不意討ち
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前方二十メートル程の都道沿いにパトカーが三台。
五名の警官が拳銃を構えていた。
パシッ。
一発が桃の左肩に命中したのがわかる。
しかし何故か弾が宙で止まっているかのよう。
「何で?」 タイゴは目を凝らしてみる。
すると桃の華奢な体全体が、透明なガラスのようなモノで覆われている事に気付く。
「鎧? ポリカーボネート?」
世界中の警察や軍隊の装備品であるライオットシールドの原料で所謂防弾ガラス。
桃はコレで鎧を作り装備しているらしい。
振り向くと警官に機関銃を掃射する鎧女。
五名の警官も応戦したが拳銃では勝ち目がない。
蜂の巣にされた。
「……ふざけんな神様」
タイゴは腹が立った。
何故悪党の人殺しにこんなチート能力を授けたのか。
これが漫画なら企画段階でボツだ。
誰も望まないストーリーがここで展開されている。
面白くない。
神様は才能が無いと知ったタイゴ。
目の前でプカプカ浮かぶ犯罪者に吐き捨てる。
「お前、つまんねーよ!」
「は?」
ゆっくりとタイゴに向き直る桃。
その顔にはハッキリと苛立ちの表情が張り付いていた。
が、すぐに消えた。
「三流漫画家なんて生きてる価値あんの?」
再び銃口が二人に向けられる。
女の子がタイゴの尻にしがみつく。
彼は胸が張り裂けそうになって、思わず天を仰ぐ。
仰ぐ?
……………………ヒュゥゥウウウウウン!
風を切って、何かが。
それは一瞬で。
タイゴと女の子の目の前に現れた。
イヤ、正確には桃の目の前で止まったのだ。
手を繋いだ少年と少女に見えた。
「KiNAちゃん、指ッ!」
少女の方がトリガーにかけている桃の指をぐっと掴む。
「掴んだ!」
パン! パララッ!
発砲されたが弾は全弾、宙でピタと止まる。
「え、スキルを同時展開……?」
驚いたように少年の方を向く桃。
「二度と目覚めるなーッ!」
少女が叫ぶと桃は『ぐにゃり』となって。
倒れたきりピクリとも動かなくなった。
正に電光石火。
全ては一瞬の出来事。
タイゴは自分と女の子を俯瞰で見ている事に気付く。
人間は死に直面すると特殊なモードに突入するらしい。
彼と女の子を救ってくれた少年と少女。
少女の方がタイゴと女の子に向き直ると、にゅと指を突き出す。
すると二人は目をパチパチし始めた。
それを俯瞰で見ているタイゴの意識も白に覆い尽くされていく……
「結構必死でやれたな」
そう思えた。
***
「スキルでガードしないでポリカーボネートの鎧を装備してるってー」
飛行中にメェドゥギからスマホで指示を受けていたミキナがハルトに伝える。
「だから何ーッ」
「銃撃ちまくってるらしいからぁ、利き手の人差し指だけは鎧のガード無しかもってー」
「オッケー。じゃあ、指狙いで行こーッ」
「おぉー」
メェドゥギから連絡が入って直ぐ。
ハルトが飛んで来てくれてミキナは決戦の場、ドーム球場へと向かっていた。
不思議と怖さはない。
殺さないと決めているから迷いもない。
今のミキナはそう思える。
ハルトには『移動』に加えて『防御』も特訓を積んでもらった。
ガードはYエナジーで電柱振り回すパワーを体に纏うイメージで出来る。
銃弾程度なら余裕で止めれられる筈だ。
そして彼女自身は、特訓して得た新スキル『洗脳』を身につけていた。
この洗脳はこれまでの暗示とは違い、変更不可能。
書き換えの効かない絶対的な命令で、使い方によっては取り返しのつかない事にもなりかねない。
それでも二人は相談し、桃にコレを使うと決めた。
ただし〝対象者に直接触れないと発動しない〟制約付きで、ある程度のリスクを負わなければならない。
「私達の唯一のアドバンテージは相手に存在が知られてないって事!」
「だからフ・イ・ウ・チだねーッ」
当初は根城を特定して寝込みを襲う計画もあった。
そもそも桃は目立ちたいのか頻繁に出現していたから、その機会を狙っていた矢先。
今回の襲撃事件が起きてしまう。
メェドゥギから連絡を受けたミキナとハルトは迷う事なく即、計画実行を決断した。
前回の928が常に頭にあったからだ。
自称悪魔。
人類の敵を駆逐する事。
そして数分後。
ミキナとハルトは、この小柄な女の形をした林正徳の封じ込めに成功したのだ!
洗脳は完璧にハマったようで魔人桃は横向きに倒れたまま息すらしていないように見える。
ミキナは側にいた男性と女の子に向き直ると剣指を突き出す。
「私達の事は忘れて」
暗示をかけた。
目をパチパチする二人。
これでミッションコンプリート。
林正徳こと魔人桃。
後は国に処分を任せる予定だ。
洗脳は何をしても外せないからこの判断が出来る。
ミキナが頷いて手を差し出すと側でプカプカ浮いていたハルトがその手を握った。
ヒュゥゥゥゥン…………
晴天。
雲は遥か下。
正に晴天。
気持ちとは裏腹に震えが止まらないミキナ。
今になって〝実戦〟を潜り抜けた恐怖が追いついたのだろう。
チラとハルトを見てみる。
とびきりの笑顔だった。
そうか。
私達は使命を果たせた。
もう、笑っていいんだ!
チャ、チャ、チャララララ♪
メェドゥギからミキナに着信。
「二人共お疲れー。ホンマは始末した方が良かったけど。ま、ようやったわ」
「メェドがよくやったってー」
「やったーッ」
はしゃいでみせるハルト。
「……このまま終わったらええなぁ」
「えー? 何て? 聞こえないよー」
プーップーップーッ、通話終了。
「どしたのーッ?」
「わかんなーい……」
手を繋いで空を飛ぶ部屋着姿の二人。
ハルトがガードしてくれているから風圧を感じる事はないが。
ぼぼぼぼ音がうるさい。
「ゆっくり飛ぼー」
「ラジャ!」
風が心地いい感じになる。
悪くない、ミキナは前髪をぽんぽんした。
それではまた…




