表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

王宮剣士か、魔法騎士か (2)

 プリシラは軽く会釈し、無理やり笑顔を作って門をくぐった。


 背中に衛兵たちの視線を感じる。振り返って殴り飛ばしてやりたい衝動を、必死に抑え込んだ。


(落ち着きなさい、プリシラ……あなたはもう王宮剣士なのよ、それらしく振る舞いなさい!)


 だが、思考とは裏腹に、両手は固く握りしめられていた。


(それにしても、成金(ヌーヴォー・リッシュ)!? 私をあんな無作法な言葉で呼ぶなんて、なんて失礼な奴らなの!)


 怒りに任せた重い足取りで中央広場へと進む。眉をひそめて歩く彼女の横顔は、図らずも凛々しく、周囲の人々の目を引いていた。


 本人は気づいていなかったが、ただ街を歩くだけで、彼女はすでに相当なインパクトを与えていた。


   *


 今でこそ「街」と呼ばれているが、アリヴォールは数年前まで小さな町に過ぎなかった。大陸各地に謎のダンジョンが出現したことで、名声と富を求める者たちが集まり、この場所も急速に発展を遂げたのだ。


 中央広場に到着すると、黒いオベリスクがそびえ立っていた。


 足元の石畳は滑らかで、アルカディアの凹凸の激しい道よりも手入れが行き届いている。街の拡大にどれほどの労力が注がれたかが伺えた。


「お聞きあれ! お聞きあれ!」


 告知人が木製の演台に立ち、鐘を鳴らしながら叫んでいた。


「北の王国ロンドリアが再び国境を開放! 商人、旅人の入国を歓迎するとのこと! お聞きあれ!」


「ロンドリア……」


 プリシラは足を緩め、小さく呟いた。


「大臣との問題があったのは、そう遠い話ではないはずですが」


 彼女は一瞬考え込んだが、首を振って深く息を吐いた。


「いいえ。これはフィービー卿の仕事、私の管轄ではないわ」


 彼女はオベリスクの周囲を歩きながら、店先の看板に目を走らせる。


「雑貨店、鍛冶屋、皮革ギルド……? おや、あれは珍しい――」


 店に気を取られていたその時、何かが右側にぶつかり、彼女はよろめいた。


「おっと!」


 視線を向けると、焦げ茶色のマントを羽織った子供が走り去っていくところだった。


「ちょっと! ……ったく」


 フードの隙間から覗く、吸い込まれるような碧眼がこちらを振り返ったのを一瞬だけ捉えた。


 プリシラは服を整え、再び歩き出す。


 やがて、『宿屋』と彫られた木の看板を見つけ、その右隣にある目的の建物に辿り着いた。


「冒険者ギルド」


 ポツリと独り言ちる。


 二階建てのその建物は、押し寄せる人々を受け入れるために急造された跡が見て取れたが、かつての規模を考えれば立派なものだ。


 彼女は迷わず、観音扉を押し開けた。


 瞬間、強い酒の香りが鼻を突き、薪の燃える匂いと埃っぽさが混じり合って漂ってきた。


 ギルド内は活気に溢れている。ダンジョンの探索や略奪を狙い、老若男女の冒険者たちが仕事を探していた。  プリシラは、ホールの中心にある受付カウンターへと向かった。


 カウンター周辺は新人冒険者たちで混み合っていたが、ふと左の袖を引かれ、穏やかな声が届いた。


「こんにちは。登録をご希望ですか? よろしければ、あちらでお手伝いしますよ」


 振り返ると、自分より背の低い、銀色の短髪と愛らしい金の瞳を持つ若い女性が立っていた。プリシラは一瞬、姉のような気分になりかけたが、すぐに咳払いをして姿勢を正した。


「あ、ええ……はい。冒険者として登録したいのです」


 受付嬢は温かく微笑み、隅にある空いたデスクへと促した。


「こちらへどうぞ。まずはこちらに必要事項を記入してください。読み書きのサポートは必要ですか?」


「いえ、大丈夫です。書けますわ」


「おや、それは助かります」


 プリシラはペンを手に取り、正確な動作で記入を始めた。名前、出身地、親族……。


 彼女は「王宮剣士」であることは伏せ、職業欄には「魔法剣士(スペル・フェンサー)」と記した。


「書けましたわ」


「拝見します……。魔法剣士、ですか? 失礼ながら、あまり聞き慣れない職業ですね」


(まずい……)


「ええと……魔法を使う剣豪、のようなものだと考えていただければ」


「なるほど、承知しました。不勉強で申し訳ありません」


 彼女はプレートを取り出した。


「こちらが冒険者プレートです。依頼を受ける際や衛兵に呼び止められた際は、これを見せてください」


 プリシラが受け取ろうと手を伸ばすと、受付嬢はプレートの上に左手を置き、右の掌を差し出した。


「手数料として、銀貨一枚になります」


「ええ、分かっていますわ……」


 プリシラは苦笑いを浮かべ、腰のポーチに手を伸ばした。


 が、そこには何もなかった。


「……え?」


 ベルトにはポーチを縛り付けていた紐の切れ端だけが残っていた。


(いつの間に……! 誰にも近づかせていないはずなのに。……あの子供だわ!)


 怒りで手が震えた。生まれてこの方、盗難の被害に遭ったことなど一度もなかったのだ。


「お客様?」


 受付嬢が心配そうに覗き込む。


「どうされました?」


「私は……」


 プリシラは乾いた唾を飲み込んだ。


「お、お金を入れていたポーチが……」


 説明に窮していると、背後から大きな気配が迫り、鋼のガントレットがカウンターに置かれた。


「銀貨一枚だったな?」


 籠もった男の声。振り返ると、そこには全身を鋼の鎧で固めた騎士が立っていた。


「ルシナ、これでいいか」


「あ、ラインハルトさん! お疲れ様です」


 彼がガントレットを上げると、そこには銀貨が置かれていた。プリシラは焦り、見ず知らずの他人に払わせるわけにはいかないと口を開いた。


「あの、騎士様? お気持ちは嬉しいのですが――」


「ラインハルトだ」


 騎士は肩越しに、兜の隙間からこちらを見た。


「冒険者は助け合いだ。あんたが大成したときにでも、酒場で一杯奢ってくれればいい」


 彼は左手を軽く挙げ、そのままギルドを去っていった。


「私は……」


 言い募ろうとしたが、ここで意地を張れば任務が滞る。彼女は去りゆく背中に向けて一礼し、受付嬢に向き直った。


「取り乱してしまい、申し訳ありません。全財産を盗まれてしまったようで……」


「大丈夫ですよ。手数料は材料代のようなものですから。ギルドを出て右に行けば鍛冶屋があります。名前を伝えれば刻印してくれますよ」


 プリシラは銅のプレートを握りしめ、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。ルシナさん」

ご一読いただきありがとうございました!


せっかくの軍資金を盗まれてしまったプリシラですが、親切(?)な騎士ラインハルトに助けられました。 慣れない土地での前途多難なスタート、彼女は無事に任務を遂行できるのでしょうか……。


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、 下の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマークをいただけますと大変励みになります。


皆さまの応援が執筆の原動力です。 これからどうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ