I島
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台風シーズンの東シナ海。
ミキナはフェリーの後部デッキに立ってショートボブの黒髪をなびかせていた。
高速船だから風は強い。
見渡す限りの青黒い海をモーターボート並みのスピードで突き進む。
何本もの白波の筋を残して。
まだ真夏の日差しだが日焼け対策も抜かりない。
前髪フルオープン状態。
大きめのリュックにノースリーブ。
マキシ丈白のキャミワンピに身を包んだ小柄な少女は船首像の女神の如く凛々しい。
今からI島のメェドゥギに会いに行く。
「用事あるから来て」と昆虫型巨人に彼氏みたいに呼ばれてから色々検討した結果。
週末を利用して一泊二日の予定で日本最果ての秘境を目指す事となった。
母の光恵は娘のひとり旅を快く了承。
朝昼晩定時連絡の条件付きで。
気持ち良心の呵責に苛まれるミキナ。
「KiNAちゃーん、スゲェ迫力!」
二基のプロペラが巻き起こす水流に興奮気味の町田ハルト。
痛車ではないノーマルの電動車椅子に乗っている。
今回の同伴に際してミキナが付けた唯一の条件〝痛車の使用禁止〟
他には目を瞑る事にした彼女。
ファッションセンスだけは相変わらずの彼。
テンガロンハットに白T、ジャージのハーフパンツに肩掛け鞄のメガネ男子。
両足には鎧のような下肢装具を装着。
よく見ると金属部分に『片翼』のシールがちょこんと貼ってある。
ちっちゃな抵抗しやがって……
口には出さずスルーするミキナ。
高校生の彼は両親を説得した上で今回の小旅行に参加していたのだ。
「意外とちゃんとしてる人」
彼女同様、メェドゥギから夢メッセージが届いたハルトから連絡が来て。
ミキナは少し悩んで同行を決めた。
迷ったのは彼の自立度に少し不安があったからだが、そんな心配一切必要ないと知る。
ハルトは生活の殆んどを自身で行えていた。
麻痺の具合もあるが幼い頃からの不屈のリハビリで獲得した能力だろう。
Tシャツの下には靭やかな筋肉が収納されている。
お互い始発電車に乗って駅で合流。
空港に着くと慌ただしく搭乗手続きを済ませて旅客機に乗り込み、三時間半で中継の島に到着。
空港から港までバスで三十分。
そして今、I島行きの高速船フェリー上にいる二人。
時刻は十三時を回っていた。
この数時間でミキナが驚かされた事。
それはハルトの持つコミュ力の高さだ。
周りの人達に臆する事なく実に賢く、そして堂々と自身が『どうしたいのか』を的確に伝えていく。
ここまで陸海空四つの交通機関を乗り継いで来たが途中一度も滞る事はなかった。
軽快なステップワークを見せる電動車椅子の後ろをちょこちょこついていくだけのミキナ。
ハルトの人間力には脱帽せざるを得ない。
「彼と比べると私は道端に転がる乾燥ウンコ」
自己肯定感が低いオタクの発想ではあるが、それなりに猛省したらしい。
剣指をハルトの前に突き出す。
「私のスキルに興味持たないの暗示。解除」
彼はぽん、となって彼女をじっと見ていたが。
何も言わなかった。
ミキナは少し照れた感じでリュックからビニール袋とペットボトル二本を取り出す。
「コレ……飛行機で持ち込み弁当食べたキリだったから」
笑顔で受け取るハルト。
袋の中は菓子パンが数個。
「何だーッ。手作りじゃないのか」
「ありがたく食え」
あと三十分程で目的の地に着く。
***
I島は曇りでどんよりとした空模様だった。
船着き場に雨避け屋根が付いた『ターミナル』を抜けると七十代位の顔立ちのしっかりした男性が迎えに来てくれていた。
「オーリタボーリ。いらっしゃい」
ミキナとハルトにとっては初八重山人だ。
「こんにちはーッ。予約した町田と小嶺です。宜しくお願いしまーす!」
「アガヤー、チャーガンジュウ。元気ですねー。旅館すぐそこだからね」
電動車椅子との距離を気遣いながら歩き出す主人。
ミキナはやはり後ろをついていく。
「お客さん一泊だけど。ツアーとか決めてるの?」
「知り合いのトコに行きまーす!」
元気に答えるハルト。
どうやって行けばいいか、わからないけど。
ミキナが心の中で突っ込む。
メェドゥギは「I島に来い」とアバウトに言ってきただけで場所の指定は一切なかったのだ。
それはハルトも同じであった。
ただ二人共〝彼はあそこにいる〟的なイメージは共有出来ていた。
何かで繋がっている感覚。
「え、山田……くん?」
ハルトが空を見上げながら呟く。
それではまた…




