吹き出した。

 見ていたのは彼女だけではない。


 活気あふれる中央広場の人々が足を止め、プリシラの鮮やかな剣技に釘付(くぎづ)けになっていた。

 ついには、周囲の野次馬(やじうま)や冒険者たちから拍手が沸き起こった。


「やるじゃねえか、嬢ちゃん!」

「ゲラルトのハンマーをあんな風に避ける奴、初めて見たぜ!」


 投げるものがなくなった鍛冶屋を後にし、プリシラは優雅にレイピアを納めた。

 だが、集まった視線は何らかの「締め」を求めている。


 彼女はアルカディアで見た芝居を思い出した。


「お騒がせいたしました」


 プリシラは胸に手を当て、深く一礼した。

 隣で目を輝かせていたリオナラもそれを真似ると、観衆(かんしゅう)からはさらなる歓声が上がった。


(レオナード閣下(かっか)の耳にだけは入りませんように……)


 彼女は内心で冷や汗をかいた。


(リース隊長以外に正体がバレていないのが救いだわ)

※次回更新は2月24日 21:40予定です。

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