決断と選択、宿命と運命(1)
「賞金首狩り、ですか……」
プリシラは左腕にリオナラを抱え、小さく独り言を漏らした。
陽はすでに高く昇っている。
まずはこの薄汚れた格好の若い女性に、まともな服を新調してあげたかった。
一方で、リオナラは自分の服のことなど露ほども気にしていなかった。それよりも、騎士の口から飛び出した物騒な単語に、あからさまな不安を募らせていた。
「プリス……本当に、やるつもり?」
リオナラの声には、隠しきれない懸念が混じっている。
「ん?」
プリシラは一瞬だけ彼女に視線を落とし、静かに微笑んだ。
「やるかやらないかではなく、どうやるか、ですわ。かつて陛下から直接の命を受けて標的を排除したことはありますけれど……賞金稼ぎというのは、あまり騎士道精神に則ったものとは言えませんわね」
「それに、危ないよ……っ!」
リオナラは自分の手を見つめ、そっと握りしめた。
「あたし……あたしも手伝いたい。プリスがそんな危険な目に遭うなんて、嫌だもん」
プリシラは驚きに目を見開き、歩みを少し緩めた。
「今日は随分と積極的ですのね」
彼女は不敵に笑うと、少女の髪をくしゃりと撫で、再び歩き出した。
「いいえ、リオ。これは私一人が背負うべきことです。私のこの手は返り血に慣れていますけれど……それでも、あなたに人が死ぬところなんて見せたくはありませんもの」
「でも……プリス……」
静かに歩き続けるプリシラの横顔には、どこか哀愁が漂っていた。
アルカディアの内戦に比べれば、この街の混沌など些細なものかもしれない。だが、女王陛下の直属として受けてきた訓練や期待が、今の彼女には重荷のように感じられた。
アルカディア最強の騎士の一人に数えられる力を手に入れながら、その力は時に呪いのように彼女を縛る。
(救いを求める者に、間に合わぬ力など……一体何の意味があるというの……?)
その重圧を抱えながらも、彼女は進み続ける。
女王の言葉――『自らを守れぬ者を守りなさい』という教えを、今も信じているからだ。
長い道のりを経て、二人は中央通りにある一軒の服飾店に辿り着いた。
昨日とは違い、街頭宣伝の男もその演壇もどこかへ消えていた。
食料や日用品を運ぶ人々が忙しなく行き交い、ボロ布を纏った女性を抱えるプリシラに注意を向ける者は誰もいない。
「ここですわね」
プリシラは看板に刻まれた店名を見上げた。
「『ジーンズ・ブティック』……。この名前、どこかで聞き覚えがありますわ」
「ジーンさんのこと?」
「ええ。ジーンズという、耐久性に優れた布地を開発した人物ですわ。炭鉱夫や労働者の間で非常に人気があるとか。私のこのジャケットも同じ素材で作られていますの。もっとも、私のは防御力を高める魔法付与が施されていますけれど」
「そんなすごいものを、昨夜あたしに貸してくれたの!?」
「ふふ、魔法の効果で体温を快適に保てますから。それに、使わなければ宝の持ち腐れですわ。これは女王陛下が私のために特別に作らせてくださったものですもの」
リオナラは目を輝かせ、ジャケットの襟元を指先でそっと撫でて感触を確かめた。
「すごい……」
彼女の喜ぶ姿を見て、プリシラの心に温かな光が灯る。
だが、その平穏は長くは続かなかった。
胃のあたりから這い上がってくるような妙な気配を感じ、プリシラが振り返ると――。
そこには、手足の長い痩身の男が、通りの真ん中で大仰な身振りとともに跪いていた。
黒いスーツに深い赤の蝶ネクタイ。
横に流したポマードたっぷりの髪形に、鋭い顎。その顔には、満面の笑みが張り付いている。
「ああ、マドモアゼル! あなたの美しさは、百――いや、千の太陽の輝きのごとく私を照らしている!」
あまりの奇行に、プリシラは思わず身を引いた。
「え……あ……ありがとう、ございます? たぶん……」
「失礼」
男は素早く立ち上がると、優雅に右手を胸に当て、左手を大きく広げた。
「して、我が慎ましき店に、どのような御用で?」
「説明したいのは山々ですが……」
プリシラは周囲の通行人が自分たちを凝視しているのに気づき、視線を泳がせた。
「ここでお話しするのは、少々……」
彼女が一歩退き、店の中へ逃げ込もうとした瞬間、男は眉をひそめて顔を上げた。
「モア(私)に不可能はない! 私はこの店の誇り高きオーナー。あらゆる布地は私の卓越した技術の前に跪き、あなたの望むままの装いへと姿を変えるのです!」
「わかりました、わかりましたから!」
プリシラは顔を真っ赤にし、降参するように右手を挙げた。
「ひとまず中へ入りましょう? 買いたいものが――」
「喜んで!」
細い手足からは想像もつかない速さで、男は三歩足らずで店の入り口まで移動した。
「さあ、こちらへ。愛しきお客様」
※次回更新は2月28日 21:30予定です。




