けじめ
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ザ・コマンド。
漫画アニメ好きであるが故、厨二病的表現を回避したつもりで名付けた微妙に痛いネーミング。
トンボやおじいさんを指に止まらせたスキルの事だ。
今回はこの力が必要になる。
一カ月前。
ミキナはザ・コマンドについて調べていた。
まず、どのようにすれば発動するのか。
公園で捕まえてきた蟻を使って部屋で検証を繰り返す。
結果、次の内容が判明。
発動条件。
一、 口に出して命令する事。
二、 不特定多数の相手でも可。
三、 特定の相手でも可。
四、 発動時間は三十秒のみ。
次に溜池公園にてフィールドワークを行う。
発動対象の調査だ。
結果、対象は犬猫の哺乳類に鳥類、爬虫類、両生類、魚類、節足動物、軟体動物、昆虫。
そして人間。
ここまでわかるとミキナは対人用の実験に取り掛かる。
人間相手にどこまでやれるのか。
とりあえず怖いからスマホ非通知で区役所の色んな番号にかけてみた。
通話のみで簡単な命令を発動。
「手、叩いて」
『ぱんっ』
「しゃーって言って」
『しゃーっ』
「思いっきし踊って」
『…………ガタガタンッ、がしゃーん!』
次は対面でのザ・コマンド発動実験。
雑誌を補充中のコンビニ店員の後ろから小声で。
「……腿上げ十回やって」
タスタスタスタスタスタスタスタスタスタスッ。
息切れしている。
そのまま三十秒経過。
「はぁーはぁーはぁー…………アレ、何でオレ息上がってんの?」
同じ店員にレジ打ちの最中「腿上げ十回」と命じる。
彼と客はレジの途中でタスタス始めた。
終了後、三十秒経過するまで二人共にお互い反応なし。
最後。
ミキナはこの店員に面と向かって命令してみた。
「秘密にしてる事。一つ言ってみ」
「……二二二二股……してますす…………」
このスキルは自分が対象を認識して命令すれば、あらゆる生物に三十秒間発動させる事が出来るとわかった。
正直使い方によっては物凄く危険なスキルだ。
犯罪や金儲けにも利用出来るし何なら国家を転覆させる事すら可能かもしれない。
でもミキナはそんな事には興味なかった。
五年前の件にカタをつける。
それだけなのだ。
そして今。
「あいりは?」
既に態勢を立て直している右京葵。
強い口調。
「来ないよ。私が来るなって言ったから」
「ウソでしょ……」
女王はすぐにスマホを取り出すと電話をかけた。
この場を制する空気感はどこから来るんだろう? ミキナは感心する。
小学生の頃と比べて格段にオーラが増しているのだ。
「……出ない。帰るわ」
葵が真っ赤なワンピを翻したところでミキナはザ・コマンドを使った。
「待て」
背を向けようとした状態でピタッと動かなくなる葵。
「あー! もう、使わされた〜。全然こっちのペースになんないな……」
軽い敗北感を味わうミキナ。
気持ちを立て直す為か前髪をぽんぽんする。
三十秒経過。
「え? 何、何」
中途半端な自分の姿勢に驚く葵。
が、視線を感じてすぐにミキナへ向き直る。
「何なの。アタシに何か用なワケ?」
初めて真っ向から。
その威圧的な視線を受け止めた時、気持ちが落ち着いたミキナ。
やる気を持って喧嘩の間合いに突入してしまえば怖さや不安が消える事に気付く。
「五年前。私と真野大輝くんとの事、ガッコに流したヤツを探してる」
「アタシに関係ある?」
「ないと思うの?」
一発返してみせたミキナ。
黙る葵。
「そいつは溜池での私達を盗み見してて。笑いながら皆に話したらしいよ」
当時の事がフラッシュバックする。
ミキナは少し声が震えた。
「小嶺ミキナは真野くんの同情を引く為……義足を外して…………気持ちの悪い右足を見せてたって」
「だからそれ。アタシに関係ある?」
関係あるかどうか。
クラスメイト二十人近くにザ・コマンドを使って証言を集めた。
後は確認するだけなのだ。
右京葵に。
「関係あるかどうか」
今度は怒りで声が震えた。
「答えろッ!」
「…………あああります。池で、大輝に義足を外して足を見せていた小嶺さんを見て。クラスの皆に話したた……」
何故だかわからない。
あの時の事はハッキリとは覚えていない。
だけどミキナは真野大輝に請われるまま、医療関係者と家族以外に見せた事のない右足を見せたのだ。
この後、彼はクラスのアイドルから変態に格下げ。
転校していった。
ミキナの方はそのまま不登校となる。
二人共悪い事はしていないのに。
ただ、何となく背徳感はあったのかも。
だから行けなくなった学校に……彼女は思う。
全ては真実で、どこにも嘘はない。
大輝は欠損した足を見たがり、ミキナはそれに応じて、葵は気持ち悪いと思った。
「右京さん……」
立ち上がって葵と正面から向き合うミキナ。
その距離五十センチで身長差は十五センチ。
軽く見上げてから 。
「人がいちゃついてるトコ覗いてんじゃねーよ、バーカ!」
五年間、伝える事の出来なかった気持ち。
ミキナはしっかりと伝えてみせた。
「あ……ゴメン」
しばらく色んな感情が訪れていた様子の右京葵。
少し首を傾げると直ぐにいつもの女王に戻って無言で帰って行った。
立ち尽くすミキナ。
その義足まで、震えていた。
それではまた…




