犬
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パンチを打ちながらジリジリ距離を詰めるハルト。
その距離十メートル。
運動不足なのか、口が開いている。
「ハアアアアァァァーッ!」
その距離五メートル。
バテてると思った彼の息が整っていた事に気付く桃。
「何か仕込んでる?」
ハルトがカッと大口を開けた。
「!」
咄嗟の事に桃は反応出来なかった。
彼が口からフルパワーを練り込んだ『玉』を撃ち込むと彼女の華奢なボディにめり込む。
ずどォォォオオオオオオんッ……
「うわ!」
撃った本人が驚く。
想像を遥かに越えた爆発。
爆風で地上の建物の窓が一斉に割れる。
パリパリパリンッ!
爆心地は煙に包まれていて視認不可状態。
急いでハルトは風を巻き起こして煙を吹き払う。
そこに桃は浮かんでいた……
胸から下は消失した状態で。
「ひっどーい。もう、私激おこプンプン丸だよ!」
「古ッ」
ハルト、引く。
「コレは可愛くないから使いたくなかったんですけどお〜」
ブリブリの上目遣い。
だが、その下半身部分には一瞬で厳つい『戦車』が出現した。
パッと見には戦車に乗っているようにも見えなくない。正確には〝下半身に戦車が生えている状態〟が正解。
「自衛隊の10式戦車だよーん!」
「再生? いや、コピー能力か……すげッ」
ドォォォォッ。
いきなり主砲の44口径120ミリ滑腔砲をぶっ放つ桃。
徹甲弾。
こんなのが当たればひとたまりもない。
逃げるハルト。
次は7・62ミリ機関銃と重機関銃M2で追撃。
パララララッ、パララッ。パラララッ。
ハルト、スピードで回避して行く。
すると主砲のスラローム射撃を敢行する戦車桃。
自動追尾機能付き。
ドォォォッ、ドォォォッ、ドォォォッ。
まるで一人戦争状態だ。
堪らず射程外まで離脱する眼鏡中年。
約三キロ、時間にして十秒程。
桃はこの時を見逃さなかった。
一瞬で戦車から生身の下半身に再生、地上の町田家を目指す。
「あ、女の子に戻ってるー!」
正しいデータで再生したようで男性器が、無い。
テンションの上がった桃は上空から町田家を『ぺしゃん』とやった。
キラキラ……光彩が出現。
「もう! 旦那めーッ」
桃は空中で地団駄を踏むと、ゆるふわパンツをコピーした。
下半身丸出しだったのだ。
その時、町田家玄関に現れた人影。
「……出たなババア!」
ミキナだ。
四十過ぎには見えない。
エプロン姿のまま桃を睨みつけると右の剣指を突き上げた。
「動くなッ」
暗示を仕掛ける。
が、効かない。
「オバサン。それ、私には効きませーん」
左の剣指も突き上げるミキナ。
「動くなッ」
「!」
食らった。
たったの数秒間。
暗示を振り切った桃は、頭と胸めがけて飛んで来る何かの気配を察知。
「ヤバ」
ずど、どォォオオオオオオオオんッ。
物凄い衝撃で視界が飛ぶ。
顔の左半分と右肩が吹っ飛ばされてしまう。
一キロ先まで戻ったハルトが、先程の爆裂玉『ミニ』をぶん投げていたのだ。
全部で五個。
ノーコンだが「死ねーッ」と叫びながら投げまくり、内二個が桃の頭と肩を直撃。
再三に渡ってこの夫婦のコンビネーションに追い込まれ少し心が折れかける彼女。
自分には戦闘の才もないのではないか。
挫折して逃げた人間は、ここぞという時に踏ん張りが効かない。
加えて脳の損傷で例の『大事な器官』の一部がやられたのか、再生のペースが物凄く遅い。
地上に落ちて行く桃。
「くっそ……ヤバッ」
この窮地において。
やたら生存本能だけは強い彼女が驚きの行動に出る。
空中で千切れかかった頭と体を切り離して頭部のみ、まず再生。
ボディ部分を子犬で複製し地上に降り立ったのだ!
そのままトコトコ路地に逃げ込む人面犬。
「ふう……危ないトコだった」
動物は好きだから犬のスキャンしておいて良かった、と一息つく。
「何となくわかる。器官の再生に少し時間が必要……それまで隠れてよっと」
このサイズでもちゃんと脳ミソに酸素行くよね、とか考えながらビルの室外機の横で寝転がる桃犬。
尻尾を振っている。
頬に当たるコンクリがザラザラして冷たい。
地面は色んな匂いがする事に気付く。
「あのバカ夫婦には超感覚ないから見つかる訳ないし」
少しリラックスすると、先程味わった挫折感を思い出して暗い感情に心が支配される。
いつもの心地いいヤツが必要だ、桃は思う。
「復讐。復讐しないと……復讐だ、復讐」
自信の過小評価を『復讐』という手段で埋めようとする子犬。
暫くしたら少し疲れて、寝た。
それではまた…




