あけおめ
毎日22時更新します…
大晦日。
林正徳はコーポの部屋で炬燵に入って一人テレビを見ていた。
お気に入り黒ジャージの部屋着。
夕方になって恒例の歌番組がスタート。
別に興味もないが子供の頃からのルーティンなのでチャンネルはそのまま。
炬燵の上に広げたノートへ何やら書き込む正徳。
シナリオも手書きのアナログ派。
ノートにはびっしりの文字&イラスト。
『神の使い……天使ではないキャラ』
『イメージはダークヒーローみたいな』
『鎧甲冑? 剣? 盾? 装備は』
『ボディメイクが必要か』等々。
イラストの絵は黒一色の西洋の騎士、マント付き。
中途半端に上手い。
どうやら自身のキャラ設定で真剣に悩んでいる模様。
大まかな見た目のイメージが固まってきたところで今度は活動目的について考え始めた。
普通は逆なのだが。
「さて、モーフェートを使って何しようかねぇ」
「人助け。イヤ……全く興味なし」
「征服者。それもピンと来ませんな……」
彼は困った。
正徳にはダラダラとシナリオを書く以外、人生に目的がなかったのだ。
何もしたい事が思い浮かばない。
ふと、台所に目をやる。
1Kの狭い間取りのそこにはウルフカットの男が無言で立っていた。
彼の名は高橋。
隣の部屋の住人だ。
二十代後半位で自称ミュージシャン。
正徳はそう認識している。
何故なら夜中まで下手なギターの練習をしたり、バンド仲間と思しき連中と「オレらの音バズらせてーわー!」とか叫んでいるから。
高橋の部屋はとにかくうるさい。
この薄い壁のコーポで。
たまに動画の配信のような事もやっているし、彼女が来れば昼夜問わずにセックス。
静かなのは仕事に行っている間だけ。
前に一度、夜中にずっと音楽をかけていたので正徳が壁を『コンコン』と小突いた事がある。
すると高橋はボリュームを上げて嫌がらせをしてきた。
そんな事して何になる? と思っただけでそれ以上行動に移す事はなかった正徳。
ただ、それだけのやり取りだった。
モーフェートの新スキル『操りマン』を手に入れると対人操作の実験台として、正徳は隣人を選んだ。
高橋はこの三日三晩、食べる事も、寝る事も、座る事すら許されず。
台所の片隅にただ〝木〟として立っているよう命令されていた。
顔は黒ずんで唇もガサガサ。
身体中が小刻みに震えて目は血走っている。
意識が鮮明だから空腹や眠気や苦痛から逃れられない。
排便排尿も出来ず最早生物の限界点を越えて立ち尽くす木、もとい高橋。
そんな彼をちら、と見た正徳。
閃いたのだ。
活動目的を。
自分はこの力を使って何がしたいのかを。
「まずは……っと」
『復讐』とノートに書き込んだ。
***
一月八日の昼。
のんびりと正月を過ごした正徳は事始めとしてこの日を選んだ。
活動の最初の基本コンセプトが決まり、今後のプランを三段階に分けて設定している。
こういった細かな準備が大好きな男。
まずファーストプランをこれから実行する。
高橋は大晦日の晩に解放した。
この世界から。
正徳はトキメキを隠せない。
自分がこれから遂行していく復讐ミッションを世間が知ると、一体どうなるのか。
世の中ひっくり返るんじゃないかと思うと、これまで感じた事のない高揚感でヒリヒリする。
彼の人生に〝ヒリヒリ〟が加わった。
「さてと! 始めましようかね」
それではまた…




