人類の敵
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エアコンが心地いい。
意識が戻ると三上晴康は直ぐに「隣だ」と理解した。
天井が見えるから寝かされているのだ、と知る。
恐る恐る周りを見回す。
台所か。
奥の部屋に男が二人。
白Tにジャージ姿の男が馬乗りになって、もう一人に何かしている。
背中を向けていてよく見えないが。
「足?」
部屋の仕切りの引き戸に見切れる形で素足が何本か見えている。
徐々に恐怖が晴康の心を侵食していく。
「淳が何かされてる……」
馬乗りになっている白髪混じりの男はこちらを見向きもしない。
別に拘束されている訳ではないが『縛られてる』と感じていた晴康。
「コンビニの店員さん?」
「えッ?」
彼が寝かされている台所の玄関横には五百円玉が小山のように積んであった。
「あー私ね、働いてないんですよ。だからお金は作ってます」
「?」
「札だと通し番号変えんのが面倒なんで。硬貨だとコピーすんの楽だから」
「……淳に何してんスか」
「淳? あーコイツか。実験ですよ、人体実験」
最悪の返答が帰って来て項垂れる金髪。
「もうちょい待って……ほら! 出来た」
こっちを向いて笑う白Tジャージ男。
やはり例の隣人だ。
『淳だった』ソレの髪を掴んで上半身をぐい、と起こしてみせる。
淳の顔。
別人になっていた。
正確には女性の顔。
どこかで見たような。
スッピンでもかなり可愛い、と晴康。
「生きてるんですか?」
「です。死なれちゃ困るんで。実験だから」
晴康はハッとして部屋を少し覗き込む。
素足の主。
やはり同じ顔の女性が三人。
真っ裸で寝かされていた。
三人共目を見開いたまま、ピクリとも動かない。
「これ、コピーですよ。生きてません。ただの肉人形」
そう言うと男は顔だけ女の子になった淳のタンクトップをせっせと脱がし始める。
「もう少し待ってて下さい。ボディもやっとくんでね」
「……何を待つんスか?」
「え。イヤ、次はお前の番だけど」
やっぱりね。
晴康は思った。
***
ブゥーッ、ブゥーッ、ブゥーッ。
「あ。ちょい着信キタ」
「旅行の彼氏?」
「ちが。彼氏じゃないし旅行じゃないし」
村山しずかのねっとりした視線を振り切って食堂の外で電話に出るミキナ。
「ハルトくん?」
「KiNAちゃーん、ヤバいよ林正徳!」
昨日、台風シーズンのI島から帰ったばかりのミキナとハルト。
とりあえずミキナは今日からバイトに出ていた。
しずかにはお土産の『黒糖』を渡したけれど、お菓子かと思ってたのに本当の黒糖だった事が先程判明したところだ。
ハルトは高校に通っているから彼も今お昼休みか、と少し妬ましく思う。
「授業中さ、ヒマだからメェドさんに見せられた動画の元ネタ調べてたんだけど……」
「勉強しろ」
「どっかで見た事あるなーって。そんで思い出した。ニュースで流れてた伏間先生の仕事場に設置されてる配信用のカメラ映像」
「死のライブ配信の?」
「そ。メェドさん動画に混ざってた」
今年の一月に起こった漫画・AV業界連続変死事件を思い出すミキナ。
仕事場から動画配信中だった超人気漫画家の伏間ナルが、心臓マヒで突然死。
特にファンではなかった彼女ですら衝撃を受けた。
知らず知らずの内に前髪をぎゅううと押さえつける。
「てコトは……他の漫画家さんやAV関係者。あと、今も続いてる無差別大量殺人も?」
「アレ、全部林正徳の仕業だよッ」
ミキナは言葉を失う。
千人以上の犠牲者を出している連続殺人事件の犯人が。
メェドゥギが人類の敵と言う林正徳なのか。
「警察は組織的なテロだって見方してるけど。コレが出来るのってYエナジー使えるヤツ以外ないって!」
「……もし、そうだとしたらヤバ過ぎない?」
「ん?」
「今年だけで千人以上一人で殺してんだよ」
「だね」
「だね、じゃないよ。私達こんなヤツ相手に何とかしろって言われてんだよ!」
「うん……何とかしないと」
この片翼かぶれ。
ミキナは多少イラつくも、彼女の中にも怒りの火は点っていた。
現在進行形の無差別殺人に加えて。
神の如く尊敬して止まない漫画家七人がヤツの毒牙にかかっていたと今知ったから。
彼女の人生を支えたと言っても過言ではない三作品がある。
これらは未完のまま、もう二度と読む事が叶わないのだ。
林正徳。
この化け物の正体を知った以上、放っておく訳にはいかない。
初めて義憤とも言うべき感情に衝き動かされるミキナ。
「……何とかしよ。ハルトくん」
それではまた…




