母
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林正徳はジャングルに立っていた。
「あっ……」
彼は驚く。
スポーツ刈りでカッターシャツをGパンにインしている。
あの林正徳だった。
「林正徳〜」
誰かが呼んだ。
声のする方向に目をやる。
そこには昆虫型の巨人が立っていた。
見上げる程に大きい。
外骨格ボディを持つソレは関西弁で話しかけてくる。
「たまにおる。生命力だけアホみたいに強いヤツ」
「……誰?」
「メェドゥギやでー」
正徳は周囲を見回す。
鬱蒼とした原生林。
温度や湿度もリアルそのもの。
少し汗ばむ。
「夢じゃないのか?」
「夢、みたいなー」
メェドゥギは笑う。
甲高い引き笑い。
「……笑うんだ」
「うん、覚えたー。君ら感情豊かやからな」
「虫には感情ないから?」
「せや。山猿系の人間は珍しい。進化に感情はあんまし必要ないからなー」
メェドゥギの大きな複眼は興味津々といった感じでキラキラしている。
「お前はユニークな存在や正徳。ワイは嫌いやないで。ま、この星の人間自体貴重ではあるけどもや」
恐らく生まれて初めて。
誰かから認めてもらった正徳。
自分はずっとこう言われたかったのだと思う。
「でもなー。殺し過ぎやて。どんだけ殺すねんちゅー話やろ」
「仕方ないよ。だって……」
「殺す以外のコミュニケーションがない?」
「……」
「お前みたいなヤツがこのスキル持ったら、こないなるんやな正徳。でもなー、人殺す位やったら」
優しく語りかけるメェドゥギ。
「月にでも住んどけ」
林正徳は弱々しい目で笑った。
***
奇妙に生々しい夢。
桃は目覚めるとやはり人面犬だった。
辺りはもう暗い。
半日位は寝ていたのかもしれない。
例の器官をチェックしてみる。
大丈夫、再生出来ていた。
慣れ親しんだ鐘崎桃のボディにチェンジ。
服装は黒いボンタンジャージのスウェットにした。
華奢なヤンキーの出来上がりだ。
前からやってみたかったらしい。
フードを被って歩き出す。
「どーやってあの夫婦殺そっか。寝てるトコぺしゃんてやるかなぁ」
暫くサンダルをペタペタ鳴らしながら歩き回る。
「……もう、止めよっかなぁ」
さっきの夢で会った昆虫人間の事を思い出す。
人と喋ったのは久しぶりだ。
人じゃないけど。
四半世紀ぶり。
こういう時に相談する相手もいない。
「!」
…………来る。
じわりじわりと、わかる。
ヤツが来る。
ヤバい、受け止め切れない。
桃は焦った。
こんな時に……
『穴』がやって来る。
「とりあえず殺す事だけに集中だ!」
パニックに陥らないよう頭を整理し出す。
楽しい事だけ考える。
今日殺す? それとも明日?
朝のバトルを思い出してみた。
「何か……面倒臭いな戦うの」
一気に暗い穴に飲み込まれる。
落ちた。
落ちてしまった。
魔人桃は再び林正徳の魂となって、ここにいる。
喪失感。
この穴の中ではそれしか感じる事が出来ないのだ。
彼は既に泣いていた。
こめかみに手を当てて。
命だった母。
この人を失った悲しみが永遠に続く。
……もう、生きてても仕方ない……何の為に生きてんのか、わからん……俺なんか生きててどうすんだ……生きる意味なんてないよ……
もう、ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて苦しいんだ。
「母ちゃん…………」
桃は道端に踞ったまま。
電池が切れたオモチャの様に動かなくなってしまった。
それではまた…




