ザ・コマンド
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場所は溜池公園。
日曜十時に公園内の神社で待ち合わせ。
ミキナは自分でも意外な事にデートに応じていた。
青のプリーツスカートに白のロングT。
そしてグレーのベレー帽。
ちゃんとお洒落して人生初デートに赴く彼女。
彼もヨークTにストレートパンツとセンスがいい。
公園内は名所という訳でもないが、あちらこちらで紫陽花と花菖蒲が咲いている。
二人は池の周りや遊歩道を歩きながら色んな話をした。
学校の事、アニメの事、家族の事。
お互いの友達の事やクラスメイトの事。
楽しかった。
お洒落してカッコいい男子とお話する。
学校では決して出来ない事だ。
歩き方には最大限の注意を払った。
『何か変』と思われないよう。
そのうち「彼は私の事好きなのかも」と思い始める。
それくらい夢心地だった。
彼女はいい加減、スクールカースト上で振り分けられたキャスティングに嫌気が差していた。
それは彼も同じなのだと感じる。
お互いミスが出来ない立場にいるのだと。
そして今、正に。
真野大輝は学校で決して外す事のない仮面を脱ぎ去ろうとしている。
ミキナは確信した。
ベンチに座った二人。
「……なぁ、小嶺」
緊張して前髪を触り出したが女の子らしく待ってあげるミキナ。
「オレさ。お前の事好きだ」
「うん……」
「オレと付き合って欲しい」
「……うん。いいよ」
嬉しそうな彼。
「ホント? やった。ありがと」
初めての彼氏が出来た瞬間だった。
お互い照れて地面を見つめている。
やがて意を決したかのように、彼が彼女に向き直る。
焦るミキナ。
そこまで想定していなかったのだ。
リアルに考えた事もない。
「小嶺……」
硬直する女の子。
手がぎゅってなっている。
「足。見せてくんない?」
「?」
「見てみたいんだ足。どーなってんのか」
ミキナはそれからどうやって家に帰ったかも覚えていなかったが。
翌日から不登校になった。
***
八月。
夕方になっても気温は三十度を下回らない。
そんな中、ミキナは駅前の小学校正門前にいた。
車止めに腰掛けて校舎を眺めている。
学校に来るのは不登校になって以来、実に五年ぶりだ。
ノースリーブの白いロングワンピの左側が夕焼け色に染まって。
見る者に鮮烈な印象を与えるだろう。
「驚いたな……小嶺さんじゃない?」
夕日を正面に浴びて。
ミキナの右手に女の子が立っていた。
「元気? 右京さん」
顔を向ける事なく返すミキナ。
リボンの付いたレトロな赤の半袖ワンピ。
ロングの黒髪をポニテでまとめたモデル級の容姿を持つ右京葵。
少しその整った眉がへの字になる。
「小学校以来かな? 久しぶり」
言葉とは裏腹に警戒を解く事はない。
変わってないな、ミキナは思う。
小学校時代、スクールカーストの頂点に君臨していた女の子。
クジラとミジンコ位勝負にならないと思い込んでいた。
そんな存在。
「アタシあいりと待ち合わせだったんだけど。小嶺さん何か聞いてる?」
「うん。私が丹羽さんに頼んだの」
「え、あいりに? ちょっと意外……」
暑いのに冷や汗をかいている自分。
ミキナはここで初めて相手の方を見た。
実のところ怖くて見れなかったのだ。
右京葵は車止めに腰掛けたままの彼女をずっと見下ろしていた。
こういう事に慣れてないミキナには正直荷が重い。
しかし彼女には避けて通る事の出来ない道であった。
人と繋がって生きて行く。
その為には過去のトラウマを精算する必要がある。
五年前不登校になった際、ミキナがリタイアする原因を作った人間がいた。
この件のケジメをはっきりとつける事。
これが自らに課した先に進む為の条件なのだ。
『ザ・コマンド』を使って。
それではまた…




