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破壊

毎日22時更新します…

「おかしい……」


朝七時半。

施設から飛んで来た桃は、都内Sエリア上空三百メートルで静止中。


何かしら想定外の事態が起きている。

用心深い彼女は地上に降りる事を躊躇(ためら)っていた。

スカイタワーの件以来のビキニ鎧を装着。

魔人の復活を派手に演出するつもりだったのだが。


超感覚の千里眼で街を観察してみる。


「何か違う」


スクランブル交差点。

いつもの大型屋外ビジョンに屋外広告。

広告が立体ホログラム映像になっている? 

あと車が。

何と言うかデザインが違うように感じる。


ドクン、と脈打つ桃の心臓。


「……アレって全部電気自動車?」


全ての車にマフラーがない。

それに殆んどの人が運転すらしていない。


「自動運転がこんなに普及してる?」


信号を渡る人々のファッションや髪型も微妙に違う。

これまで見た事のない新しい感じ。

徐々に鼓動が激しくなっていく桃。


「まさかとは……思うけど!」


一瞬で駅前に降り立っていた。


多くの人通り。

通勤中の若者は誰一人、鎧姿の彼女を気に止めようとしない。

中年や初老のサラリーマンが一部ざわつく程度。

大型ビジョンの音声が流れてくる。


「2044秋の最新ファッション」


思わず息を飲む桃。

彼女が復活したのは二年後ではなかったのだ。

実に四半世紀、二十五年も経過した世界だった。


パニックが桃を襲う。


遠い未来ではなく、まだ自分も知っているこの時代で。

(すで)に忘れられかけている。


存在しない存在。

言い様のない不安と孤独感に襲われて桃は強烈な希死念慮(きしねんりょ)を抱いた。

心臓が早鐘を打ち、呼吸もままならず。


この苦しみから早く逃れないと!

本能的に自己の過小評価を衝動行為で(まぎ)らわせようとする。


つまり。

再び上空まで飛び上がると、駅周辺からビルを順番に壊し始めたのだ。

モーフェートを使って。

昨夜男性職員を潰した要領で上からぺしゃん、とやる。


徐々に立ち上がってくる白煙。

コンクリートの破壊片だ。

朝のSエリアは一変、地獄と化した。


ぺしゃん、

ぺしゃん、

ぺしゃん、


車のクラクションや人々の悲鳴、紙くずのように潰れるビルを眺めていると。

段々と落ち着いてきた桃。


スクランブル交差点を中心とした十数棟のビルをぺしゃんと潰した。

駅ビルはやらない。

電車が停まると通勤に影響が出て大変だから。


「もう少し念入りにやっとこ」


人々が後世に渡って彼女の事を忘れないよう。

二度としんどくならないよう。


こうして街は、壊滅(かいめつ)状態となった。


***


T線のYエリア。


桃はSエリアから路線づたいに飛んで来ると駅前の街道沿いに降り立った。


ビキニ鎧から、ゆるふわ系ファッションにチェンジしている。

駅は人でごった返していて駅員が説明に大わらわだ。

Sエリアにてトラブル発生中だと。


「電車、気をつけたのにな……」


横目で見ながら駅ビル、商店街を抜けて住宅街へと向かう桃。


大きく腕を振って歩いてみる。

生きてる。

キラキラしている。


四半世紀ぶりの清々(すがすが)しい朝。


これから例の二人組の所へお邪魔する。

まずは女子の方。

前に鐘崎桃(かねさきもも)に使った探索マンで場所は特定済みだ。

あの女が手を握った時にデータは全て(いただ)いた。


深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている。


ニーチェ、だったと思う。

半世紀前に書いたシナリオで使った事がある。

まさかリアルで使うシチュエーションが自身の人生で訪れるとは。

桃は考える。


あの女子も四十前後になっているだろう。


「ババアじゃん」


とてもハイな気分になれた。

そういえば今日、朝()ちしていた事を思い出す。

実年齢だと八十前だから「若いなぁ」と愉悦(ゆえつ)する。


あの女への復讐シナリオはこうだ。

まず玄関でインターフォンを鳴らす。

女が出たら速攻、それ以外でも呼び出してもらいインターフォン越しに操りマンを発動。

相手に先手を取らせる事なく拉致(らち)する。


前回やられた事をそっくりそのままやり返してやる。


男の方とはバトルしてみたい。

向こうは基本のモーフェートしか使えないシロートなので、ゆっくりと楽しんでからなぶり殺す。

女は飽きるまでオモチャにしてから廃棄処分にする。


楽しい。

心が(たぎ)る。


復讐ストーリーがウケるのも(うなず)ける。

感情がノリやすいのだ。

作家時代に書いておけば良かったと後悔するゆるふわ。


(しばら)く歩いて。

とある二階建て一軒家の前で立ち止まると。


インターフォンを押した。


とびっきりの笑顔で。

それではまた…

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