目的
毎日22時更新します…
室内はエアコンが効いている。
出された冷たい麦茶とスイカ。
ハルトは種ごと食べてしまった。
一息ついたミキナはシャワーを浴びてドライヤーで髪を乾かしている最中。
バスルームはバリアフリーになっていてハルトも入れるだろう。
脱衣室に彼女好みの花柄ロングスカートが用意してあったから汗だくの着衣は洗濯機に放り込んだ。
「お先に」
しっとりした感じでミキナが戻ると好物のカツカレーを食べ終えたハルトが風呂場へ。
カツカレーって。
そう言えばスキル使うとお腹空くよな、とミキナ。
二十畳の広いリビング。
壁一面が窓になっている。
L字型の革張りソファー。
ガラスのテーブルには彼女の大好きなメロンジュースとアップルタルトケーキ。
とにかく天井が高いハイセンスな平屋の一戸建て住宅。
主は三メートルの長身を器用に折り曲げてソファーに座っていた。
「ジュース飲みー」
リアルメェドゥギだ。
あの甲高い声の関西弁が空気を振るわせ伝わってくる。
「やっぱ、どっかで聞いた事あるんだけど。この声」
小首を傾げるミキナを零れ落ちそうな複眼で見つめながらメェドゥギが何やら呟いている。
「?」
ジュースを飲みながら耳をすます彼女。
「…………お疲れ。アン・カーシーお疲れ。王文お疲れ。モーゼス・アベベお疲れ。アレクセイ・ソコロフお疲れ。マリア・ペレスお疲れ。佐川しのぶお疲れ……」
「……ウソでしょ?」
漠然とだが。
ミキナは察した。
世界中の男女の名前をこのペースで呟いている。
お疲れ、と。
これはこの地球上で今、亡くなった人達の事を言っているのだ。
そしてそんな御業を為せるのは唯一無二の存在のみ。
「ちゃうでー」
「へっ?」
「勘のええ子やな。ただワイは神さんとちゃうで。近いけどな」
「……神様に近いの?」
ミキナは昂ぶる気持ちを抑えきれずにいた。
「私の右足、元に戻せる?」
「出来るけどやらへん」
「何でよッ!」
つい激昂してしまった十七歳女子をまたじっと見つめるメェドゥギ。
くすんだ青色外骨格の長い右手で天を指差してみせる。
「…………」
動かない。
少し不安になるミキナ。
前髪を弄り出す。
「あ……その、ゴメンなさい。つい」
一分程気まずい時間が流れて。
メェドゥギがようやっと手を下ろした。
「やっぱアカンて。オリジンが言うてる」
「へ? オリジン?」
「うん。ワイらはオリジンのコピーでアイツの決めた制約の中で活動してんねや」
「その、オリジンが神様?」
「ちゃうで。近いけどなー」
「どこにいるの?」
「この星以外のトコ」
考え込むミキナ。
このレベルのコピーを地球に送り込んでいる。
しかもコピーは複数体存在する。
「……活動の目的って何なの」
「その星の生態系の記録」
メェドゥギは一呼吸置いて答えた。
「と、山田くんの正しい使い方をレクチャーする事な」
***
神妙な面持ちでミキナの横に電動車椅子を停めて話を聞くハルト。
髪の毛がまだ少し濡れている。
「アンタ一体……何年前から居るの?」
「四億年やでー」
口がパカーとなったハルトの横でミキナが冷静にスマホ検索する。
「カンブリア爆発。節足動物が上陸始める。あ、スマホ使えるじゃん」
「まぁ、冬眠とか脱皮とかね。繰り返しながら四億年やらせてもらっとります」
ハルト、くすりと笑う。
「何の為に生態系の記録取んの?」
「それがオリジンの意志やから」
この質問が人間にあまり意味がないと判断したミキナ。
俗っぽく聞いてみる。
「アカシックレコードみたいなヤツかな」
「イメージとして方向性は合っとる。図書館やなくてネットワークのが近いわ」
「ネット……コピーが複数体いて情報収集活動してるってコトか」
「せや。十の十二乗体いてる」
数字の弱い彼女が遠い目になる。
「一兆だね」
メガネが光った。
ハルトは数学が得意らしい。
「……宇宙に地球みたいな星がそんなに?」
「逆に。こんな秘境に幻の山猿が、みたいなノリなんやけど」
「UMA扱いかよ」
頷くメェドゥギ。
それではまた…




