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殺戮ショー

毎日22時更新します…

「もーお、プンプンだぞおおおおお!」


(しばら)くはリング中央で両手を腰に当てて。

可愛らしく頬っぺを脹らましたりしていた魔人桃。

やがて飽きたのか、四方をくりくり見回しながら何かを取り出す。


「え?」


ミリタリーオタの波多野(はたの)タイゴは目を疑う。


「陸自の九ミリ機関拳銃!」


桃が構えた瞬間、思わずドームの床に伏せた。


パララッパラララララッ…………


驚く程皆ノーリアクション。

銃を見た事もない人が大半だからリアリティを感じないのも無理はない。

そっと頭を上げるタイゴ。


少し間を置いてから客席のあちこちで悲鳴が上がる。


「どこから出した? ……マガジンは持ってない。毎分千百発のフルオート射撃、二十五発撃ったら弾切れ!」


ところが桃は弾倉が空になると、またどこからか取り出し素早くリロード。

掃射を続ける。

繰り返し繰り返し。


「うわ。ウソだろ!」


弾切れを起こす事もなく、客席に向かって滅茶苦茶に撃ち続ける魔人桃。


ここで、ようやくパニックになる球場。

タイゴの周りの観客も逃げ惑う。

数万人に対して機関銃一丁。

どこかまだ余裕があるのか、罵声が聞こえてくる。

と、今度は何かを投げ始めた桃。


パアァァン……パアァァン!


「手榴弾! M26? マジかアイツ」


小柄なのに異様な程肩が強い。

場内の隅々にまで放り込んでいく。

これには観客達も堪らず我先にゲートへ殺到した。


タイゴも桃の動きを観察しながら脱出を試みたが、後ろの中年男性にジャケットを掴まれて転倒。


その上を人々が容赦なく踏みつけていく…………


ハッと意識が戻るタイゴ。

頭痛はするが体は動く。

起き上がるとフラフラ歩き出した。


場内のあちこちには多数の死傷者がいるようだったが朦朧(もうろう)としながらゲートに向かう。

状況がわからない。

とりあえず逃げないと。


メインゲートまで辿り着いて球場外へ出た途端、遠くの方で銃声。


パラララッ……


ぎょっとして駅方向に目をやる。


「アイツ、球場から逃げた観客を……空飛んで追いかけて、撃ってるッ!」


ドーム前の広大なスペースには、そこかしこに動かなくなった無数の人達が。


逃げないと。

桃がいる反対方向、ドームづたいに都道目指して走るタイゴ。

球場に戻るという判断は頭になかった。


「?」


聞こえる。

(かす)かだが子供の泣き声が……


泣いている。

常軌を(いっ)した泣き方だ。

気がつくとタイゴは声のするアミューズメント施設の方へ走り出していた。


「ヤバいヤバい何やってんだオレ!」


子供好きでも何でもないが。

あの泣き声を聞いて『行かない』という選択枝もまた持ち合わせてなかった。


打ち合わせ終わりの格闘技観戦、原稿袋を持って走る四コマ漫画家。


あちこちに人がバラバラと倒れているのが目に入る。

心臓が早鐘を打ち始めたが彼は思い出していた。

あの女、魔人桃は漫画界にとって仇敵(きゅうてき)なのだ。

きら星の(ごと)き作家達の命を奪ったサイコ野郎。


怒りが。


アドレナリンを分泌させて行動を後押しする。

見つけた!

アミューズメント施設の入口辺り。


幼稚園児位の三つ編みの女の子。

お出かけだったのかお洒落をしている。

が、その服は血だらけだ。

足元には両親と思われる男女の死体。

他にもこの付近には、数十人の射殺体が転がっていた。


気を抜くと膝から崩れ落ちそうになる程のパニックの感情を。

タイゴは怒りでねじ伏せる。


泣き止まない女の子を小脇に抱えると都道目掛けて突っ走った。


漫画家なのに足が速い。

本業は高齢者介護の仕事なので体は鍛えているし、今はアドレナリンドバドバだ。


とにかく走れ。

走れ、

走れ、

走れ、

走れ、

走れ!


「あなたさ、漫画家さん?」


走るタイゴの右後方一メートル。

魔人桃が並んで飛んでいた。

驚いて立ち止まるタイゴ。

女の子も泣き止んで桃を凝視(ぎょうし)


「それ。出版社の原稿袋だよね。そこの」


負い紐で肩から機関拳銃をぶら下げていた桃は、それを嬉しそうに構え直す。


殆んど裸に近い露出状態。

肌がピンク色に蒸気しているのがわかる。

サイコの変態野郎だ、と冷静に観察するタイゴ。


「あなたペンネーム教えて」

「……波多野タイゴ」

「知らね」


トリガーに指をかける桃。


ガラス玉みたいな女の子の眼を。

タイゴが両手で咄嗟(とっさ)(ふさ)いだその時、


パンッパパンッ……


乾いた発砲音が三回、響いた。

それではまた…

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