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霊感

毎日22時更新します…

金髪に丸メガネのぽっちゃり男子。

三上晴康(みかみはるやす)はこの暑さに辟易(へきえき)していた。


(すで)に黄色のTシャツが汗だく状態の彼。

テンション低めであるコーポ前に立ち尽くす。

これからこなすべき仕事量を考えるとゲンナリする。

それは同行した矢本淳(やもとあつし)も同じだろうと思う。


そして、ここに来ると半年前のアレを思い出さずにはいられない。


今年二月から始まった漫画・AV業界連続変死事件に次ぐ無差別大量殺人事件。

犯人グループの目星はおろか、その目的すら判明していないこの事件。

政府は国民に対し単独行動の自粛(じしゅく)や不要不急の外出を控えるように呼び掛けを行ってはいるものの、東京を中心とした連続殺人は衰えを知らず。


連日コンスタントに二〜三人が殺され続けていた。


人々は互いに疑心暗鬼となり、各地で自警団が発足。

ストレスを抱えた若者の過激行動や警察に対する不満も問題化してきている。


この無差別大量殺人事件の『始まりの街』として犯罪史にその名を残す事になってしまったのが、晴康の生まれ育ったここT市なのだ。

一日で十四人の老若男女が殺害され彼がバイトをしているコンビニでも犠牲者が一人出ていた。


昼間から学校をサボり、店の駐車場でタバコを吹かしていた中学生が心臓マヒで変死。

晴康はこの事件で不可思議とも言うべき〝ある光景〟を店の中から目撃している。


彼が見たモノ。


それは、コンビニの道路向こう側にいた一人の中年男性だった。


その男は駐車場でタバコを吸う中学生に向けて、右手人差し指を腰の辺りからピッという感じで指差した。

ただそれだけだった。


すると少年は糸の切れた人形の(ごと)くカクン! となって倒れた。


不審に思った晴康が外に出て少年に声を掛けてみると。

彼はただの肉の塊と化していた。

そこには命が抜け出た直後の(うつ)ろな(まなこ)があるだけ。


ハッとして晴康が中年男性を目で追ってみたが、もうどこにも居ない。


「アイツ、どっかで見たことあんゾ……」


どこで?

そう、バンドメンバーの高橋圭介(たかはしけいすけ)が住んでいるコーポ。

隣の部屋の男だ。

圭介の部屋に遊びに行くとたまにドアから顔を覗かせていた不気味なヤツ。


かと言って、さっきのアクションが殺人に結び付くとは到底思えない。

なので警察の事情聴取では男の事は話さないでおいた。


晴康自身。

バンドのギタリスト圭介が年末から行方知れずで先が見えない状態が続いており。

事件や男の事に構うだけの余裕は一切なかった。


やがて春向けの商品が棚に並ぶ頃。

彼は再びこの男を思い出す事となる。

コンビニに客として来店したのだ。

レジに立っていた晴康は得体の知れない何かを感じ、

咄嗟(とっさ)にプロとして最大限のスキルを発揮。

リスク回避を試みていた。


さりげない接客。

特に何も起こらなかった。


が、一つだけ奇妙な出来事が。

男は四千円の買い物全てを五百円玉で支払ったのだ。

それからも。

たまに来店しては、やはり支払いを五百円硬貨のみで済ませていく。


「五百円貯金とかしてたんかな?」


(いぶか)しぶる晴康。

五百円玉の謎は続いたものの、それもいつしか気に止める事もなくなっていた。


八月に入って警察へ捜索願いを出していた圭介の田舎の家族から連絡が入る。


「コーポの部屋を引き払うので家財の処分をお願いしたい」


そして今日。

バンドメンバーの矢本淳とコーポ前に来ていた。

気がつくと、さっきまでわんわんとうるさかった蝉達の鳴き声が一切(いっさい)聞こえて来ない。


大家から借りた鍵で二階の部屋に一歩、足を踏み入れた瞬間。

晴康はギョッとする。


痩せた鶏みたいな表情で、淳が壁を見つめたまま動かなくなったのだ。


「何? どした淳」

「…………こりゃ、やべー」


タンクトップから見える胸元。

筋だらけの首をぐーッと伸ばしながら。

淳が目を()き出して(うな)る。

霊感の強い淳は壁の向こう側にある『何か』に反応しているらしい。


変死した中学生の顔を思い浮かべる晴康。


「何か……スゲー禍々(まがまが)しい気配がすんだよ」

「隣?」

「だな。いるぞ、化けモンみたいなヤツ」


淳がこれまで〝オーラが見える〟とかで、人の事をあーだこーだ言い出すと馬鹿にしていた晴康。


だが今回だけは違う。


エアコンをつける事も忘れて壁の前に立ち尽くす二人。

ぽっちゃりの晴康は流れ落ちる汗もそのままに、コンビニで見た光景を早口でまくしたてていた。


「おぉ、そか。でももう遅いわ」

「?」

「来んゾ」


コンコンコン。

ドアをノックする音。


蝉の大合唱が遠くに聞こえて来た。

それではまた…

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