メェドゥギ
毎日22時更新します…
母親の光恵は祖母の家の手伝いで居ない。
ミキナはスマホでお気に入り動画を見ながら一人で晩御飯を食べていた。
大好物のイカ大根にだし巻き玉子。
味噌汁はキャベツとワカメ。
便通にいい。
食事が済むと部屋にケンケンで戻ってパソコンの前に。
『障がい、昆虫型巨人、スキル』で検索。
人気漫画しかヒットしなかった。
イラスト観覧サイトのメッセも特に目新しいモノは見つからず。
今のところハルト以外の能力者が現れる事はない模様。
町田ハルトに悪い事したかな、と思う。
仲間ではなく軽く敵認定してしまった。
向こうはウェルカムで来てくれていたのに。
何故仲間だと考えれなかったのか、脳内ホワイトボードにその理由を書き出してみる。
一、 痛車に乗って来たから。
二、 待ち合わせの場所と時間のチョイス。
三、 テンガロンハット。
四、 障がい。
一について。
引きはしたが敵認定には至らず。
二について。
デートだったら死刑だと思う。
三について。
似合ってはいたけどタイプではないだけ。
四について。
コレだな、とミキナ。
スキルの発現条件にコレが関わっていると知って少なからずショックは受けた。
だからハルトの事も受け入れられなかったのだ。
悪いヤツではないだろうに。
もう会う事はない。
仮に他にも同じ能力者がいたとしてもコンタクトを取るつもりはない。
「……町田くんのイラスト描くかな」
三時間程かけてテンガロンハットの似合う田舎の少年をほのぼの系タッチで描き上げた。
普通の車椅子に乗っていて義足のミキナが押している。
二人共笑顔あり。
その夜、彼女は夢を見た。
あのジャングルだった。
夢にしては木や土の匂い、肌に纏わりつく感覚がやはり生々しい。
で、やはり虫が居た。
前回同様ミキナの方を静かに見ている。
十メートル程の距離。
木と見紛う程にデカい十二頭身の昆虫型巨人。
まさか、また会えると思っていなかったのだが。
この機会を逃すつもりはない。
ずっとこっちを見てくる相手にミキナは話し掛けた。
「……こんにちは」
ハルトを思い出す。
彼も今、同じ状況なのだろうか。
「こんにちはー」
挨拶、返してきた。
あの外骨格に覆われた機能的デザインの口が動いて。
甲高い声。
イントネーションが標準語のそれではない?
「あ……。あ、えと。げ、元気ですか?」
「うん。元気やでー」
ゴリゴリの関西弁だ。
でも何故か、どこかで聞いた事あるような声。
不思議な感覚に捕らわれるミキナ。
数秒間が空くが、あちらからの問いかけはなし。
また自分の方から動くしかないのかと思い今度は勇気を出して近づいてみる事にした。
一歩ずつ慎重に歩を進める。
その時、ある事に気付いたミキナは思わず立ち止まってしまう。
一瞬ハッとして。
目の前にいる巨人を見上げた。
大きな複眼に長い手足。
間近で見るとくすんだ青色の外骨格ボディにはうっすらと体毛が生えているのがわかる。
「私、小嶺ミキナ……です」
「メェドゥギやでー」
「え、メェ?」
「メェドゥギ」
「はい。メェド……ね。えと、宇宙人ですか」
「外から来たんかって意味やったらイエス」
「おぉ……日本語、お上手ですね」
「おおきにー」
やはり問いかけにしか答えない。
「その、地球に居るの?」
「うん。I島におる」
マジかー。
急に親近感の湧くミキナ。
「……何しに日本へ?」
ここで初めて変化が訪れる。
メェドゥギの方から要望を伝えてきたのだ。
「用事あるから。会いに来てココ」
「へ? そこ? 私が?」
「待ってんでーミキナ。ほしたら」
「ダメ! ちょっと待って、お願いッ」
目を見開く。
天井だ、と思った。
深夜二時。
エアコンをつけていたのに汗ばんでいる。
カーテン越しに薄い月明かりが射し込むベッドの上。
上半身を起こして自分の右足をじっと見つめるミキナ。
今回その感触に気付く事が出来た。
前回もそうだったんだ……意外と冷静だなと思う。
しかし。
夢から覚めた今。
その感覚は徐々に叫び出したい程の感情の波となってうねり、彼女を飲み込んでいく。
言い様のない喪失感が後から後から押し寄せて来て胸が張り裂けそうになると。
ミキナは大声で泣いた。
リアルと区別がつかない程のあのジャングルの地で、彼女は自分自身の足で立っていたのだ。
義足ではない自分の足で。
それではまた…




