ハルト
毎日22時更新します…
「ウソでしょ……こっち来るんですけど!」
スマホでアニソンをガンガン流しながら噴水手前できゅと止まった。
アニソンもぴたと止まる。
乗っているのはテンガロンハットの少年。
白Tにジャージのハーフパンツ、そしてメガネ。
どこか田舎の夏休みを彷彿とさせる彼が乗る痛車。
不思議とマッチしている。
「こんにーちはーッ」
笑顔で元気に挨拶してくるがミキナはまだ警戒中。
「KiNAさんですかーッ」
ニックネームで叫ぶ少年。
答えないミキナ。
まだ彼を観察中。
両足に『金属支柱付き短下肢装具』を着けている。
車椅子には安定した座位をとるための座位保持装置。
両手に緊張は見られない。
彼は痙性対麻痺なのだ、とミキナは理解した。
多分、脳性麻痺による下肢麻痺。
別に詳しいワケではない。
自分自身リハビリが必要だったせいかリハビリテーションそのものに興味を持った時期があって。
リハビリが最重要となる脳性麻痺や脊髄損傷の患者の事も知識として入っていた。
彼女はがんセンターのリハビリルームに通っていたから彼らと直接関わる事はない。
ただ幼い頃から病気と闘って来た人間は直感でわかる。
この少年が今、一人でこの場所に居るという事。
その為に幼い頃からどれだけ気の遠くなるようなリハビリをこなして来たのか。
彼にはその笑顔を支える『家族』を含めたしっかりとしたベースがある事も既に理解は出来ている。
しかし今回の件に関しては慎重にならざるを得ない。
世界的な現象だと判明した昆虫型巨人と特殊スキルについての情報提供者で、痛車に乗ってる痛い人なのだ。
「町田ハルトでーす!」
個人情報を晒してきた。
戸惑うミキナ。
「……こんにちは」
「こんにーちはーッ」
嬉しそうなハルト。
「小嶺ミキナ……」
「あーッ、だからKiNAなんだぁ」
痛車乗っている件はとりあえず目を瞑る事にした。
ついでに目線も切ってから仕切り直しを試みるミキナ。
何とはなしに足元のタイルを見て「結構雑草生えてる」とか思う。
どうやらリラックス出来ているらしい。
町田ハルトにはそんな雰囲気がある。
「あの。スキルについてなんだけど」
「スキル? あーッ!」
両手で輪っかを作る仕草のハルト。
「皇帝の黄昏ッ!」
「へ? こーてい?」
次の瞬間。
彼女の左足が何かを踏んづけていた。
「?」
公園の硬いタイルではない柔らかい何か。
足元を見てみる。
「?」
最初、何が起こっているのか訳が分からなかった。
左足が地面に付いていない。
十センチ程、宙に浮いているのだ。
「え、ちょっ、何何何コレ?」
軽くパニックになるミキナだが『何か』が消えると足の裏に地面の感触が戻った。
「……サイコキネシスなのコレッ?」
何故だか爆笑するハルト。
「何?」
「あ、イヤー。サイコ何とかって念力の事? 超能力とか? ウケる。ぷぷッ」
少しイラッときた少女。
しかし確かにこの少年にもスキルがある。
自分とは違って物にも作用する力だ。
ある意味ヤバいが。
いや。
ザ・コマンドの方がヤバいけどね、と自問自答。
このスキルがあの虫からのギフトだとして。
何故私達なのか? ミキナは思う。
共通点ならある。
ただ何でソレなのか。
「…………」
彼が無言で見つめてくる。
「あ、そか」
このテンガロンハットのアニオタにスキルのカミングアウトをしないといけない。
次は私のターンだ、とミキナ。
少し考えてから彼女はポンと口を開いた。
「自分のスキル。説明して」
「…………ぼぼぼくのスキルは……一メートルの空気の球を操る事ですす……」
「何だ、それだけかー。それで浮いてたんか皇帝め」
他に色々聞き出そうとして、止めた。
右手の人差し指と中指を揃えて立てて残りの指でコンパクトに円の形を作る。
「私のスキルに」
剣指を前に突き出す。
「興味持たない事」
ハルトは細かく瞬きを始めた。
命令がインストールされているのだ。
ミキナは社会と関わりを持つようになった今も、ずっとザ・コマンドの検証を続けている。
そしてこのスキルが対人において高い効果を発揮する使い方として。
『暗示』をマスターしていた。
ザ・コマンドは発信する出力によってその強制力も変わってくる。
「お手」が目盛り1。
「お座り」が目盛り2。
「チンチン」が目盛り3。
「待て」が目盛り4。
「アタック」が目盛り5。
といった具合。
そして目盛り6が暗示なのだ。
暗示がインストールされると人はその部分についてアクセス出来なくなるし命令も上書きするまでは消えない。
普段彼女は目盛りを6以上で使用する事はない。
通常の社会生活でスキルは使わないからだ。
「空気の球……何に使えんのかわかんないけどザ・コマンドとは違う。スキルには共通点なし。ウチらは年齢と手帳所持者ってトコだけ一緒か」
十七歳である事、障がいがキーになっている事が判明してミキナは少し溜飲が下がる。
あの虫が神様ならこれはやはりギフトであって『若いのに頑張ったから世界征服してOK』というメッセージなのだろう。
「んなワケ、ねーから」
独語のようにセルフ突っ込みしてみせる。
ゆっくり検討したい案件だと思う。
ハルトを見るとインストールが終了していた。
「ゴメン町田くん。今日ちょっと暑くて気分悪いから……帰るね」
「んあっ、大丈夫?」
「うん。町田くん帰れる?」
メガネ越しに目を輝かせて親指をぐっ、とするハルト。
「ここは僕の領域だからねッ」
再びアニソンを流しながらLEDライトをピカピカ光らせて帰って行く。
見送りながらミキナ。
「いいヤツだったけど」
前髪をさわさわしつつ、暑さを思い出す。
それではまた…




