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ビギニング

最終話です…

2009年の夏休み。


小学生一年生になったばかりのミキナは、がんセンターの小児腫瘍科病棟にいた。

術後、病室に戻ったミキナは麻酔から覚めるとずっと泣き叫んでいる。


「足がないよッ! くっつけてーッ!」


ベッドの柵を強く、強く握りしめて。


「足、ちゃんとあるよミキ。お母さんがずっとくっつけてるから」


母の光恵はそう言うと彼女の足を持つ。

一日中だ。

そうするとミキナは少しだけ眠る事が出来た。

そして起きてはまた絶叫するの繰り返し。

光恵はその度言い聞かせ、幼い彼女を落ち着かせるのだった。


ミキナは何度も夢を見た。

()はない。

いつも真っ白な空間だけ。


「頑張っとんなー。ちっこいのに」


声だけが聞こえる。

甲高い関西弁。


「足ちゃんとくっついとるでー」

「……ホント?」

「お母んがくっつけてくれてるからな。安心しぃや」


少し優しい響きがして。

ミキナは嬉しくなる。

この夢を何度も見た。

その(たび)にこの謎の関西人は彼女を励ましてくれるのだ。


「オジサン。お名前教えて」


何度目かの時、ミキナは勇気を出して聞いてみる。


「メェドゥギやでー。ミキナ」

「メェド……?」

「メェ・ドゥ・ギ・な!」

「メェ・ドゥ・ギ?」


声の主は笑った。

甲高い引き笑いだ。


「お前ちっこいのに頑張っとるミキナ」

「うん」

「お前はこれからも頑張らなアカン」

「うん……痛いの?」


メェドゥギは少し間を開けてから答えた。


「せや。身も心も痛なる」


ポロポロ泣き出してしまうミキナ。


「……もぉ、痛いのヤダッ」

「せやな。でもこれだけは覚えとき。頑張った子には素敵なギフト当たる!」

「……ギフト?」

「贈り物の事やねー。〝人にはふさわしき贈り物を〟てな、昔の海外刑事ドラマでも言うてたし」

「ミキナ当たる?」

「抽選で三名様までや」


しょんぼりするミキナ。


「ワイはミキナに当てて欲しいなー」

「うん……。じゃ頑張る」


嬉しそうな声のメェドゥギ。


「その時また会えんの楽しみにしてるわ。したらな!」


最後の夢から覚めるとミキナはもう叫ばなかった。

ベッドに突っ伏して光恵が寝ていたから。


足もちゃんとくっついてる。


人間を頑張るのだ。


少女は前髪ぽんぽんした。

それではまた…

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