対話
毎日22時更新します…
「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」「ヤバい」
桃は飛んだ。
逃げても逃げてもあの少女の間合いだと知る。
あの子がやる気になれば、いつでもやれる距離なのだ。
飛ぶのはあまり得意ではないが死にたくない。
死にたくない……
三、四時間は飛んだろうか。
桃は南のある島に辿り着いていた。
I島。
別に考えた末の行動ではなく。
他に『頼る』所がなかっただけ。
メェドゥギのいる場所は探索マンを使えば直ぐにわかった。
助けてくれるとは思っていない。
ただ純粋に。
当てもなく逃げ回る恐怖から一時でも逃れたい。
その一心だった。
島の西南部にある川の源流へと一直線に向かう桃。
緑のモコモコ絨毯の上を飛んで行くと、いきなりそこだけジャングルがぽかんと口を開けている。
密林の中に一軒のログハウス。
平屋でコンパクトな可愛らしい造りだ。
玄関前のウッドデッキにどすんっと降り立つと、急いで木製のドアを開けて中に駆け込む桃。
ガタンガタッ。
室内は十畳程のリビングとキッチン、バストイレのみの間取りだが天井はやたら高い。
部屋の角には対角線に向けて薪ストーブが設置されていて、その前には二脚のロッキングチェアが置いてある。
右側のチェアに長身を折り曲げて座る淡い青の巨人。
長い首の上に乗った小さな頭がクリッと振り向く。
「よー来たな。林正徳……あ、魔人桃か」
メェドゥギが引き笑い。
どうやら機嫌がいいらしい。
「えらいカワイなったなーお前。さっきまで鐘崎桃のAV漁って観てたけど……むっちゃエグいやーん。山猿ヤバ」
「はぁ……」
「はぁてお前。何か辛気臭っ。まぁ座り」
半ば挙動不審な感じで桃がメェドゥギの前に腰掛ける。
振戦アリ。
自慢の巻き髪がワサワサになっている。
「空っぽ人間やな」
「……私の事?」
桃、イヤ林正徳はこの状況においてもまだ自己肯定感だけは強い。
否定されると病的なソレが〝むくっ〟と頭をもたげる。
「お母んが死んで自殺した時に、お前一回終わっとるがなー。心は死んだのに肉体は死ねんかったやろ。それで出来上がった残念なヤツがお前な、正徳」
再び俯く桃。
コイツは殺せない。
今は。
「んで。お前どーしたいん?」
桃はあの少女を思い出し頭がクラクラした。
自分の全てを完封する未知の能力。
何よりも恐れたのは攻撃だ。
敵意を向けられる前に逃げ出したからわからないが、彼女に刃を振るわれるかと思うだけで身の毛がよだつ。
正になぶり殺しにされるだろう。
絶対にイヤだ、何とか避けたい、と思う。
「…………あの子と手打ちがしたい……です」
メェドゥギ、爆笑。
「そこな! お前、オモロいわー林正徳」
桃には何が面白いのかよくわからない。
子供並みの責任能力しか自身に課す事がない人間。
それが魔人桃こと林正徳なのだ。
「そか。よーわかったワ。したら、しっかり話し合ったらええんちゃうかな」
昆虫型巨人がドアに向かって声を掛ける。
「キナハ。入っといでー」
木製ドアのガラス越しにショートボブ。
ガタタッ!
猫の様にチェアから飛び退いた瞬間、半ば反射的に攻撃を繰り出していた桃。
パアァァッ……
綺麗な光が飛び散る中、何事もなかったかのようにドアを開けて入って来るブレザー姿の女子高生。
何か右手に紙袋を持っている。
「メェドちん。おみやー」
「カレーパン?」
「だねー。荻パンの出来立てカレーパン」
立ち上がって小躍りする三メートルの虫。
紙袋を受け取るとその場でパクつき出す。
外骨格に覆われた口元がサクサクと忙しなく動く。
かなりこぼしてしまっているのだが、お構い無しに一個二個三個。
「自分でコピーしたらいいのに」
ウケるキナハ。
「お土産がええねん。おみや最高ーッ」
紙袋を大事そうに抱えてメェドゥギは外へ出て行く。
リビングには部屋の隅っこにへばりついた桃と、チェアに腰掛けるキナハの二人のみ。
桃は息をするのも忘れる程に。
背中を向けて座る少女の一挙手一投足に集中していた。
まるで追い詰められた野良猫がそれでも隙を見て逃げ出そうとするかの如く。
キナハはスラリとした脚を組んで視線を膝小僧に向けると突然、
「石油ってさ。大昔のプランクトンの死骸なんだって」
独語のように膝小僧に語り始めた。
「これが海底に積もってケロジェンて不溶性の固体有機物になるんだけど。地層の中で長い年月をかけて埋没が進んでくと、だんだん深度が深くなって地熱の影響を受けるようになるの。その過程で熱分解されたケロジェンが生成されて石油が出来る。らしいよ」
部屋の隅で耳だけ話に傾ける桃こと林正徳。
彼はこういう話が好きなのだが。
人と交わす機会は殆んどなかった。
「メェドちんが言ってた。Yエナジーは石油に似てるって。この星に産まれた数え切れない命の痕跡。これを行使出来る人間は歴史上限られてるから、私達はたまたま油田掘り当てた石油王みたいなモンなんだよ」
正徳は今。
この少女に対して興味を持ち始めていた。
それではまた…




