コンタクト
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ミキナは生まれて初めてバイトをしていた。
ヒューズメーカー工場。
小さいがメーカーなので原料から各種部品を全て生産しておりバイトは組み立て行程のみ。
彼女の仕事は長机に座っての端子組み込み作業だ。
エアコンの効いたスペースで十数人がそれぞれの行程を単独で作業する。
ラインではないから未経験者にお薦めのバイトらしい。
チリリリリリリリリリリリリリリリッ。
社員食堂。
ここでは二百五十円の格安弁当が提供されている。
「小嶺ちゃーん、これ知ってる? 今むっちゃSNSで話題になってるゥ」
事務の村山しずかがスマホを印籠みたいに突き出す。
ムチッとした体が印象的な二十代半ばの社員だが対人関係リハビリ中のミキナにスルッとハマった。
いつもお昼は一緒に過ごしている。
「しずさん、スマホ近っ」
コロッケにパクつきながらミキナ。
「コレ、このエイリアンみたいなの。世界中で目撃されてるんだってぇ!」
工場長と絶賛不倫中という村山しずかだが精神年齢はかなり低めだ。
「夢の中で、だってぇ!」
思わず画面を見直すミキナ。
そこには彼女の描いたあのイラスト。
ジャングルに立つ昆虫型巨人が。
「無断転載されとる……!」
ミキナはその拡散数を見て目を疑う。
14M。
千四百万越え。
バズっている。
自分のイラストがいつの間にか。
イラスト観覧サイトをチェックしてみる。
観覧数は普段より一桁多い程度だ。
「まぁ、普段が二桁とかだもん……通知もオフってるからどうせ気付かんけど」
ぶつくさ言いながらもメッセージを全て確認していくミキナ。
バズってる方から辿り着いたヒマ人ばかりのよう。
それでも初めての三桁に興奮の色を隠せない。
「もしもし小嶺ちゃーん、寂しいから帰って来ーい」
頭を小突いて来るしずか。
少女からの放置プレイに身悶えしている模様。
「あの虫さんの夢見た人。結構たくさんいるんだ……」
世界中であの夢は脳内配信されたらしく。
メッセの中にも『僕も見ましたよ』『こんな感じだった』『ジャングルの匂いとか』『暑かったよね』という感想がチラホラ見受けられる。
そんな中、ミキナはある一文に釘付けとなった。
ニックネーム片翼の聖騎士団さん。
『君はどんなスキルを手に入れた?』
***
「ここってギリK市かぁ」
電車内で検索するミキナ。
K市に来たのは初めてだ。
父親がいる頃は車でよくY市に連れて行ってもらったのだが。
片翼の聖騎士団とは何度かメッセージをやり取りして会う事になった。
あちらは男性らしい。
ここのところ脱引きこもりの彼女だったが。
それでも知らない男に会いに行く決断をするには、かなり勇気がいった。
決めた理由は二つ。
一つはこのスキルが一体何なのか、少しでも情報が欲しかった事。
もう一つは相手が同じ十七歳だという事。
単純に興味が湧いたのだ。
ミキナは目的の駅に着くとスマホナビを使い待ち合わせ場所の公園に向かった。
暑い。
昼間の日差しはもはや凶器だと言っていい。
短パンかミニでも履ければまだしも、いつものロングスカートだ。
目の前に自販機発見。
ガチャコ! ゴクゴクぷはー。
女子っぽい感じでいくか迷ったが結局いつものキャップに大きめリュックのメンズライクスタイルにした。
一応メイクはしてる。
バイトを始めてからメイクはちゃんとするようになったのだ。
五分程歩いて目的地に到着。
思ったより大きい公園で彼女は少しウンザリした。
奥の方に野外音楽堂が見える。
その右手前にあるのが待ち合わせの噴水らしい。
「遠ッ!」
この広いスペースに人っ子一人いない。
焼けるような日差しの中『よし、公園にでも行くか』とは普通ならない。
周囲の木々にへばりついている蝉達も皆、沈黙を決め込んでいる。
公園の端から木陰伝いに歩いて行くミキナ。
噴水の中央に設置された銅像を見ながら毒づく。
「お母さんと赤ちゃんかアレ……モチーフは何だろ? どうせベタなアレだ、平和とか愛とか。公園ぽい」
プール型の四角い噴水まで辿り着いた。
そのまま奥の木陰に避難して汗を拭う。
一応日焼け止めを塗ってはいるものの使い方がイマイチわからないミキナ。
「塗り直すんかなコレ? つか、この時間にここで待ち合わせって……脱水症なるわマジで!」
公園の白いタイル。
反射光にジリジリと焼かれる。
キャップから出した前髪が汗で張り付いて鬱陶しい。
「?」
遠く、蜃気楼のように佇む公園の入り口の方から。
何かが近づいて来る。
「……何アレ?」
光っていた。
青、白、赤。
フレームをLEDライトでデコられたそれは、点滅しながらこちら目掛けて一直線に走って来る!
音楽も鳴らしていた。
演歌ではなくアニソン、ボカロっぽい曲だ。
しかもタイヤには衣類の巻き込み防止用車輪スポークカバーがついていて。
甲冑姿で大剣を担いだ騎士のイラストが描かれている。
片翼の。
痛電動車椅子。
それではまた…




